新しい生活様式も徐々に浸透し、新型コロナウイルスの感染状況は横ばいとなっています。インフルエンザの流行期を目前に予断を許さない状況ですが、今月は新型コロナウイルス以外でおさえておくべき2つのトピックスについて解説します。
「濫用のおそれがある医薬品」の販売ルールに課題/世界初「がん光免疫療法」薬の製造販売を承認
- Topics 1 「濫用のおそれがある医薬品」の販売ルールに課題
- 厚労省の調査により、依存性があることで知られる第二類医薬品の販売ルールの遵守率が、薬局・店舗に比べてインターネット通販において約25%も低調であることが明らかになった。
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- Topics 2 先駆け審査で「がん光免疫療法」薬の製造販売を承認
- 楽天メディカルジャパン株式会社などが開発した世界初の光免疫療法薬「アキャルックス点滴静注」(一般名セツキシマブサロタロカンナトリウム遺伝子組み換え)の製造販売承認が了承された。現在、同薬の国際共同第III相試験が行われているが期待を込めての早期承認となった。
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Topics 1 濫用のおそれがある医薬品」の販売ルールに課題
「令和元年度医薬品販売制度実態把握調査」(厚生労働省)の結果が公表され、「濫用のおそれがある医薬品」の販売ルールの遵守率は依然として低い傾向にあることが明らかになりました。
同調査は、医薬品を販売する事業者において、要指導医薬品や一般用医薬品が正しいルールにのっとって販売されているかを把握するために実施されたもの。2019年度(令和元年度)は、薬局1880件、店舗販売業3156件、インターネット通販サイト500件を対象に、調査員が一般消費者を装ってルール遵守の状況を調査しています。
「濫用のおそれがある医薬品」とは、エフェドリン、コデイン(鎮咳去痰薬に限る)、ジヒドロコデイン(鎮咳去痰薬に限る)、ブロムワレリル尿素、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリン(液剤の鎮咳去痰薬に限る)を成分として含有する第二類医薬品を指し、依存性があることが知られています。
要指導医薬品や第一類医薬品などとは異なり、消費者の手が届く範囲に陳列することができるため、販売する事業者には販売時のルールが課せられています。これらの医薬品を若年の消費者に対して販売する際には、氏名と年齢、他店での購入履歴、必要と認められる以上の数量を超えて購入する理由などを確認しなければなりません。また同時に複数個販売してはならないというルールがあります。
今回、「濫用等のおそれがある医薬品を複数購入しようとしたときの対応」に関する調査項目では、上記の正しいルールにのっとった販売を行った薬局・店舗は69.4%であるのに対し、インターネット通販は45.8%でした。やはりインターネット通販のほうが薬局・店舗よりもルール遵守率が低い傾向にあります。一方で、第一類医薬品の販売ルールの遵守率にかぎっていえば前年度に比べて改善しており、インターネット通販のすべてに問題を抱えているとはいえないようです。
現在は、新型コロナウイルスの流行により、医療機関を受診せずに市販薬で対処する人も増え、インターネット通販サイトの利用者が増えやすい状況にあります。通販サイトを運営する事業者には、よりいっそうの販売ルールの徹底が求められるでしょう。
医薬品による副作用や依存から患者さんを守ることも、薬剤師のみなさんに期待される大切な使命です。第一類医薬品の販売ルールを守ることはもちろんのこと、「濫用のおそれがある医薬品」についても正しいルールにのっとった販売体制作りに貢献すべきでしょう。対面販売をする際は、購入個数を確認するときにインターネット通販の利用歴も合わせて確認することが大切です。
Topics 2 先駆け審査で「がん光免疫療法」薬の製造販売を承認
がん治療にまたひとつ、希望の光が見えてきました。
2020年9月4日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は、世界初の光免疫療法薬「アキャルックス点滴静注」(一般名セツキシマブサロタロカンナトリウム遺伝子組み換え)の製造販売承認について、先駆け審査指定制度、条件付き早期承認制度に基づいて審議し、これを了承したことを発表しました。
楽天メディカルジャパン株式会社などが開発した同薬は、新たながんの治療法である「光免疫療法」に用いられます。主な適応は「切除不能な局所進行・再発の頭頸部がん」。点滴静注した後に病巣部にレーザーを照射することで、がんを縮小させる効果が期待できるとされています。
あまり聞き慣れない、光免疫療法とはどのようなものなのでしょうか?
同薬は、かねてより頭頸部がんに対して用いられてきた「モノクローナル抗体セツキシマブにIRDye700DX」と呼ばれる特殊な色素を結合させており、点滴静注するとセツキシマブの作用によりがん細胞に発現しているEGFR(上皮成長因子受容体)と結合します。そのうえで体表面からレーザーを照射することで、セツキシマブに結合させたIRDye700DXが活性化してがん細胞を破壊する……というのが光免疫療法のしくみです。照射に使用するレーザーは本来人体に無害なものであるため、一般的な放射線治療よりもはるかに副作用が起こりにくいとされています。
現在、同薬をめぐっては国際共同第III相試験が行われていますが、期待を込めて早期承認が下されることになりました。さらなる開発が進み、頭頸部以外のがんに対しても同様の効果を発揮する薬剤が開発されれば、光免疫療法は新たながん治療法として標準化される可能性もあります。日本人の2人に1人はがんを発症するといわれる現代にあって、今後もますますのがん医療の発展が望まれます。日進月歩のがん医療について、常に新しい知識を得るよう心がけていきましょう。
<参考URL>
・「濫用恐れの医薬品販売」~守られぬルールにどう対処する?(薬事日報、2020年9月14日)
・【医薬品第二部会】世界初の光免疫療法登場へ-新薬9件の承認・一変了承(薬事日報、9月9日)
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