製薬大手がこぞって参戦‐抗体薬物複合体開発が活性化
日本発に期待
癌に注力する製薬大手が、次世代抗体医薬品の抗体薬物複合体(ADC)の自社開発を急いでいる。第一三共とエーザイは、自社技術で仕上げたADCを臨床入りさせ、日本発ADCの実用化を目指す。一方、武田薬品とアステラス製薬は米国ベンチャーから技術を導入して開発を進める。抗体医薬で出遅れた日本の製薬企業だが、ADCは得意の有機合成技術を生かせる領域でもあり、巻き返しを図っている。
自社技術が先行‐第一三共、エーザイ
抗体と低分子薬剤(ペイロード)をリンカーで結合させたADCは、従来の抗体医薬品では難しかった標的細胞内に侵入し、薬効を作用させるのが特徴で、癌細胞に対して単剤療法で高い抗腫瘍効果を示す。単独では使えない殺細胞性の高い薬物を使うことで、低用量投与で有効性が期待できるだけではなく、癌細胞特異的な送達性を持つ抗体を結合し、高用量で投与できる可能性もある。既に数品目が世界で上市されており、十数品目が開発中。2020年に市場規模が68億ドルまで拡大するとの調査結果もある。
国内製薬企業は、ADC技術を持つ海外企業との提携を通じて、ADC製品のパイプライン導入や自社創薬にも乗り出していたが、自社でペイロードやリンカーを構築するなど開発が花盛りだ。第一三共は、急性骨髄性白血病(AML)フランチャイズとADCフランチャイズの二つを重点領域に癌領域を強化している。ADCで最も開発が先行しているのが抗HER2-ADC「DS-8201」だ。抗HER2抗体「トラスツズマブ」とペイロードを結合するためのリンカー、ペイロードにはエキサテカン誘導体のトポイソメラーゼI阻害剤を自社で構築し、チューブリン阻害剤をペイロードに用いる従来のADCに比べ、薬物抗体比を2倍に高めた。
抗HER2-ADC「カドサイラ」で耐性を示す乳癌患者を対象とした第I相試験では、カドサイラに比べ良好な有効性が確認された。カドサイラ治療歴のある乳癌、トラスツズマブによる治療経験のある胃癌、HER2の発現量が低い癌患者での開発を進め、免疫チェックポイント阻害剤との併用療法も検討する予定だ。
抗HER3-ADC「U3-1402」についても、HER3陽性の乳癌患者を対象とした国内第I/II相試験を開始しており、六つのADC開発パイプラインのうち、2品目を臨床入りさせている。
国内3工場で、ADCの生産ラインを順次増設し、21年までにバイオ医薬品の生産規模を現在の3倍以上にする計画も発表。ADCに関しては自社技術によるパイプラインを強化しており、製造面についても国内での治験薬製造、商用生産体制を増強している。
エーザイもADC開発で自社へのこだわりが強い。抗体、リンカー、ペイロードの全てを自社技術で創製した抗葉酸受容体アルファ(FRA)のADC「MORAb-202」を今年度臨床入りさせる計画だ。07年に買収した米子会社「モルフォテック」が開発中の抗FRA抗体「ファレツズマブ」に、自社のリンカー技術を用いてエリブリン(製品名:ハラヴェン)を結合させたADCだ。
販売中のハラヴェンの臨床用量に比べ、わずか約5分の1の量で優れた有効性と安全性を持つ可能性が、非臨床データから示唆されている。転移性トリプルネガティブ乳癌を目標適応症とするほか、自社で保有するペイロードを生かしたADCの受託ビジネスなど、ADCに関する様々な事業展開も視野に入れている。
他社技術を導入‐武田、アステラス
武田薬品は、癌領域で癌免疫療法と、癌細胞に直接作用する次世代抗体技術としてADCの二つにフォーカスし、研究開発を進めている。外部資源を活用するオープンイノベーションを標榜する中、既に米シアトル・ジェネンティクスと共同開発した非ホジキンリンパ腫治療薬の抗CD30ADC「アドセトリス」をグローバルで販売し、ブロックバスター製品への育成を図っている。
シアトルに加え、イムノジェンとは新規ADC技術を導入し、共同研究を進める。さらに昨年2月には、癌領域に特化したベンチャー「メルサナ・セラピューティクス」からHER2陽性癌を対象としたADC「XMT-1522」の共同開発権と北米以外の販売権を取得。「XMT-1522」は、メルサナが開発したADCの基盤技術「フレキシマー技術」に基づくADCで、HER2の発現が見られる乳癌、胃癌、非小細胞肺癌などの腫瘍を対象としている。米国で第I相がスタートしている。
アステラス製薬も他社技術を導入し、臨床開発パイプラインのADCを5種類も保有する。最も先行しているのがENPP3を標的とした「AGS-16C3F」で腎細胞癌を対象に第II相試験を進行中。そのほか、シアトルと共同開発中のネクチン-4を標的としたADC「ASG-22ME」では、転移性尿路上皮癌適応で第I相試験を実施しており、今後免疫チェックポイント阻害剤の治療歴のある患者での申請を見据えた開発計画を検討している。非小細胞肺癌や卵巣癌を含め、ネクチン-4発現癌での適応拡大も目指す。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
製薬大手企業が抗体薬物複合体(ADC)の自社開発を急いでいるというニュース。第一三共とエーザイは日本発ADCの実用化を目指し、武田薬品とアステラス製薬も米国ベンチャーの技術を導入して開発を進めているということです。