薬剤師のスキルアップ 公開日:2024.03.21 薬剤師のスキルアップ

処方カスケードとポリファーマシーの関係とは?薬剤師が処方カスケードに対処するための方法も解説

文:篠原奨規(薬剤師ライター)

薬剤師として従事していると「処方カスケード」という用語を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。高齢者が陥りやすい「処方カスケード」は、超高齢社会となった日本が抱える医療問題の一つであり、薬剤師として慎重に対処すべき課題です。この記事では、「処方カスケード」の概要や「ポリファーマシー」との関係について解説するとともに、薬剤師が「処方カスケード」に対処するために気をつけておくべきことや対処法についてお伝えします。

1.処方カスケードとは

そもそも、「処方カスケード」は、どのような医療問題なのでしょうか。まずは、処方カスケードの概要とポリファーマシーとの関係について解説します。

 

1-1.処方カスケードの概要

処方カスケードとは、服用薬によって生じた有害事象を新たな病状と誤認して、他の薬で対処するために処方が連鎖的に増えてしまう状況です。次々と連なるように処方される様子を「小さな連なる滝」を意味する「カスケード」という用語で表しています。

副作用に対処するために追加処方された薬によってさらに別の副作用が起きたり、薬剤間の相互作用が生じたりすることで、有害事象が起きやすくなるといった負の連鎖が生じているのです。

 

1-2.処方カスケードとポリファーマシーの関係

高齢者における服薬の問題点として、ポリファーマシーがあります。ポリファーマシーとは多剤服用が原因で、薬物有害事象や、飲み忘れ、飲み間違いといったさまざまな問題が起きることを指します。服用薬による有害事象を別の薬で対処する「処方カスケード」によって薬の数が増えれば、ポリファーマシーを招くことになるでしょう。つまり、処方カスケードはポリファーマシーを引き起こす原因の一つと言えます。

 
🔽 ポリファーマシーについて詳しく解説した記事はこちら

2.処方カスケードが起きる原因

ではなぜ、処方カスケードが起きてしまうのでしょうか。代表的なものとして、以下のような原因が考えられます。

 

2-1.副作用を新しい疾患と思い込み、薬が追加されてしまう

一般的に歳を重ねるほど、体のさまざまな機能が低下し、生活習慣病をはじめとした複数の疾患を発症しやすい傾向です。そのため、高齢患者さんが不調を訴えて受診した際、すでに処方されている薬の副作用であるにもかかわらず、医師や薬剤師が「加齢による新しい疾患のはず」と思い込み、薬を追加してしまうケースが考えられます。

 

2-2.複数の医療機関から薬を処方されている場合に服用薬の把握が難しい

上述したとおり、高齢の患者さんは多病になりやすい傾向にあります。さまざまな不調に対し、複数の診療科や医療機関を受診し、それぞれから薬を処方されるケースも少なくありません。
 
このとき、医療機関同士の連携がうまくできていなかったり、お薬手帳がうまく活用されていなかったりすると、医師や薬剤師は服用中の薬を把握することが難しくなります。服用薬が把握できなければ、副作用を疑うことも難しく、患者さんの訴える症状に対して新たな薬を処方することになるでしょう。結果として、処方カスケードに至ることがあります。

3.処方カスケードに対処するために薬剤師が気をつけるべきこと

薬剤師が処方カスケードに対処するためには、どのような点に気をつければよいのでしょうか。

 

3-1.お薬手帳やかかりつけ薬局の活用を促し服用薬を一元管理する

服用薬を一元管理することで、医師や薬剤師が把握しやすくなり、処方カスケードの予防につながります。服用薬の一元管理にはお薬手帳やかかりつけ薬局の活用が有効です。
 
お薬手帳を活用することで、患者さん自身もどんな薬を服用しているか把握しやすくなるでしょう。冊子タイプのお薬手帳の場合、持参するのを忘れてしまう患者さんもいます。そうした場合には、電子お薬手帳の活用を勧めるのもよいでしょう。スマートフォンに服用薬を記録できるため、お薬手帳の持ち忘れを防止できます。

また、患者さんにかかりつけ薬局としての利用を推進することも、薬の一元管理に効果的です。処方薬に限らず、市販薬やサプリメントの服用状況をかかりつけ薬局で管理することで、処方カスケードに気づきやすくなるでしょう。

 

3-2.副作用について説明をしっかり行う

患者さんが薬の副作用を理解できるように、服薬指導を丁寧に行うことも重要です。副作用の初期症状について分かりやすく説明し、体調変化があれば薬局へ相談するように伝えましょう。また、別の医療機関を受診する際には、お薬手帳を持参するように伝えることも大切です。患者さんのご家族やヘルパーなど患者さん以外の方が薬の管理を行っている場合には、薬を管理している方に情報共有しておきましょう。

 
🔽 服薬指導について詳しく解説した記事はこちら

 

3-3.服薬フォローアップを活用してコミュニケーションを取る

処方カスケードに対処するには、患者さんが薬剤師に相談しやすいように信頼関係を築く必要があります。そのための手段として、服薬フォローアップを活用するとよいでしょう。服薬フォローアップとは、患者さんの来局時だけではなく、薬の服用期間中に、電話等で患者さんとコミュニケーションを継続的に取ることです。服薬フォローアップにより、コミュニケーションの機会が増えれば、信頼関係が構築されやすいでしょう。

また服薬フォローアップは、服薬状況の確認ができるため、副作用の早期発見・早期対応にも効果的です。厚生労働省の提供する「薬局薬剤師に関する基礎資料」によると、薬局薬剤師が実際に服薬フォローアップの必要性があると思われる患者さんの特徴には、以下のような点が挙げられています。

 

● 薬剤変更(用法用量、後発医薬品への変更も)があった患者さん
● 服薬コンプライアンスが不良な患者さん
● 手技を伴う薬剤(吸入剤、点鼻剤、注射剤等)を処方された患者さん
● 特に副作用に注意すべき薬剤(抗がん剤等)を処方された患者さん

 

上記のようなケースでは、特に留意して服薬フォローアップを行うとよいでしょう。その際、副作用と思われる症状の訴えがあれば、医師と連携し適切に対処することで処方カスケードの防止につながります。

4.薬剤師ができる処方カスケードへの対処法と具体例を紹介

では、実際に「処方カスケード」だと思われる処方せんを受け取った際には、どのように対処すればよいのでしょうか。薬剤師が行うべき対処法とともに、処方カスケードの具体例を挙げ、介入するポイントを解説します。

 

4-1.処方カスケードのパターンを理解し、処方鑑査をする

処方カスケードに至る流れは、患者さんの疾患や服用薬、生活習慣などによりさまざまです。しかし、処方カスケードが起こりやすい薬や疾患にはいくつかのパターンがあります。処方カスケードに至りやすいパターンを理解し、処方鑑査に生かしましょう。

具体的には、日本老年医学会が作成している「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」の「特に慎重な投与を要する薬物」のリストが参考になります。高齢者において重篤な副作用が出やすい薬や、副作用の頻度が高い薬が紹介されており、処方せんに挙がった際には慎重にチェックするとよいでしょう。服薬状況を確認し、副作用が起きていないか、処方カスケードが起きていないかを疑ってみましょう。

 

4-2.トレーシングレポートを活用して医師へ情報提供を行う

処方カスケードが疑われるケースでは、薬の減量・中止について医師へ伝えることが大切です。その際、活用したいのがトレーシングレポートです。
 
トレーシングレポートは、薬剤師から医師への情報共有するためのツールであり、緊急性が低いものの医師へ情報提供する必要があると薬剤師が判断した場合に使用します。トレーシングレポートを作成する際には、厚生労働省や各医療機関が作成しているフォーマットを使用するとよいでしょう。トレーシングレポートの書き方やポイントについては以下の記事を参考にしてください。

 
🔽 トレーシングレポートについて解説した記事はこちら

 

4-3.処方カスケードの具体例

処方カスケードが起きている一例を、厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針」より紹介します。

 

複数医療機関・薬局の受診により処方カスケードを生じた事例

【処方カスケードの内容】
医療機関Aから処方されたリセドロン酸の副作用として食欲不振が生じ、医療機関Bを受診。
医療機関Bから処方されたBPSD治療薬・催眠鎮静薬の副作用として便秘が生じ、医療機関Cを受診。

【処方内容】
医療機関A)
ニフェジピン徐放錠20mg
レバミピド錠100mg
ゾルピデム錠5mg
リセドロン酸錠17.5mg

医療機関B)
六君子湯
ドネペジルOD錠5mg
ランソプラゾール錠15mg
クエチアピン錠100mg
ブロチゾラムOD錠0.25mg
ラメルテオン錠8mg

医療機関C)
酸化マグネシウム錠750mg
トリアゾラム錠0.125mg

【介入のポイント】
かかりつけ医に処方確認・見直しを依頼。
食欲不振の原因を薬の副作用と考え、リセドロン酸とドネペジルを中止。
「高齢者に特に慎重な投与を要する薬物」であるブロチゾラム、ゾルピデム、トリアゾラム、クエチアピンの減量を行い、不眠に対して別の抗うつ薬で対応。

【介入の結果】
食欲不振と便秘症状は改善し、六君子湯やレバミピドを中止、酸化マグネシウムが減量となった。

【介入後の処方】
ニフェジピン徐放錠20mg
ランソプラゾールOD錠15mg
テルミサルタン錠20mg
酸化マグネシウム錠500mg
ミアンセリン錠10mg
エスシタロプラム錠10mg

5.服薬フォローアップを行いながら、処方カスケードに対処しよう

処方カスケードは、「ポリファーマシー」の原因の一つとなります。薬剤師として処方カスケードに対処するには、患者さんにお薬手帳やかかりつけ薬局の活用を勧めながら、服用薬の一元管理を推進することが大切です。医師や薬剤師が服用薬を把握しやすくなれば、処方カスケードの予防につながります。
 
また、薬が増量・変更になったときや、副作用の起こりやすい薬が処方されているときには、服薬フォローアップを行い、副作用の発生状況を把握することも大切です。処方カスケードのリスクを理解し、対応できる薬剤師としてスキルアップに努めましょう。


執筆/篠原奨規

2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。