1.薬剤師国家試験の合格基準
薬剤師国家試験の合格基準は、「得点に関する基準」と「足切り基準」の2つが定められています。詳しく見ていきましょう。
1-1.得点に関する基準
薬剤師国家試験の得点に関する基準は以下のように定められています。
● 必須問題について、全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれ配点の30%以上であること。
薬剤師国家試験では、得点に関する基準とは別に、足切り基準が設けられています。続いて、足切り基準について見ていきましょう。
1-2.薬剤師国家試験の足切り基準
薬剤師国家試験の足切り基準は、第104回(2019年)から採用されています。足切り基準が導入されたのは、以下のような点について誤った知識を持つ受験生を判別することが目的です。
● 倫理的に誤った内容
● 患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容
● 法律に抵触する内容
これらに関する設問は禁忌肢と呼ばれ、一定数以上選択した場合、合格点をクリアしても不合格となります。
ただし、禁忌肢については、偶発的な理由で薬剤師の適性がある受験生が不合格とならないよう配慮して作成することが原則となっています。
2.薬剤師国家試験の概要
薬剤師国家試験は、各試験科目について必須問題と一般問題(薬学理論問題、薬学実践問題)が出題されます。ここでは、試験形式や試験内容、試験スケジュールについてお伝えします。
2-1.試験形式
薬剤師国家試験の出題形式は、基本的には正しい答えを選択する形式となっており、以下のパターンで出題されます。
● 正しい答えが複数ある形式
● 解答肢の組み合わせの中から正しいものを選択する形式
2024年時点では、問いに対して文章で答える記述問題はありません。厚生労働省「薬剤師国家試験出題基準」によると、必須問題については、一問一答かつ五肢択一形式で出題され、正しい解答や正誤の組み合わせを選択する形式は出題されないことになっています。
参照:薬剤師国家試験出題基準|厚生労働省
また、正しいものまたは正しい組み合わせを答える問題が中心となっており、解答が複数当てはまる場合には正解数を明記することが基本とされています。
そのほか、問題解決能力を評価するために、1つの事例について複数の問題が出題されたり、実務に関する問題では写真や画像、イラストなどが活用されたりします。
2-2.試験内容
薬剤師国家試験の試験科目と各問題数は、以下のように定められています。
科目 | 必須問題 | 一般問題 | ||
薬学理論問題 | 薬学実践問題 | 一般問題合計 | ||
物理、化学、生物 | 15問 | 30問 | 15問 (複合問題) |
45問 |
衛生 | 10問 | 20問 | 10問 (複合問題) |
30問 |
薬理 | 15問 | 15問 | 10問 (複合問題) |
25問 |
薬剤 | 15問 | 15問 | 10問 (複合問題) |
25問 |
病態、薬物治療 | 15問 | 15問 | 10問 (複合問題) |
25問 |
法規、制度、倫理 | 10問 | 10問 | 10問 (複合問題) |
20問 |
実務 | 10問 | ― | 20問+65問 (複合問題) |
85問 |
出題総数 | 90問 | 105問 | 150問 | 255問 |
※複合問題とは、「実務」以外の各科目と「実務」とを関連させた問題のこと
必須問題と一般問題には、それぞれ出題する目的が定められています。
● 一般問題:薬剤師が直面する一般的な課題を解釈・解決するための資質を確認するもの
一般問題は薬学理論問題と薬学実践問題に分かれており、それぞれ以下の目的で出題されます。
薬学理論問題
|
各科目における技能・態度を含む薬学の理論に基づくもの。 | |||
薬学実践問題
|
実務で直面する一般的な課題を解決するための基礎力、実践力および総合力を確認するためのもの。症例、事例を挙げるといった実践に則した問題とする。 |
時間 | 問題区分および科目 | |
第1日 | 9:30~11:00 | 必須問題試験 (物理・化学・生物、衛生、薬理、薬剤、病態・薬物治療、法規・制度・倫理、実務) |
12:30~15:00 | 一般問題試験(薬学理論問題) (物理・化学・生物、衛生、法規・制度・倫理) |
|
15:50~17:45 | 一般問題試験(薬学理論問題) (薬理、薬剤、病態・薬物治療) |
|
第2日 | 9:30~11:35 | 一般問題試験(薬学実践問題) (物理・化学・生物、衛生)【実務】※ |
13:00~14:40 | 一般問題試験(薬学実践問題) (薬理、薬剤)【実務】※ |
|
15:30~18:00 | 一般問題試験(薬学実践問題) (病態・薬物治療、法規・制度・倫理、実務)【実務】※ |
※【実務】は、実務以外の科目と関連させた複合問題として出題されるもの
3.第109回薬剤師国家試験の合格者数と合格率
第109回薬剤師国家試験の男女別、国公私立別の合格者数・合格率についてお伝えします。
参照:第109回薬剤師国家試験の合格発表を行いました|厚生労働省
3-1.【男女別】合格者数と合格率
第109回薬剤師国家試験は、受験者総数が13585人、男性受験者は5,179人、女性受験者は8,406人でした。男女別の合格者数と合格率は以下のとおりです。
男女計 | 男性 | 女性 | |
全体 | 9,296人 | 3,362人 | 5,934人 |
6年制新卒 | 7,100人 | 2,531人 | 4,569人 |
6年制既卒 | 2,103人 | 782人 | 1,321人 |
その他 | 93人 | 49人 | 44人 |
※その他:旧4年制卒、外国の薬学校を卒業した人、または2006年4月1日以降に4年制の薬学課程に入学した人
参照:第109回薬剤師国家試験の結果について|厚生労働省
男女計 | 男性 | 女性 | |
全体 | 68.43% | 64.92% | 70.59% |
6年制新卒 | 84.36% | 84.45% | 84.31% |
6年制既卒 | 42.42% | 38.05% | 45.52% |
その他 | 43.87% | 38.58% | 51.76% |
※その他:旧4年制卒、外国の薬学校を卒業した人、または2006年4月1日以降に4年制の薬学課程に入学した人
参照:第109回薬剤師国家試験の結果について|厚生労働省
男性と比べて、女性の受験者が多いこともあり、合格者数は女性の方が多くなっています。
合格率は、6年制新卒については男女差はほとんどありませんが、6年制既卒やその他については、女性の方がやや合格率が高い傾向にあります。
3-2.【国公私立別】合格者数と合格率
国公私立別の受験者数は、国立が462人、公立が367人、私立が7,587人でした。合格者数と合格率は以下のとおりです。
国立 | 公立 | 私立 | |
全体 | 514人 | 353人 | 8,428人 |
6年制新卒 | 416人 | 333人 | 6,351人 |
6年制既卒 | 36人 | 12人 | 2,055人 |
その他 | 62人 | 8人 | 22人 |
※その他:旧4年制卒、外国の薬学校を卒業した人、または2006年4月1日以降に4年制の薬学課程に入学した人
参照:第109回薬剤師国家試験の結果について|厚生労働省
国立 | 公立 | 私立 | |
全体 | 83.85% | 85.68% | 67.11% |
6年制新卒 | 90.04% | 90.74% | 83.71% |
6年制既卒 | 57.14% | 36.36% | 42.28% |
その他 | 70.45% | 66.67% | 20% |
※その他:旧4年制卒、外国の薬学校を卒業した人、または2006年4月1日以降に4年制の薬学課程に入学した人
参照:第109回薬剤師国家試験の結果について|厚生労働省
国公立の合格率が約84%に対して、私立は約67%となっており、合格率に差が見られます。6年制新卒、6年制既卒の合格率についても、私立と比べて国公立は10%弱高い値となりました。
その他については、国公立が約68%の合格率である一方、私立は約20%と大きく下回っています。
🔽 薬剤師国家試験の合格率について詳しく解説した記事はこちら
3-3.合格点(ボーダー)
2024年の第109回薬剤師国家試験のボーダー(合格点)は、345点換算で210点でした。
参照:第109回薬剤師国家試験合格基準及び正答について|厚生労働省
薬剤師国家試験の合格点は「平均点と標準偏差を用いた相対基準により設定」されます。
また、合格するには「必須問題について、全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれ配点の30%以上であること」、「禁忌肢問題※選択数が2問以下であること」も条件です。
※薬剤師には、医療人としての高い倫理観と使命感が求められることにかんがみ、薬剤師として選択すべきでない選択肢(いわゆる「禁忌肢」)を含む問題
参照:薬剤師国家試験のあり方に関する基本方針|厚生労働省
🔽 2024年「第109回薬剤師国家試験」の結果を詳しく紹介した記事はこちら
4.薬剤師国家試験の過去の合格者数と合格率
薬学部の6年制に入学した学生が最初に受験した薬剤師国家試験が、2012年に実施された第97回薬剤師国家試験です。ここでは、第97回から第109回までの合格者数と合格率の推移について紹介します。
4-1.過去の合格者数の推移
まずは、2012年から2024年までの薬剤師国家試験の合格者数の推移を見てみましょう。
試験回(年) | 全体 | 6年制 | その他 | |
新卒 | 既卒 | |||
第109回 (2024年) |
9,296人 | 7,100人 | 2,103人 | 93人 |
第108回 (2023年) |
9,602人 | 7,254人 | 2,267人 | 81人 |
第107回 (2022年) |
9,607人 | 7,386人 | 2,126人 | 95人 |
第106回 (2021年) |
9,634人 | 7,452人 | 2,079人 | 103人 |
第105回 (2020年) |
9,958人 | 7,795人 | 2,050人 | 113人 |
第104回 (2019年) |
10,194人 | 8,129人 | 1,950人 | 115人 |
第103回 (2018年) |
9,584人 | 7,304人 | 2,151人 | 129人 |
第102回 (2017年) |
9,479人 | 7,052人 | 2,295人 | 132人 |
第101回 (2016年) |
11,488人 | 7,108人 | 4,201人 | 179人 |
第100回 (2015年) |
9,044人 | 6,136人 | 2,794人 | 114人 |
第99回 (2014年) |
7,312人 | 6,219人 | 1,003人 | 90人 |
第98回 (2013年) |
8,929人 | 8,221人 | 605人 | 103人 |
第97回 (2012年) |
8,641人 | 8,182人 | – | 459人 |
参照:厚生労働省「第109回薬剤師国家試験の結果について」をもとに作成
第102~109回までは、合格者数はおおむね1万人前後となっていますが、第101回より前の薬剤師国家試験では合格者数が1万人を大きく超えたり、9,000人を下回ったりしており、合格者数に差が見られます。
4-2.過去の合格率の推移
続いて、2012年から2024年までの合格率の推移を見てみましょう。
試験回(年) | 全体 | 6年制 | その他 | |
新卒 | 既卒 | |||
第109回 (2024年) |
68.43% | 84.36% | 42.42% | 43.87% |
第108回 (2023年) |
69.00% | 84.86% | 44.05% | 36.65% |
第107回 (2022年) |
68.02% | 85.24% | 40.75% | 39.26% |
第106回 (2021年) |
68.66% | 85.55% | 41.29% | 36.14% |
第105回 (2020年) |
69.58% | 84.78% | 42.67% | 36.10% |
第104回 (2019年) |
70.91% | 85.50% | 43.07% | 33.72% |
第103回 (2018年) |
70.58% | 84.87% | 47.00% | 32.58% |
第102回 (2017年) |
71.58% | 85.06% | 50.83% | 30.21% |
第101回 (2016年) |
76.85% | 86.24% | 67.92% | 34.29% |
第100回 (2015年) |
63.17% | 72.65% | 53.12% | 18.69% |
第99回 (2014年) |
60.84% | 70.49% | 39.85% | 13.24% |
第98回 (2013年) |
79.10% | 85.09% | 67.52% | 14.09% |
第97回 (2012年) |
88.31% | 95.33% | – | 38.19% |
参照:厚生労働省「試験回次別合格者数の推移」をもとに作成
第102~109回までの合格率はおおむね70%前後となっており、ここ数年は安定した合格率となっています。第101回より以前は合格率が約60~90%と幅広く、一定でなかったことが分かります。
4-3.過去の合格点(ボーダー)の推移
続いて、相対基準による合格基準が導入された2016年(第101回)から2024年までのボーダー(合格点)の推移を紹介します。
前述のとおり、合格基準を満たすには、下記の合格点以上であることに加え、必須問題と禁忌肢(第104回以降)の条件もクリアする必要があります。
試験年 | 合格点 |
---|---|
第109回 (2024年) |
210点 |
第108回 (2023年) |
235点 |
第107回 (2022年) |
217点 |
第106回 (2021年) |
215点 |
第105回 (2020年) |
213点 |
第104回 (2019年) |
225点 |
第103回 (2018年) |
217点 |
第102回 (2017年) |
217点 |
第101回 (2016年) |
223点 |
各年の試験の難易度によってばらつきはあるものの、近年の合格点(ボーダー)は、345点換算で210点台~230点台で推移しています。
5.第110回薬剤師国家試験の概要
第110回薬剤師国家試験は、2025年(令和7年)2月22日(土曜日)、2月23日(日曜日)に実施され、合格発表は2025年(令和7年)3月25日(火曜日)午後2時に行われます。
厚生労働省のWebサイトにある資格・試験情報のページに、受験地と受験番号を掲載する形式で発表され、合格者には合格証書が郵送されます。
受験資格や受験手続きなどについても詳しく掲載されていますので、手続きに不備がないようしっかりと確認しましょう。
参照:薬剤師国家試験|厚生労働省
🔽 2025年「第110回薬剤師国家試験」について詳しく解説した記事はこちら
6.薬剤師国家試験の合格基準を把握して試験勉強に生かそう
薬剤師国家試験は、全体の総得点だけでなく、試験科目ごとの得点割合や足切り基準が設けられています。科目ごとに得意不得意があるかと思いますが、どの科目についても一定水準以上の知識が求められるため、しっかりと試験対策を行う必要があるでしょう。
また、大学ごとに合格率は異なるものの、近年の合格率の推移から、約70%の人が合格できる国家試験となっています。勉強のスケジュールを立てて計画的に試験対策を行うことが大切です。
🔽 薬剤師国家試験の勉強法について詳しく解説した記事はこちら
🔽 薬剤師になる方法について詳しく解説した記事はこちら
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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