腎臓病薬物療法認定薬剤師は、腎領域に関する幅広い知識や技能を持つ薬剤師を認定する資格です。本記事では、腎臓病薬物療法認定薬剤師について、概要や仕事内容をお伝えするとともに、新規・更新するための条件について解説します。加えて、試験内容や参考テキスト、上位資格の腎臓病薬物療法専門薬剤師についても見ていきましょう。
1.腎臓病薬物療法認定薬剤師とは?
腎臓病薬物療法認定薬剤師とは、一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会が実施する認定制度です。腎臓病や透析、慢性腎臓病(CKD)、腎移植など、腎臓に関わる幅広い知識や技能を兼ね備えているとともに、学術活動や研究活動の実績がある薬剤師を認定します。
参照:腎臓病薬物療法専門(認定)薬剤師認定制度について|一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会
2024年9月時点の認定者数は216名で、一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会のホームページから名簿が確認できます。
参照:腎臓病薬物療法認定薬剤師認定者|一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会
2.腎臓病薬物療法認定薬剤師の仕事内容
腎臓病薬物療法認定薬剤師の主な仕事は、腎臓に関わる疾患の薬物療法が適正に実施されるように、医師や看護師などの医療関係者に情報提供をしたり、処方の提案や助言をしたりすることです。
また、腎臓病の患者さんの中には、糖尿病や高血圧症といった生活習慣病や、心血管疾患を合併している人もいます。そのため、腎臓病薬物療法認定薬剤師は全身をトータルに管理する知見が求められます。
加えて、患者さんの薬物治療だけでなく生活面のサポートをすることも大切な仕事です。食事の管理や、過労・ストレスを避けるための生活上の注意点などを患者さんやその家族、医療関係者に周知することも重要な役割となります。
3.腎臓病薬物療法認定薬剤師になるには
腎臓病薬物療法認定薬剤師になるには、認定条件をクリアし、試験に合格する必要があります。ここでは、認定条件や申請方法、試験問題、参考となるテキストなどについて解説します。

3-1.認定条件
腎臓病薬物療法認定薬剤師の認定条件は以下のとおりです。
資格 | ● 日本国の薬剤師免許を有し、薬剤師としての優れた人格および識見を備えていること ● 申請時において3年以上日本腎臓病薬物療法学会の会員であること ● 認定試験(筆記試験)に合格した者 |
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経歴 | ● 薬剤師歴5年以上(医療機関での常勤並み勤務歴の通算) ● 直近2年間は常勤並みの継続勤務が必要 |
学会発表 | 以下のような全国レベルの学会や関連する国際学会で、腎臓病薬物療法に関する学会発表が申請年の直近10年間で3回以上あり、そのうち少なくとも1回は筆頭発表者であること ● 日本腎臓病薬物療法学会(日本腎と薬剤研究会も含む) ● 日本腎臓学会 ● 日本透析医学会 ● 日本医療薬学会 ● 日本薬剤師会学術大会 など |
症例報告 | ● 申請時に直近5年間の15自験例を提出すること ※なお、学術雑誌でacceptされた申請者を筆頭著者とする症例報告は、認定期間中にacceptされたことを証明する書類を提出すれば、1報に限り自験例として扱える(日本腎臓病薬物療法学会誌またはRenal Replacement Therapy誌であれば症例報告1報と自験例5例、それ以外の学術雑誌であれば症例報告1報と自験例10例を要件とする) |
研修単位 | 日本腎臓病薬物療法学会が示す単位基準の修得単位が、受験年の直近3年間で12単位以上 |
認定期間 | 5年 |
参照:認定資格と更新資格|一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会
3-2.申請方法
腎臓病薬物療法認定薬剤師になるためには、まず書類審査をクリアすることが必要です。書類審査に合格した人が筆記試験に進めます。
書類審査の申請は、以下の書類のPDFデータを電子メールで送付します。
● 日本腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師認定更新申請資料1<学会発表歴>
● 学会発表に関する講演集・要旨集の表紙および発表用要旨の該当ページの写し
※申請資料1に記載の発表番号を右上に記載、申請者の氏名をマーカー
● 日本腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師認定更新申請資料2<薬剤師歴>
※数カ所になる場合は該当数分提出
● 推薦状
※所属長の役職記載必須
● 書類審査料の納入写し
● 日本腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師認定更新申請資料3<単位履修証明>
● 単位履修証明書
※単位は5年間自身で管理して、事務局の指示があった場合は原本を提出する
※単位の不正が発覚した場合、ただちに認定を取り消す
● 日本腎臓病薬物療法学会専門薬剤師認定更新申請資料5<自験例に関する誓約書>
● 認定薬剤師の認定資格における自験例・症例記載
メールの件名とファイルタイトルが指定されているので、提出前に「腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師の案内」を確認しましょう。
なお、書類審査の合格者が筆記試験を受験できるため、筆記試験の受験料は書類審査を通過した後に振り込むこととされています。
参照:腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師 – 腎臓病薬物療法専門薬剤師認定制度 | 一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会|一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会
参照:2024年 腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師の認定に係る案内(新規)|一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会
3-3.試験問題・テキスト
2024年の腎臓病薬物療法認定薬剤師の筆記試験は、出題形式が多肢選択方式で、全100問が出題されます。
出題範囲は「薬剤師がチーム医療・地域医療において腎領域における薬物療法に貢献するために求められる医療薬学分野」とされており、参考テキストとして以下が提示されています。
● インタビューフォーム
● 日本腎臓病薬物療法学会編『腎臓病薬物療法ガイドブック 腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師テキスト 第2版』じほう
● 平田純生ら編著『透析患者への投薬ガイドブック 改訂第3版』じほう
● 日本腎臓学会編『CKD診療ガイドライン 2023』東京医学社
● 透析療法合同専門委員会編『血液浄化療法ハンドブック 2024』協同医書出版社
● 大野能之ら編著『薬トレ 肝・腎』南山堂
● 日本腎臓学会および透析医学会等の各種薬物療法に関係するガイドライン など
参照:2024年 腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師の認定に係る案内(新規)|一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会
3-4.合格率と難易度
日本腎臓病薬物療法学会のホームページでは、腎臓病薬物療法認定薬剤師の合格率は公表されていません。合否判定は、自験例と筆記試験の総合評価で決定されます。
参照:2024年 腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師の認定に係る案内(新規)|一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会
腎臓病薬物療法認定薬剤師の認定条件には、3年以上日本腎臓病薬物療法学会の会員であることや全国レベルの学会・国際学会での発表などが含まれています。長期にわたり腎領域の専門性を高めることが求められており、取得難易度は高いといえるでしょう。
4.腎臓病薬物療法認定薬剤師の更新方法
腎臓病薬物療法認定薬剤師の更新については、経歴や研修単位に関して新規申請とは異なる要件が提示されています。

4-1.更新条件
腎臓病薬物療法認定薬剤師の更新資格は以下のとおりです。
資格 | ● 日本国の薬剤師免許を有し、薬剤師としての優れた人格および識見を備えていること ● 継続的に日本腎臓病薬物療法学会の会員であること |
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経歴 | 認定薬剤師として腎臓病薬物療法に貢献した活動履歴を提出すること |
学会発表 | 以下のような全国レベルの学会や関連する国際学会で、腎臓病薬物療法に関する学会発表が、更新年の直近5年間で1回以上(筆頭発表者)あること ● 日本腎臓病薬物療法学会 ● 日本腎臓学会 ● 日本透析医学会 ● 日本医療薬学会 ● 日本薬剤師会学術大会 など |
症例報告 | ● 直近5年間の15自験例を提出すること ※なお、学術雑誌でacceptされた申請者を筆頭著者とする症例報告は、認定期間中にacceptされたことを証明する書類を提出すれば、1報に限り自験例として扱える(日本腎臓病薬物療法学会誌またはRenal Replacement Therapy誌であれば症例報告1報と自験例5例、それ以外の学術雑誌であれば症例報告1報と自験例10例を要件とする) |
研修単位 | ● 日本腎臓病薬物療法学会が指定する指定講演を2回以上受講していること ● 日本腎臓病薬物療法学会が示す単位基準の修得単位が、更新年の直近5年間(認定終了日からさかのぼって5年間)で16単位以上あること ※日本腎臓病薬物療法学会主催の学術集会への参加に係る単位の合計が3単位以上、かつ毎年1単位以上履修していること(2020年はなくてもよい) |
参照:2024年 腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師の更新に係る案内|一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会
4-2.申請方法
更新申請も電子メールで行います。更新申請に必要な書類は以下のとおりです。
● 日本腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師認定更新申請資料1<学会発表歴>
● 学会発表に関する講演集・要旨集の表紙および発表用要旨の該当ページのコピー
※書式1に記載の発表番号を右上に記載、申請者の氏名をマーカー
● 日本腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師認定更新申請資料2<単位履修証明>
● 単位履修証明書
● 指定講演参加証明書(2枚以上)
● 日本腎臓病薬物療法学会認定薬剤師認定更新申請資料3<自験例に関する誓約書>
● 認定薬剤師の認定資格における自験例・症例記載
● 日本腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師認定更新申請資料4<活動履歴>(書式自由)
● 書類審査料の納入写し
新規申請と同様に、メール件名やファイルタイトルが指定されているため、決められた形式で申請しましょう。
また、更新時は筆記試験がありません。書類審査の合格により腎臓病薬物治療認定薬剤師の資格更新ができます。
参照:腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師 – 腎臓病薬物療法専門薬剤師認定制度 | 一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会|一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会
参照:2024年 腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師の更新に係る案内|一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会
5.上位資格の「腎臓病薬物療法専門薬剤師」とは?
腎臓病薬物療法専門薬剤師は、認定薬剤師と同様に腎臓病薬物療法に関する十分な知識と技術が必要です。加えて、質の高い薬物療法を行うために実務、教育、研究に従事していることが求められており、この点が認定薬剤師との大きな違いといえます。
腎臓病薬物療法専門薬剤師になるには、認定薬剤師として腎領域の薬物療法などに3年以上携わっている必要があります。
また、全国レベルの学会や関連する国際学会の筆頭発表者を2回以上、学術論文の筆頭著者を1編以上など、研究者としての実績が求められているのも特徴です。
さらに、申請時において腎臓病薬物療法学会の会員であることも必要とされています。
参照:腎臓病薬物療法専門(認定)薬剤師認定制度について|一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会
参照:2024年 腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師の認定に係る案内(新規)|一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会

6.腎臓病薬物療法認定薬剤師の資格取得にチャレンジするには
腎臓病薬物療法認定薬剤師は、難易度の高い資格です。学会発表や症例報告などが認定要件に入っていることから、資格を取得するためには腎領域の薬物治療に携わる必要があります。腎疾患の患者さんや医師、医療チームなどに関わる機会が多く、学会発表や学術論文の投稿、症例報告ができる環境にある薬剤師は、腎臓病薬物療法認定薬剤師の資格取得にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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