第56回 鶴原伸尚 先生
近年、かかりつけ薬局が地域の患者さんの服薬情報の一元的管理を行い、医療費の適正化に寄与することが求められています。多剤・重複投薬の防止や残薬解消への取り組み、患者さんの薬物療法における安全性・有効性を保つなど、地域のなかで薬剤師が活躍する機会はますます増えるでしょう。
今回は「地域に根差した薬局」の薬剤師として患者さんに寄り添い、健康維持や改善に貢献している鶴原伸尚先生にお話をうかがいました。全5回のシリーズです。
第53回で“少人数体制で在宅医療を実践できる理由”についてお伝えしましたが、普段から患者さんとの信頼関係をしっかり築いておくことも、その一つといえます。
これから在宅医療を始めようとしている方のなかには、例えば「在宅に出るのは外来の患者さんが少ない水、木曜日の午後14時から17時の間。だから、その時間帯にヘルプ要員として派遣薬剤師を入れてもらえるよう、本社にお願いしよう」といった計画を思い描いている方がいるかもしれません。
ですが、こうしたシステマチックな考えに基づいて外来業務と在宅業務を両立させようとしても、なかなかうまくいかないのが現状です。最初の契約のときには、「その曜日・その時間帯には家にいて薬剤師さんが来るのを待っていますね」という話になるかもしれませんが、ご家族の都合や利用しているデイサービスなどの関係で計画通りにいかなくなることもあります。逆に薬剤師の方も、訪問を計画している時間帯に外来が混み合ってしまって、時間通りに出発することが難しくなるかもしれません。
そこで大切なのは普段の服薬指導などにおけるコミュニケーションを介し、しっかりと信頼関係を築いておくことです。例えば電話一本で「今日は17時からの約束だったけれど、娘夫婦が急に遊びに来るから15時からでもいいかしら」あるいは「前の患者さんとのお話が長引いてしまったので、30分遅れて行っても大丈夫ですか?」など、時間の調整ができる関係。お互いに話をしやすい関係を築くことで、“隙間の時間”を活用した在宅医療を実践しやすくなるでしょう。
外来業務と在宅業務の両立は、予定通りに実践することが難しい場合がしばしばあります。ですから、いざ在宅医療を始めたときに時間や人のやりくりで困らないようにするためにも、普段の薬局でのコミュニケーションを大切にして、患者さん一人ひとりとの信頼関係をしっかりと積み重ねていくことを意識していきましょう。
それがひいては患者さん自身がストレスなく、気持ちよく在宅医療を受けることに役立っていきます。
現在、保険薬局は在宅医療へ介入することを社会から強く求められています。
それに応えようと懸命に努力をしている薬剤師の方も多くいるかと思いますが、まずは目の前にいる患者さんのために、現在の業務に真摯に取り組んでいきませんか。
例えば地域に根差し、その地域に暮らす人たちから親しまれているクリニックの医師を思い浮かべてみてください。
私が一番に思い浮かべる耳鼻科の医師は、常に「患者さんはどうしたら喜んでくれるだろうか」ということを念頭において治療にあたっています。めまいが肩こりから起きていると判断すれば、神経ブロックなど専門外のことでも勉強し、患者さんのために尽力しているのです。
薬剤師もこのように、自分の薬局を選んで通ってくれる患者さんのことを常に考えながら日々の業務に取り組むこと。それこそが患者さんに誠実に向き合うことになるのだと思います。
そしてこのような思いで患者さんに向き合っていれば、おのずと“在宅医療に介入するタイミング”はやってきます。なぜなら、薬局に通ってくださる患者さんの変化を見守っていると、自然に「ああ、在宅でのフォローをしていかないといけないな」という時期が訪れるからです。それこそが、患者さんのためになる“本当の在宅医療”なのだと考えます。
私たち薬剤師の仕事は、ただ薬を正しく渡すことだけではなく、“患者さんに喜んでもらい、元気を一緒に渡すこと”です。
患者さんに喜んでもらうこと、必要とされていることを常に考えながら日々の仕事に真摯に取り組みましょう。そうすることで、“必要とされる薬剤師”であり続けられると思います。
患者さんから頼りにされる薬局薬剤師を目指し、患者さんへの医療機関の紹介、ノルディックウォークの普及を行う。在宅医療などの取り組みを通し、薬剤師と患者さんの間に「ありがとう」の言葉が飛び交う薬局として、地域医療に貢献している。