インタビュー 公開日:2025.08.18 インタビュー

 

薬剤師・薬局の仕事は、一般の利用者の立場からは分かりにくい部分も多いかもしれません。薬剤師・薬局に関する素朴な疑問について、薬剤師さんに詳しく解説してもらいました!

 

薬剤師が「ありがたい!」と思う患者さんってどんな人?

 

混雑時、他者への思い遣りを見せてくれる患者さん……その優しさには薬剤師も心から救われます

病院が混んでいると、薬局での待ち時間もどうしても長くなってしまいます。私たち薬剤師は、安全性を確保しつつ、1秒でも早く薬をお渡しできるよう努めていますが、「いつまで待たせるんだ」とクレームをいただき、その対応でさらに調剤が遅れるという悪循環に陥ってしまうことも……。

 

かつて、私が過疎地の病院に勤務していた時のことです。今は患者さんの足はデマンド型タクシー(自宅から行きたい場所まで運んでくれる自治体運営のタクシー)に代わりましたが、以前は週に1度だけ地域と病院を結ぶ「患者バス」が運行されており、多くの患者さんがそれに乗って通院していました。バスの出発時刻は決まっているので、診察が長引いたり薬局が混んでいたりすると、患者さんは乗り遅れてしまうこともありました(そうした時はタクシーを利用するしかありませんでした)。

 

安全な薬をお渡しするには、処方箋の確認や調剤にどうしても時間がかかります。「早くお渡ししたい」という気持ちと、「間違いは許されない」という専門職としてのプレッシャーとの板挟みで、私だけでなく薬剤師は皆、神経がピリピリしていたと思います。それでも帰りのバスの出発時刻が迫ると、「バスの時間だから急いでもらえる?」という声が飛ぶことも日常茶飯事でした。

 

ところが、そうした切迫した状況になると、「私は息子が迎えに来るから大丈夫です。バスの人たちを先にしてあげてください」などと言ってくれる方が現れるのです。それも、決して一人ではありませんでした。

 

その優しい声に、張り詰めていた薬局内の空気がふっと和らぎます。思い遣りは周囲に伝播して、患者さん同士で「お互い様だからね」とうなずいてくださるような、温かい一体感が生まれることもありました

 

こうした一言に、薬局薬剤師たちはどれだけ救われることか。おかげさまで、たいていの場合、バス組の方々の調剤や薬の説明に集中でき、結果的に他の方々への対応もスムーズに進むという好循環になっていきました。

 

順番を譲っていただいたことによる時間的な問題の解消だけでなく、その気持ち自体が、私たち薬剤師が落ち着いて本来の業務に集中するための何よりの力になりました。それはまさに「地域の輪」に支えられているような感覚でした。

 

病院や薬局に来られる方は、体調が優れず、周りを気遣う余裕がないのは当たり前です。決して、順番を譲っていただくことをお願いするものではありません。ただ、患者さん同士の温かい心遣いに触れた時、私たちは心から感謝し、「もっと頑張ろう」という大きな力をもらっているということです。

患者さんへの対応から
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執筆/藤野紗衣(ふじの さえ)

東北大学薬学部卒業後、ドラッグストアや精神科病院、一般病院に勤務。現在はライターとして医療系編集プロダクション・ナレッジリングのメンバー。専門知識を一般の方に分かりやすく伝える、薬剤師をはじめ働く人を支えることを念頭に、医療関連のコラムや解説記事、取材記事の制作に携わっている。
ウェブサイト:https://www.knowledge-ring.jp/