2020年2月、注目すべきは新型コロナウイルスやインフルエンザなど世界で猛威をふるう感染症にまつわるニュースです。最新情報を随時チェックし、患者さんの不安に寄り添うよう配慮しましょう。
新型コロナウイルス肺炎に抗HIV薬が効く?/アメリカでインフルエンザの死者が1万人超え
Topics 1 新型コロナウイルス肺炎に抗HIV薬が効く?
2019年末から中国湖北省の武漢市を中心に新型コロナウイルス「2019-nCoV」による肺炎患者さんが多発し、またたく間に世界に広がっています。2020年2月18日現在、日本国内では武漢市からのチャーター便帰国者やクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗船者、その他国内感染者など合計615人の感染者が確認されています(朝日新聞デジタルより)。中国への渡航歴や中国からの渡航者・帰国者との接触がない発症者も確認されており、すでに国内でも市中における三次感染の広がりが示唆されている状況です。
初発地とされる中国での感染者は約7万7658人、死者は2663人にも上るとのこと(NHK、2020年2月25日昼現在)。中国以外でも新型コロナウイルス肺炎による死者が確認されており、その数は2003年に世界中を恐怖に陥れたSARS(重症急性呼吸器症候群)の死者をはるかに上回っています。
しかし、新型コロナウイルスがどのような経緯で発生したのか、それがどのような経路で拡大したのか、現在のところ明確には分かっていません。武漢市の海鮮市場従事者から感染が始まった背景から、市場内の環境などに何らかの原因があるのかもしれませんが、詳細は不明です。また、新型コロナウイルスは接触感染や飛沫感染により拡がると考えられていますが、空気感染が示唆される事例も報告されており、世界中で感染者が爆発的に増える可能性も考えられています。
こうした状況の中、世界各国の研究者たちは大急ぎでワクチンや抗ウイルス薬の開発を進めています。しかし、開発が成功したとしても、一般に普及するのはまだ先の話です。そのため、現時点での新型コロナウイルス肺炎の治療法は、補液や酸素投与、二次的な細菌感染の予防などに限られています。
一方で、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)に対して抗HIV薬が一定の治療効果を挙げることが分かっているため、現在、新型コロナウイルス肺炎に対して抗HIV薬の使用が試験的に行われています。特に抗HIV薬であるロピナビルとリトナビル、抗インフルエンザ薬であるオセルタミビルの3剤を併用すると効果が高まるとの意見もあり、タイでは70代男性の患者さんにこの3剤を併用したところ48時間以内に陽性の検査結果が得られたということです。日本でも、新型コロナウイルス肺炎患者の治療に当たっている国立国際医療研究センターで患者さん1人に対してロピナビルとリトナビルが投与され、順調に回復していることが公表されました。
こうした世界の状況に鑑み、2月12日、厚生労働省は日本製薬団体連合会などに対して「新型コロナウイルスに関連した感染症発生に伴う医療用薬品の安定供給について」の事務連絡を発出しました。今後、世界各国で抗HIV薬の在庫確保のため、急激な受注の増大が予想されます。
世界中の交通網が発達した現代。今回の新型コロナウイルス肺炎だけではなく、今後も世界のどこかで新たなウイルスや細菌による感染症が発生し、またたく間に拡がっていくという事態に遭遇する機会が増えていくかもしれません。薬剤師の皆さんとしては、未知の病気に不安を抱く患者さんに正しい情報を伝えられるよう、刻一刻と変化する最新トピックスにアンテナを張っておく必要があります。そして、そのつど必要な薬剤や求められる対応についてよく理解し、患者さんの不安を和らげてあげてください。
Topics 2 アメリカでインフルエンザの死者が1万人超え
今シーズンの感染症の話題と言えば、新型コロナウイルス肺炎一色です。その陰で、例年、秋の終わりから春ごろまで世界的に大流行し、多くの死者を出すインフルエンザの存在が忘れられがちになっています。
しかし、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)の発表によれば、今シーズンのアメリカでは約 2900万以上の人がインフルエンザに罹患し、死者はすでに1万6000人を超えたとのことです(アメリカ疾病管理予防センター、2020年2月15日)。流行シーズンの半ばではありますが、過去10年間の中で最も感染者・死者が多くなることが予想されています。通常、インフルエンザによる死亡は高齢者や何らかの基礎疾患がある人に目立ちますが、今シーズンのアメリカでは健康状態に何ら問題がなかった若者も多く命を落としているとのことです。
インフルエンザにはワクチンも抗ウイルス薬もありますが、ウイルスが変異を繰り返すため、予防接種をしたとしても確実な効果が得られるわけではなく、抗ウイルス薬でも効果が現れないこともあります。どのような原因でアメリカでの爆発的な流行に至ったか定かではありませんが、今シーズンはワクチンや抗ウイルス薬が効きにくい「B型」が先に流行したことも一因と考えられています。例年は「A型」が先に流行し、「B型」の流行はやや遅れて始まりますが、このパターンが逆になったのはアメリカでは30年ぶりとのことです。
新型コロナウイルス肺炎にばかり注目が集まりがちですが、日本でも今後インフルエンザが爆発的に流行する可能性は少なくありません。薬剤師の皆さんとしては、対面した患者さんに手洗いやマスクなどの基本的な感染予防策を呼びかけるとともに、自身も患者さんからの感染を防ぐための対策を徹底していきましょう。
<参考URL>
新型肺炎になぜ抗HIV薬? 「似た仕組み」応用(日本経済新聞電子版、2020年2月10日)
米でインフルエンザ猛威 死者数1万人超え(日本経済新聞電子版、2020年2月6日)
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