AI創薬に本格参入へ~癌ワクチンを欧米で治験
日本電気(NEC)は、人工知能(AI)を活用した創薬事業に本格参入する。昨年10月に提携を発表した仏トランスジーンと、頭頸部癌・卵巣癌を対象に癌抗原を標的とした個別化ネオアンチゲンワクチン「TG4050」を共同開発する。米国や英国、フランスなどで年内にも治験を開始する計画だ。癌患者から採取した検体について、AIを使って癌の目印となる癌抗原を突き止め、患者ごとに個別化ネオアンチゲンワクチンを開発する。NEC執行役員の藤川修氏は、27日に都内で記者会見し、「癌を中心とした創薬企業になり、2025年には創薬事業として3000億円の事業価値(開発パイプラインの価値)を目指したい」と語った。
NECでは新規事業に着手しており、その一つとして創薬事業に本格参入する。山口大学や高知大学との癌創薬研究に取り組んでいるほか、16年12月にはAIを活用して癌治療用ペプチドワクチンを開発するバイオベンチャー「サイトリミック」を設立している。さらに昨年10月には、トランスジーンと癌抗原を標的としたワクチン「ネオアンチゲンワクチン」の共同開発に合意した。ネオアンチゲンワクチンの開発は日本企業では初という。
藤川氏は、「他のIT企業ではITツールを用いて、創薬支援事業を手がけるケースが多い。われわれは他社とは一線を画し、AIエンジンやITツールを用いて自ら薬を創り、患者に届けていきたい」と述べた。
個別化ネオアンチゲンワクチンは、患者一人ひとりの異なる癌抗原に対応した個別化ワクチンである。トランスジーンが患者から検体を採取し、癌細胞と正常細胞を比較することで、癌細胞だけに特異的な癌抗原を検出。NECのAIが多数の癌抗原候補から、体内の免疫系が認識しやすい有望な癌抗原候補を選定した後、提携先のトランスジーンが癌抗原を標的としたワクチンとして合成する。従来の創薬手法では癌抗原を見つけるのは困難だったが、NECではAIを使うことで将来的に検体採取からワクチン合成まで1カ月で行えるようにする。
現在、米国では卵巣癌を対象とした「TG4050」の治験実施許可を取得しており、フランスでは頭頸部癌と卵巣癌、英国では頭頸部癌の治験実施に関する申請を行っている段階だ。事業化に向けては他社との提携も検討していく。「TG4050」の適応症拡大やそれ以外の開発品での治験に加え、国内での治験も実施していきたい考えだ。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
発表以来、大きな話題となる日本電気(NEC=本社・東京都港区)の創薬事業本格参入ですが、NECは昨秋に提携を発表した仏トランスジーンとともに頭頚部癌、卵巣癌を対象に癌抗原を標的としたワクチンの共同開発に乗り出します。これまでもIT企業が創薬支援事業を手がけるケースは見られましたが、NECの藤川執行委員は「われわれは他社とは一線を画し、AIエンジンやITツールを用いて自ら薬を創り、患者に届けていきたい」と強い意欲を述べており、将来的には検体採取からワクチン合成までを1カ月で行う計画です。