薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
抗インフルエンザ薬一覧表つき
毎年冬に流行する感染症、インフルエンザ。“ウイルスによる感染症”という位置付となった1850年前後から、おおよそ10年~40年の周期で世界的に大きな流行を繰り返しており、2009年にH1N1新型鳥インフルエンザが発現してから10年が経過しようとしています。この先いつ新型インフルエンザが発生し感染者が増大するか予断を許さない状況といえるでしょう。今回は第102回薬剤師国家試験問題の問186を使い、インフルエンザ感染に関して再確認していきます。
【過去問題】
問186(病態・薬物治療)
インフルエンザの病態、診断及び治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 1インフルエンザウイルスは、A、B、Cの3つの型に分類され、いずれもヒトに感染して典型的なインフルエンザ症状を発症させる。
- 2インフルエンザによる死亡率が最も高い年代は、15歳以下の子供である。
- 3迅速診断には、鼻腔・咽頭ぬぐい液を用いた酵素免疫測定法が用いられる。
- 4インフルエンザを発症した小児の解熱には、アセトアミノフェンは推奨されない。
- 5慢性呼吸器疾患などのハイリスク患者にはオセルタミビルの予防内服が認められている。
3、5
解説
- 1:誤
インフルエンザの分類:A、B、Cの3種類
ヒトへの感染:3種類ともあり
典型的なインフルエンザ症状の発症(急激な発熱、関節痛など):A、B ※Cは上気道炎症状 - 2:誤
死亡率が高いのは65歳以上の高齢者(特に85歳以上)で、15歳以下が高いのは罹患率(特に5歳~9歳)です。 - 3:正
検体:鼻腔ぬぐい液(陽性率約80%~90%)、咽頭ぬぐい液(陽性率約60%~80%)、鼻腔吸引液(陽性率約90%~95%)、鼻かみ液(陽性率約80%~85%)
測定原理:抗原抗体反応
発色方法:酵素免疫測定法、金コロイド法 - 4:誤
インフルエンザを発症した小児の解熱にはアセトアミノフェン製剤が推奨されます。解熱作用を有するNSAID類特にアスピリンは小児(15歳未満)に使用すると、ライ症候群を発症する可能性が高まるため使用しません。 - 5:正
予防投与が認められている薬剤:オセルタミビル・ザナミビル・ラニナミビルのノイラミニダーゼ阻害薬
予防投与が認められている患者の背景:原則として、インフルエンザ感染症を発症している患者の同居家族または共同生活者であり下記条件を満たす者
・高齢者(65歳以上)・慢性呼吸器疾患または慢性心疾患患者・代謝性疾患患者(糖尿病)
・腎機能障害患者
– 実務での活かし方 –
最初にインフルエンザの基本的構造を確認します。
まず、インフルエンザウイルスにはA型~C型があります(新型インフルエンザとなりうるのはA型のみ)。A型は、ウイルス表面に2種類糖鎖(HA:ヘマグルチニン:ウイルスが細胞内へ侵入する際に結合)16種類(H1~16)と、NA:ノイラミニダーゼ:ウイルス(細胞内で増殖し細胞外へ遊離する際に利用)9種類(N1~9)が存在し、この組み合わせによって144種類(HA16種×NA9種=144種類)の亜型に分類されます。(例:2009年のパンデミックウイルス(H1N1)、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)など)
表1で、これまでの新型インフルエンザの発現時期と周期を確認します。
年代 | 原因ウイルス | 通称 |
---|---|---|
1918年-1919年 | H1N1ウイルス | スペインインフルエンザ |
39年 | ||
1957年-1958年 | H2N2ウイルス | アジアインフルエンザ |
11年 | ||
1968年-1969年 | H3N2ウイルス | 香港インフルエンザ |
41年 | ||
2009年-2010年 | H5N1ウイルス | 高病原性鳥インフルエンザ |
? | ||
2013年? | H7N9ウイルス | 鳥インフルエンザ※ |
続いて表2で、国が定める新型インフルエンザなどの定義を確認します。
新型インフルエンザの定義とは、ヒトからヒトへの感染が確認され、免疫の獲得がなく急速に感染が拡大し、生命の維持に関わるもの、という内容。再興型インフルエンザの場合は、以前感染が流行したインフルエンザのなかで、免疫を獲得できていない人々が多く急速に感染が拡大し、生命の維持に関わるインフルエンザと定義されています。
新型インフルエンザの発現に備えて、国では平成17年から段階的に備蓄を開始しています。抗インフルエンザ薬備蓄に関しては、平成17年当初はタミフルのみで国民の23%にあたる2,500万人分の備蓄であったものが、平成28年には抗インフルエンザ薬が4種類に増え、備蓄人口も国民の45%にあたる5,600万人にまで増えています。(表3)
表3
平成17年 | |
---|---|
薬剤 | タミフル |
国 | 1,050万人 |
都道府県 | 1,050万人 |
流通 | 400万人 |
合計 | 2,500万人 |
平成28年 | |||
---|---|---|---|
タミフル | リレンザ | ラピアクタ | イナビル |
930万人 | 349万人 | 116万人 | 930万人 |
930万人 | 349万人 | 116万人 | 930万人 |
150万人 | 50万人 | 400万人 | 400万人 |
2,260万人 | 848万人 | 282万人 | 2,260万人 |
平成29年 | 計 |
---|---|
アビガン | |
2,325万人 | |
2,325万人 | |
1,000万人 | |
200万人 | 5,650万人 |
出典:厚生労働省ホームページ
続いて表4に、現在日本で使用可能な抗インフルエンザ薬を一覧にしました。
作 用 機 序 |
薬剤名 | 投与方法 | 適応 | 治療期間 | 予防 | |
---|---|---|---|---|---|---|
M2タンパク阻害薬 | 塩酸アマンタジン | 経口 | A型インフルエンザ | 1日2回 5日間 | 1日1回 7~10日間 | |
ノイラミニダーゼ 阻害薬 |
オセルタミビル | 経口 | A・B型インフルエンザ | 1日2回 5日間 | 1日1回 10日間 | |
ザナミビル | 吸入 | A・B型インフルエンザ | 1日2回 5日間 | 1日1回 10日間 | ||
ラニナミビル | 吸入 | A・B型インフルエンザ | 単回 | 1日1回 2日間 | ||
ぺラミビル | 静注 | A・B型インフルエンザ | 単回 | なし | ||
RNAポリメラーゼ 阻害薬 |
アビガン | 経口 | 新型・再興型インフルエンザ | 1日2回※2日目以降用量変化あり 5日間 | なし |
表4に記載しましたが、一般に使用できるのは5種類あり、そのなかでA・B型インフルエンザに有効な薬剤は4種類。剤型としては経口薬1種類、吸入薬2種類、静注薬1種類があり、さまざまな角度から感染患者に対応できるようになっています。
ただ、抗インフルエンザウイルス薬として初めて発売されたオセルタミビルは、使用過多ともいえる弊害で、2008年ノルウェーにてオセルタミビル耐性のインフルエンザウイルスが流行したことも…。このオセルタミビル耐性インフルエンザは、ウイルス表面のノイラミニダーゼタンパクの立体構造が変異して抗インフルエンザ薬が結合しづらくなるウイルスで、ノイラミニダーゼ構造の薬剤に結合する部位が類似しているぺラミビルにも耐性を持ちます。
事例
新型インフルエンザ等の感染拡大防止のため、国では特別措置法が平成25年6月から施行されています。しかしその基本的姿勢は、新型ウイルスの国内侵入が確認された場合にのみ発動するというもの。水際対策として侵入を遅らせ、公衆衛生的介入によって感染拡大の抑制に努めることで、流行規模の平坦化、ワクチンの早期開発・生産・接種を行い、流行のピークをコントロールするまでにとどまります。
インフルエンザウイルスの感染拡大プロセスは、感染した細胞内で遺伝子を複製し、増殖・放出することで、他の細胞に感染するというもの。現在、主に治療に用いられている 抗インフルエンザウイルス薬(オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、ペラミビル)はノイラミニダーゼ阻害薬であり、これらの薬の作用機序は「インフルエンザウイルスを細胞内に閉じ込め、その放出を阻害して感染の拡大を防ぐ」ため、発症から48時間以内(2日以内)に投与しなければ効果がありませんでした。これに対してファビピラビルは、「ウイルスが細胞内でRNAを複製することを阻害することで増殖を防ぐ」という新しいメカニズムを有するRNAポリメラーゼ阻害薬です。RNAポリメラーゼが阻害されれば、インフルエンザウイルスの遺伝子(RNA)を新しく作れないため、インフルエンザウイルスの増殖を抑制できます。そのため、薬の投与開始が遅れ病状が進んだ状態であっても、ウイルス量を減少させる効果を得ることができます。(表5参照)
表5
このようにファビピラビルは、まったく新しい作用機序により新型インフルエンザ感染への治療が期待できます。承認時には厚労相の要請なしに製造、販売できませんでしたが、現在ではパンデミックの発生など緊急時に迅速な出荷を可能とするため、厚生労働大臣の要請がなくても製造できるようになりました。
ちなみに、このファビピラビルは2013年の12月にギニアで始まり大流行した致死性の高い感染症エボラ出血熱の治療薬としても注目されています。
原因となるエボラウイルスは、インフルエンザウイルスと同じRNAウイルスであり、このウイルスに対するワクチンは未だ存在せず、有効な治療法も確立されていません。欧米の研究者による動物実験で、ファビピラビルがインフルエンザ以外に、ウエストナイル熱をはじめとするさまざまなRNAウイルスに効果があることが示され、2014年に入ってからエボラウイルスを感染させたマウスに対する有効性が報告されました。
また、最近ではマダニが媒介するウイルス感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」に、ファビピラビルが有効であることをマウスの実験で確かめたと、厚生労働省研究班のチームが報告しています。SFTSは西日本で患者が多く、6%~30%が死亡する深刻な感染症にも関わらず、有効な治療法がありませんでした。今まで治療法が確立されていなかった感染症に効果が期待できる薬剤ではありますが、むやみに使い過ぎてしまえば更なる強力な感染症を生み出すことになります。適正適切に慎重な使用方法を啓蒙していく必要性があるでしょう。