創薬・臨床試験

トヨタの生産管理ノウハウ、製薬企業の製造現場に提案

薬+読 編集部からのコメント

製薬企業の製造現場で、他業種の生産ノウハウを取り入れて生産性向上をめざす動きが広まってきました。
トヨタ自動車の製造現場経験者らがコンサルティングするOJTソリューションズなどが参入していますが、GMP規制を遵守しつつ、製造効率を高める工夫が必要とされています。

製造の効率化が必要な製薬企業の医薬品製造現場だが、経営サイドには異業種のノウハウを取り入れ、製造プロセスを最適化し、生産性の向上を図る動きが出てきた。ただ、GMP規制に準拠した品質管理が求められる中、製造プロセスの変更に対して、現場のスタッフには少なからず心理的な抵抗もあるようだ。トヨタ自動車の製造現場経験者によるコンサルティング業務を手がけるOJTソリューションズによると、顧客である製薬企業の製造現場で作業員に現状の問題点を指摘し、改善点を提案する際に「その方法だとGMPに違反する可能性があるのでできない」と即答されることが少なくないという。同社のシニアコーディネーターの浅井司氏は、「新しい作業プロセスの導入をためらうのも、GMPを大義名分にしている面があるのではないか。もっと生産性は上げられる」と述べ、マネジメント側と作業員側でコスト改善の意識共有が必要との認識を示した。


コスト意識の共有で生産性は上げられる

 

OJTソリューションズでは、トヨタの自動車製造に長年携わってきた管理監督者が生産、品質、原価管理等に課題を抱えている顧客に対して、実際に職場を訪問。マネジメント側と製造現場側の両方のアプローチで、いかに製造の稼働率を上げて原価を下げるかという観点から、問題の解決策を顧客と議論していく。国際競争の激しい自動車製造大手であるトヨタの生産コスト改善に対する意識を現場のスタッフに浸透させ、自ら改善できる人材育成をしており、業界業種問わず幅広く顧客を抱えている。

 

製薬企業も研究開発費の増加、新薬の特許切れ、薬価引き下げなどの危機感から、GMPを遵守しつつ、製造の効率性を高めていく必要性は高まり、製造コストの削減も重要課題だ。GMP逸脱へのリスクや、製造プロセスの変更に要する手続きの煩雑さもあり、及び腰になってしまう企業も多くある。

 

どういった障害があるのか。現場側と管理側が一体となった取り組みを行える環境になっていないことだ。トップダウンによる最適な意思決定が大事となる中、浅井氏は「製薬企業の場合、研究開発や営業出身者で、そもそも製造を理解していない人材が製造部長や課長に就任することがある」とマネジメント体制を問題視する。稼働率や生産量といった数字だけが一人歩きし、現場との意思疎通が取れず、本当の問題がどこにあるのかが分からないまま、取り組みが行われ、現場が疲弊するのだという。

 

トラブル対応などの危機管理にも現れているのだという。何かトラブルがあって製造ラインが止まった場合、トヨタの管理者は真っ先に現場に駆けつけ、トラブルの原因をくまなく探るよう教育されている。しかし、製薬企業の場合に顕著なのが、管理者が稼働率などのデータ入力や資料作製などに追われ、現場に行かないというケースだ。製造ラインが止まったまま現場のスタッフは何もできず、無駄なコストが大幅に生じてしまう弊害を生む。浅井氏は、「管理者はまず、現場で何が起きているのかを自分の目で見てほしい」と訴える。

 

コミュニケーション不足という課題もある。製造工程ごとに作業部屋が区切られていることが、現場のスタッフの情報共有や管理者への業務改善の提案や議論を妨げている要因にもなっているという。浅井氏は具体的方策として、従業員の通路や更衣室などに、スタッフから管理者への提案を記載できる「管理ボード」の設置といったコミュニケーション上の工夫も必要とし、「スタッフの提案件数が増えることで、様々な問題点が浮き彫りになり、職場が改善することもある」と語る。

 

多量少品種から少量多品種の医薬品製造にシフトしている中で工場の稼働率を考える際に、「同一製品を大量に製造していれば大きな売上を上げられた過去の成功体験が、何か起こったときに対応できない要因にもなっていると思う。少量多品種になるほど、切り替えの頻度も上がり、人が介在することが多くなる」と警鐘を鳴らす。「最新の設備や高速のラインの導入など、ハード面ばかりに目が行きがちだが、人が介在する作業で生じるトラブルに目を向けるべき」とソフト面での運用を考える必要性を指摘。現場とマネジメントが危機感を共有すべきと提言する。

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出典:薬事日報

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