薬剤師のためのお役立ちコラム 更新日:2024.01.19公開日:2024.01.18 薬剤師のためのお役立ちコラム

薬剤師外来とは?メリットや事例、病院薬剤師に求められる役割を解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

医療の進歩により、抗がん剤治療や緩和薬物治療など、今まで入院治療を主としていたものが、通院でも治療継続できるようになりました。通院治療のメリットは大きい反面、患者さんの服薬アドヒアランスやコンプライアンスの維持が課題となります。そうした背景を受けて取り入れられるようになったのが、病院薬剤師による薬剤師外来です。この記事では、薬剤師外来の概要と具体的な事例について詳しく解説します。

1.薬剤師外来とは

薬剤師外来では、疾患にかぎらず病院薬剤師のサポートが必要と考えられる外来患者さんに対して、医師の診察前・後に薬剤師と面談を行い服薬状況などの把握を行います。2014 年度の診療報酬改定で「がん患者指導管理料3」が新設されたことをきっかけに、病院薬剤師が外来患者さんの服薬管理に介入することの重要性が注目されていました。診察時に薬学的評価を医師へ提言することで、服薬アドヒアランスや薬物療法の完遂率が大きく向上することが分かっていることからも、薬剤師外来は各地の病院に広がりつつあります。

 

※がん患者指導管理料3:医師又は薬剤師が抗悪性腫瘍剤の投薬又は注射の必要性等について文書により説明を行った場合に算定できる(200 点)。2018年度調剤報酬改定で「がん患者指導管理料ハ」に名称変更。

 

1-1.薬剤師外来の目的

薬物治療において、患者さんの治療に対する意欲や積極性は治療効果に影響します。治療に対する知識や理解を得てもらうとともに、不安や心配を抱く患者さんの精神的なフォローを行うことで、治療効果の向上を目指すのが薬剤師外来を設置する目的の一つです。

加えて、薬剤師外来では、診察前に副作用やコンプライアンスなどの情報を医師に提供し、医師の診断をサポートする役割もあります。さらに、他の保険医療機関や保険薬局等と連携しながら、地域社会や医療環境に応じた地域医療への貢献をすることも薬剤師外来の設置目的です。

 
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1-2.薬剤師外来を行うメリット

薬剤師外来を経由すれば、薬物治療の有効性や安全性が向上することに加え、患者さんが納得して治療を受けられるため、服薬アドヒアランスやQOLの向上が期待できます。治療効果の向上や副作用の早期発見・予防などにつながる点は、患者さんのメリットと言えるでしょう。
 
また、患者さんへの貢献だけでなく、医療経済への貢献も期待できます。薬剤師が処方計画に参画することで、定期的に残薬の把握や処方薬の見直しを行い、残薬や処方薬を調整するきっかけとなるでしょう。薬剤師外来の実施は、治療効果を高めると同時に医療費削減にも貢献できます。

2.【治療開始前】薬剤師外来での具体的な事例

治療開始前の薬剤師外来について、主な流れと具体例をお伝えします。

 

2-1.診察前の面談

診察開始前に薬剤師外来を行う目的は、薬剤師が情報収集を行うことで、医師が薬学的評価を含めた診断をできるようにするためです。特に初診では、他の保険医療機関での処方薬や一般用医薬品、サプリメントを含めた服薬状況、アレルギー歴、副作用歴などを詳細に確認します。

他の保険医療機関からの診療情報提供書がある場合はそれを基に患者さんへ面談を行い、生活習慣や食事習慣などの情報を患者さんから直接収集します。十分な情報が得られなかった場合は、医療機関や調剤薬局に問い合わせ、詳細な情報を集めることもあるでしょう。
 
加えて、腎機能や肝機能といった臓器機能や、ヒートシールからの開封や薬剤の自己管理ができるかどうかといった身体機能や認知機能などをチェックし、薬剤師としての総合的な評価を行いながら、医師の診察をサポートします。

 
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2-2.診察後の面談

診察後の面談では、医師による治療方針や処方薬の説明に対する患者さんの理解度を確認します。吸入薬やインスリンなどの自己注射が処方されている場合は、使用方法や保管方法に注意が必要なため、薬剤師が介入することで、患者さんの知識や理解が深まりやすくなるでしょう。ただし、患者さんへの面談のタイミングや内容は、実施している施設の条件や疾患によって異なります。

 

2-3.がん患者に対する薬剤師外来の事例

がん薬物療法は、がん種やレジメンにより複雑に構成されています。高頻度に副作用が発現し、時に重篤化する場合もあるため、薬物治療中の副作用管理がとても重要です。そのため、がん薬物治療を開始する前に、患者さん自身の知識習得を目的として、診察の前後に薬剤師外来を実施する病院もあります。治療開始後もがん薬物治療の効果や副作用状況を薬剤師が把握することで、治療の適正化や服薬アドヒアランスの維持、副作用対策の向上が期待できるでしょう。

がん薬物療法開始時の薬剤師外来では、生活習慣や臓器機能、併用薬などのチェックや、投与量・投与スケジュール、副作用対策などが適正であるか確認が必要です。同時に、患者さんの薬物治療に対する不安や心配を聞き取り、対応することで、服薬アドヒアランスの向上に努めます。

 
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2-4.糖尿病に対する薬剤師外来の事例

インスリン療法を行う糖尿病患者さんは、急性合併症予防や慢性合併症予防などの疾患に関する知識に加え、治療効果やインスリン注射の手技、副作用の対処法など治療に関する知識の事前習得が薬物治療を継続する上でとても重要です。疾患に関する情報提供や服薬管理を薬剤師が実践することで、薬物治療の質を向上させるとともに、医師の業務負担の軽減が期待できます。
 
薬剤師外来では、医師の診察前に患者背景や併用薬の確認を、診察後は治療方針や処方薬についての説明を行います。自己注射に不安や抵抗がある場合は、インスリンを用いた治療について根気よく説明しなければならないこともあるでしょう。1型糖尿病と2型糖尿病の違いなど、それぞれの病態について治療目的を説明し、治療を継続する重要性を伝えることも薬剤師外来での大切な業務です。
 
また、災害緊急時や副作用発現時などの対応についても説明を行います。若年発症者の割合が高い1型糖尿病に対しては、学校や就職、結婚、妊娠などのライフステージに応じた指導内容が必要です。

 
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3.【治療開始後】薬剤師外来での具体的な事例

治療開始後の薬剤師外来について、主な流れと具体例をお伝えします。

 

3-1.診察前の面談

診察前は、前回までの処方内容や面談内容、診察内容、臨床検査値などを確認後、自宅での服薬効果や副作用、服薬状況、残薬の状況などを聞き取ります。吸入薬やインスリンなどの自己注射が処方されている場合は、手技について確認し、問題がある場合は、剤形や薬剤の変更、治療方針の変更も含めて医師と協議することもあるでしょう。その他、服薬アドヒアランスや生活習慣、食生活、運動習慣などを改めて聞き取り、診察時に必要な情報や治療方針に影響する可能性がある情報は、診察前に医師などへ提供します。

 

3-2.診察後の面談

診察後は、診察前の協議内容などが反映された処方であるかを確認してから服薬指導を実施します。併せて、処方変更など他の医療機関や調剤薬局に必要な情報については、お薬手帳などを活用し情報共有をしましょう。ただし、患者面談のタイミングや内容は、病院や疾患によって異なります。

 

3-3.慢性腎臓病(CKD)に対する薬剤師外来の事例

慢性腎臓病の治療において、服薬アドヒアランスや薬物相互作用、短期的・長期的な副作用の管理は、慢性腎臓病の進行を遅らせるためにも非常に重要と言えます。また、透析患者においては、多剤投与や合併症の予防も病状の進行に影響するため、受診の都度細かなチェックが必要です。薬剤師が薬物治療の管理をサポートすることで、医師の業務負担を軽減できます。

薬剤師外来では、治療開始後に患者さんと面談を行い、生活習慣などを聞き取った上で服薬状況や副作用の有無を確認します。また、腎機能に応じて投与量や投与間隔を調節する必要があるため、薬物治療に対する評価を患者背景と総合して行い、診察前に医師へ情報提供します。
 
透析患者さんにおいては、透析性やタンパク結合率などを考慮した投与設計も必要となり、MBD(骨ミネラル代謝異常)や貧血の管理など合併症の予防と治療を目的とした薬物療法を医師へ提案することで、安全で効果的な治療を継続できるよう努めなければなりません。

 
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3-4.妊婦・授乳期の薬物治療に対する薬剤師外来の事例

妊娠・授乳期は通常と異なり母体に大きな変化があることを理解した上で、母子の健康と胎児・哺乳児の有害作用を考慮した薬物治療を支援する必要があります。薬剤師は妊娠・授乳期に使用される医薬品の薬理作用や体内動態、生殖発生毒性に関する情報の収集・評価を行い、医師や患者さんへ情報提供することで安心安全に薬物治療を行えるように努めるのが大切な役割です。
 
薬剤師外来では、患者さんの既往歴や現病歴、処方内容、主治医の治療方針などを確認し、生殖発生毒性の評価や過去の疫学研究、母乳を介して摂取した薬物の安全性を評価します。加えて、母体の薬物治療の必要性や母乳のメリットを総合的に評価し、医師へ情報提供や処方提案を行いましょう。治療開始後も、患者さんへ服薬についてのカウンセリングを行い、過度な不安から自己判断による服用中止が行われないように支援することが、妊婦・授乳期の薬物治療で大切な役割です。

 
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4.診療報酬改定で薬剤師外来が変わる?

日本病院会は2022年度診療報酬改定に向けて、厚生労働省保険局長宛に外来薬剤管理指導料(仮称)の新設に関する要望書を提出していました。
 
外来薬剤管理指導料とは、抗がん剤などハイリスク薬についての服薬指導や手術前の中止薬の説明・指導など、薬剤師外来で実施している業務に対して病院が算定する指導料です。日本病院会は外来薬剤管理指導料について月1回300点の算定を提案しています。

薬剤師外来を設置することで、医師の負担を軽減するとともに薬物治療の安全性と有効性が高められるため、今後、各地の病院で薬剤師外来の設置が広まっていくかもしれません。

 

※2021年7月時点の情報をもとにしています。調剤報酬に関する最新情報は厚生労働省のサイトをご確認ください

 
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5.薬剤師外来で、さらに患者さんに寄り添った服薬サポートに

薬剤師外来を実施することで、ハイリスク薬を服用する患者さんに対してより丁寧なサポートが行えます。医師には話せなかった治療に対する不安や悩みを薬剤師外来で相談できるようになれば、患者さんは安心して薬物治療を行えるでしょう。今後、診療報酬改定の影響で薬剤師外来を設置する病院が増えると、病院薬剤師の業務の幅が広がる可能性があります。病院薬剤師は、知識の拡充やスキルアップなど、準備を進めておくとよいでしょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

  

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