薬剤師の働き方 公開日:2025.07.23 薬剤師の働き方

零売薬局とは?処方箋なしで医薬品の販売ができる条件や規制強化が進む背景を解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

零売薬局とは、処方箋医薬品以外の医療用医薬品を処方に基づかず販売することを営業の主たる目的として掲げる薬局のことです。本記事では、零売薬局の概要や、処方箋なしで販売できる医療用医薬品の販売条件、OTC医薬品との違いについて詳しく解説するとともに、零売薬局の規制強化が進む背景や、零売薬局のメリット・デメリット、零売薬局で薬剤師に求められる役割についてもお伝えします。

 

※本記事の内容は、執筆時(2025年6月)の情報をもとにしています。

1.零売薬局とは?

零売薬局とは、患者さんに処方箋なしで処方箋医薬品以外の医療用医薬品を販売することを主とする薬局のことです。
 
厚生労働省が公開している第1回医薬品の販売制度に関する検討会(2023年2月22日)の資料「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について」によると、2020年7月時点で医療用医薬品は約20,000品目あり、そのうち約7,000品目が「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」とされています。
 
また、同資料では、「零売」について以下のように説明しています。
 

「零売」とは(個々の顧客の求めに応じた)「分割販売」を意味する言葉であり、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品を処方に基づかず販売すること」を指す用語ではないが、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売を行う薬局等が、処方箋に基づかず医療用医薬品を販売することを指して「零売」と呼称している例が見受けられる

 
零売にはさまざまなルールや注意点があるため、医薬品販売のルールをしっかりと把握しておくことが大切です。

 

1-1.処方箋なしで販売できる医療用医薬品の販売条件

2025年の薬機法改正により、医療用医薬品は処方箋に基づく販売を原則とし、「やむを得ない場合」にのみ薬局での販売を認められることとなります。
 
厚生労働省の資料「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要」では、「やむを得ない場合」の具体例が、以下のように示されています。
 

医師の処方で服用している医療用医薬品が不測の事態で患者の手元になく、診療を受けられない、かつ一般用医薬品で代用できない場合 等

 
また、同資料では、漢方薬・ 生薬については、一般用医薬品から医療用医薬品に転用されてきた経緯を踏まえ、販売に支障がないよう対応することとされています。

 

1-2.処方箋なしで販売できる医療用医薬品とOTC医薬品の違い

ここで改めて、処方箋なしで販売できる医療用医薬品と市販薬の違いについて確認しましょう。
 
処方箋なしで販売できる医療用医薬品とは、前述の「やむを得ない場合」に該当する医療用医薬品のことといえます。
 
OTC医薬品(Over The Counter)とは、一般の人が自身の判断で購入・使用することができる医薬品で、市販薬とも呼ばれています。OTC医薬品の中には、処方箋なしで販売できる医療用医薬品と同じ有効成分が使用されているものがありますが、使用方法や注意事項などの記載内容は医療用医薬品と異なります。
 
医療用医薬品の添付文書は、医師や薬剤師などの医療従事者向けに作成されているのに対し、OTC医薬品は一般の人向けに作成されています。そのため、医療用医薬品と同じ有効成分を使用しているOTC医薬品の場合、医薬品の知識がない人でも理解できるように添付文書やパッケージなどの表記が工夫されています。
 
例えば、効能・効果の表記については、以下のような違いがあります。

 

■医療用医薬品と市販薬における「効能・効果」の表記の違い
医療用医薬品 OTC医薬品
医師の診断・治療による疾患名
 
【例】
● 胃潰瘍
● 十二指腸潰瘍
● 胃炎
一般の人が自ら判断できる症状
 
【例】
● 胃痛
● 胸やけ
● もたれ
● むかつき

 

医療用医薬品には特定の疾患名が記載されているのに対し、OTC医薬品では主に症状が表示されるという違いがあります。
 
また、OTC医薬品は医療用医薬品と比較して用量や服用回数などが厳しく制限されており、一般の人が安全に使用できるようになっています。
 
参考:医療用医薬品と一般用医薬品の比較について|厚生労働省

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2.零売薬局の規制強化が進む背景

医療用医薬品は、本来、医師の処方を受けて提供するものであり、零売が認められていたことを疑問に思う人もいるかもしれません。ここでは、零売が可能になった経緯や、2025年薬機法改正によって原則禁止となることについて解説します。

 

2-1.零売が可能になった経緯

零売の歴史は古く、主に薬局間で行う医薬品の分割販売のことを指していました。昔は、医薬品のパッケージが大包装のものしかなかったことから、薬局同士で医薬品を融通し合う零売が行われていたようです。
 
一般の人向けに処方箋なしで医療用医薬品が販売されるようになった背景として考えられるのが、2005年(平成17年)3月に厚生労働省医薬食品局長が通知した「処方せん医薬品等の取扱いについて」の内容です。
 
この通知には「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」について処方箋に基づく交付を原則としていることに加え、以下の内容が記載されています。
 

一般用医薬品の販売による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売を行わざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で、次に掲げる事項を遵守すること

 
この文言は、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」についてのみ記載されています。
 
2014年(平成26年)の法改正により薬局医薬品の取り扱いが変更になりましたが、「処方箋医薬品」「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」の考え方についての変更はありませんでした。
 
そうした経緯から、薬局では「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」に限り、零売が認められると解釈されてきたのです。
 
参考:処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について|厚生労働省
参考:第1回医薬品の販売制度に関する検討会 議事録|厚生労働省
参考:薬局医薬品の取扱いについて|厚生労働省

 

2-2.2025年薬機法改正によって零売が原則禁止に

先述のとおり、零売は2025年薬機法改正によって原則禁止になります。零売が改めて見直されたきっかけのひとつが、2017年(平成29年)6月9日の国会答弁です。
 
「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」が「処方箋なしで、本来、処方箋がなければ買えない薬が買えます」という謳い文句で販売されていたり、インターネットで大々的に広告を出していたりするケースが取り上げられ、零売を行う薬局へ適切な指導を行う流れとなりました
 
参考:処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について|厚生労働省
 
2022年(令和4年)8月5日には、厚生労働省より「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」が通知され、処方箋なしで医療用医薬品を販売する零売についてのルールや不適切な事例が明確化されています。
 
2025年薬機法改正で、医療用医薬品は処方箋に基づく販売が原則となりますが、衆議院厚生労働委員会、参議院厚生労働委員会で採択された附帯決議では、零売を行ってきた薬局が「国民の医薬品へのアクセスに一定の役割を果たしている」として、「過度な指導や規制により営業継続が困難となることのないよう、必要最小限かつ合理的な規制措置にとどめること」が求められています。
 
参考:第217回国会閣法第15号 附帯決議|衆議院
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(令和7年5月13日)|参議院

 
🔽 2025年薬機法改正について解説した記事はこちら

3.零売薬局のメリット・デメリット

2025年の法改正によって零売は原則禁止となりますが、前述の附帯決議でも触れられているように、零売薬局には一定のメリットもあったといえます。ここでは、零売薬局のメリットとデメリットについてお伝えします。

 

3-1.零売薬局のメリット

厚生労働省が公開している第1回医薬品の販売制度に関する検討会(2023年2月22日)の資料「零売に関する基本知識/日本零売薬局協会の取り組み」によると、患者さんから零売薬局へのよくある問い合わせとして、以下のような事例が紹介されています。
 

● 定期的に服用していた薬が切れてしまった
● 日曜日や祝日(特にゴールデンウィークや年末年始)で病院を受診できない

 

上記のようなケースにおいて、薬の専門家である薬剤師が、治療継続が必要と判断して零売をしたり、医療機関の受診まで服用中止を指示したりすることは、患者さんの安心につながるメリットがあったといえます。

 
しかしながら、患者さんの病状や服薬歴などは、かかりつけ薬剤師(薬局)や来局頻度の高い薬局が把握している傾向にあります。特に、かかりつけ薬剤師(薬局)はいつでも相談できる体制を整えているため、こういった判断や対応は、今後、かかりつけ薬剤師(薬局)等が中心となって実施することになるでしょう。

 
🔽 かかりつけ薬剤師(薬局)について解説した記事はこちら

 

3-2.零売薬局のデメリット

零売のデメリットや懸念点として、厚生労働省が2024年(令和6年)1月12日に公開した「医薬品の販売制度に関する検討会とりまとめ」では、以下のような内容が記載されています。

 

● 実態として、OTC医薬品の販売による対応が可能な場合や医師による診断が必要な場合においても、医師の診断を経ずに処方箋医薬品以外の医療用医薬品が販売されている例がみられる
● 「零売薬局」においては、その販売方法について、本来は診療が必要な疾病であってもあたかも医師の診断を経ずに医薬品を購入できると受け取れるような広告(「処方箋なしで病院のお薬が買えます」等)を行う等の事例もみられる
● 処方箋に基づく調剤やOTC医薬品の販売等、薬局に求められる業務を行わず、処方箋医薬品以外の医療用医薬品を処方箋によらずに販売することを薬局営業の主たる目的とするのは、薬局運営のあり方として不適切であるとの指摘もある
● 「零売薬局」において医療用医薬品のステロイド点眼薬が販売されている例がみられるが、眼圧上昇等の副作用のリスク等に鑑み、医師の関与なく販売されることについて懸念する意見がある

参考:医薬品の販売制度に関する検討会とりまとめ|厚生労働省

4.零売薬局の薬剤師に求められる役割

これまで零売薬局の薬剤師は、通常の調剤薬局とは異なり、患者さんの服薬・疾患履歴を詳しく確認しながら、適切な医薬品を選定する役割を担っていました。さまざまな情報をもとに、以下について判断することが、零売薬局の薬剤師には求められていたといえます。

 

● OTC医薬品または零売が可能な医療用医薬品で対応するか
● 医療機関への受診まで服薬を中止するか
● 救急での受診が必要か

 

そのため、零売薬局の薬剤師は、医療用医薬品やOTC医薬品、さらには疾患に関する幅広い知識の習得が必要です。今後は零売のできるケースが少なくなるため、2025年薬機法改正による影響を踏まえた対応が求められるでしょう。

5.零売薬局の今後

2025年の薬機法改正により零売が原則禁止となるため、零売を専門とする薬局は運営方針などを検討することが求められるでしょう。今後の法改正や業界の動向を注視し、適切な対応を考えることが重要となります。

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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。