第77回 岡村 祐聡先生
「薬歴を書く時間がない」「毎回同じことしか書けない」「薬歴に書けるような話を患者さんから聞き出せない」……。
薬剤師の業務には欠かせない薬歴管理ですが、実はこのような悩みを抱えながら仕事を続けている方も多いのではないでしょうか。
今回は、薬剤師の担うべき医療を質高く実践するための理論と方法論である「服薬ケア」を構築し、その普及に尽力している岡村祐聡先生に、患者さんを中心とした「質の高い服薬指導」と「薬歴記載の方法」をうかがいました。
カウンターでの話をなかなか切り上げてくれない患者さん。混雑時は順番を待っている他の患者さんの目もありますし、困ってしまいますね。そんなとき、どうしたら患者さんに満足していただき、かつ、お話を短く切り上げていただくことができるのでしょうか
患者さんに「忙しい」ことを察してもらおうと、ついやってしまいがちな対応のなかでも、特に逆効果なのは次の3つです。
- 時計をちらちらと見て、早く切り上げてほしいことをアピールする
- 患者さんの肩越しに待合室を見て、混んでいることを遠回しに伝えようとする
- わざと他の患者さんの処方箋を受け取ったり、挨拶をしたりして他の仕事があることを伝えようとする
話が長くなりがちな患者さんの多くは、他の患者さんが待っていることは百も承知だけれど、それでも自分の話を聞いてほしいと感じています。そのような思いを抱える患者さんに対し、いかにも話を聞いていないような態度で応対しては「この人は私の話を聞いてくれない」「わかってくれないなら、もっとちゃんとわかるように話をしなくては」と、さらに話が長くなってしまいます。
このような場合には、次の3つを実践してみてください。
- まず最初に、その方の話を集中してしっかり聞く。(せめて3~5分間程度はしっかりと聞きましょう)
- お話をしっかり聞いた後、「他の患者さんが大勢待っていて、今はゆっくりお話を聞く時間がない」ことを率直に伝える
- 「今は時間がないので、薬局が空いている●時頃に改めて話をしに来てほしい」と伝える
以上です。
短い時間であっても自分の話を聞いてもらえた患者さんは、ある程度の満足感を得ることができます。その上で「今は話を聞けないけれど、時間があるときにまた話を聞きたい」と伝えられれば、多くの患者さんはそれをネガティブには受け取らないはずです。「それなら仕方ないですね」と、その場での話には一区切りつけられることが多いでしょう。もちろん、約束の時間に再び患者さんが来られた際には、絶対に嫌な顔などせずに、来てくださったことを大喜びして、お話を最後まで聞いて差し上げてください。
お話が長くなりがちな患者さんから、効率よく情報収集をするためのコツがもう一つあります。それは、「はい」、「いいえ」で答えられる“閉じた質問”と、自分の考えを述べてもらう“開いた質問”を使い分けることです。
もし、コミュニケーションを学んだことがある方なら、“開いた質問”、“閉じた質問”という言葉をご存じだと思います。よく「“開いた質問”がよくて、“閉じた質問”はよくない質問である」と覚えている方がいらっしゃるのですが、それは間違いです。状況に応じて使い分けることが大切なのです。
話が長い患者さんには、“閉じた質問”で事実関係はハッキリさせます。説明が長くなりそうなところで、“閉じた質問”によって、要点を絞り込んでいくのです。話が長い患者さんに“開いた質問”を使うと、もっと長くなって、収拾がつかなくなります。“閉じた質問”と“開いた質問”の割合は8:2から9:1くらいのつもりでいてください。逆に、あまり話をしてくれない患者さんに対しては、要所要所で“開いた質問”をするとよいでしょう。(ただしいきなり開いた質問をぶつけてしまうと、何を話して良いかわからず、逆に話してくれなくなってしまいますので、注意してください)
このように服薬ケアを実践していくと、患者さんにとって核心をついた、本当に必要な医療を提供できるようになります。ホテルでのサービスのように相手(お客さま、患者さん)から「聞きたい」「知りたい」と思われていることを「聞かれる前に伝えられる」ことが、最もよいサービスであり、それは医療も同様です。
服薬ケアの実践を通じ、患者さんのための「最高のケア」を提供できる薬剤師を目指しましょう。