薬剤師のためのお役立ちコラム 更新日:2024.01.16公開日:2023.08.24 薬剤師のためのお役立ちコラム

門前薬局とは?なくなると言われている理由や門前薬局で働くやりがい

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

門前薬局の特徴は、主として対応する医療機関によって異なります。そのため、就職や転職を考える場合は、気になる職場の特徴を把握しておくことが大切です。また、門前薬局が今後はなくなるという話を聞いたことがある薬剤師がいるかもしれません。場合によっては、門前薬局への転職を躊躇してしまうこともあるでしょう。今回は、門前薬局の特徴と、門前薬局がなくなるといわれる理由についてお伝えします。

1.門前薬局とは

門前薬局とは、病院やクリニックのすぐ近くにある調剤薬局を指します。薬局は、医療機関の規模にかかわらず、一番近い病院で発行された処方箋を受け取るケースが多いでしょう。薬局にとってメインの病院になるため、「○○病院の門前薬局」と呼ばれることもあります。
ただし、同じ門前薬局でも、総合病院の前にある薬局と、クリニックの前にある薬局では、それぞれ特徴が異なります。
 
総合病院の門前薬局は、門前の病院から交付される処方箋を中心に扱うケースが多く、いわゆる点分業に近い分業形態です。一方、クリニックの門前薬局は、門前のクリニックが交付する処方箋がメインとなりますが、在宅医療に参画していたり、周囲のさまざまなクリニックから処方箋を受け付けたりすることも多いため、面分業となりやすい傾向にあります。

2.門前薬局で働く魅力・やりがい

まずは、門前薬局で働く魅力ややりがいについて見てみましょう。門前の医療機関が、総合病院の場合とクリニックの場合、それぞれのポイントをまとめました。

 

2-1.総合病院の門前薬局の場合

大学病院や、医療センターなどの総合病院の前にある門前薬局は、定時で終わるところが多いのが大きな魅力です。総合病院は、平日の午後や土曜日に外来診療を行っていない場合もあり、プライベートと仕事のバランスがとりやすいでしょう。

総合病院は、症状が重く小規模クリニックでの治療が難しい、希少な疾患がある患者さんが受診するケースもよくあります。複数の診療科があるため、さまざまな疾患や処方の知識・経験が得やすいでしょう。さまざまな症例に接する可能性が高いため、薬剤師として成長できる機会が多くやりがいを感じられるのではないでしょうか。

 

2-2.クリニックの門前薬局の場合

クリニックの門前薬局は、総合病院の門前薬局に比べて、地域の患者さんとの距離が近くなりやすいのが特徴です。「今日は内科に行ってきた。明日は糖尿病科に行く」など、受診スケジュールを教えてくれたり、年の離れた薬剤師に子どもや孫のように接してくれたりする患者さんに出会えることもあります。こうしたやりとりは、信頼関係が構築されているからこそできるもの。薬剤師にとって、働くやりがいにつながります。
 
また、かかりつけ薬局として利用する患者さんも少なくないため、コミュニケーションをとる機会は、総合病院の門前薬局に比べると多い傾向にあります。来局頻度が高くなれば、患者さんの生活習慣などを把握しやすいでしょう。クリニックの門前薬局は、丁寧な服薬指導を行いやすいことに加え、面分業になりやすい傾向にあります。さまざまな医療機関の処方箋に触れることで、知識や経験の向上に期待できるのが魅力です。

 
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3.門前薬局の大変さ

門前薬局で働く大変さも、門前の医療機関によって異なります。総合病院とクリニック、それぞれのケースを見てみましょう。

 

3-1.総合病院の門前薬局は混み合いやすい

総合病院の門前薬局は、常に混み合っていて待ち時間が長くなりやすい傾向にあります。病院での待ち時間が長くなることもあり、薬局では疲れから気が立っている患者さんもいます。そういった患者さんの服薬指導は、いつも以上に気を使う必要があるでしょう。

また、総合病院の門前薬局は効率よく調剤を行うため「投薬」「鑑査」「調剤」「一包化」など、シフトで担当者を決めているケースも多く見られます。一日中の服薬指導で声がかれてしまったり、一包化で爪が割れてしまったりすることがあるかもしれません。必要に応じて担当を代わってもらうこともできますが、基本的には同じ業務を行うため、集中力や体力などを維持するための工夫が必要でしょう。

 

3-2.クリニックの門前薬局は遅くまで開局していることも

クリニックが開いている時間に合わせて、門前薬局も開局している場合がほとんどです。18時で診療を終了するクリニックの門前では、18時半~19時ごろまでが営業時間となります。また、クリニックの昼休みに合わせて、休憩時間をとることもあるでしょう。クリニックに合わせて開局時間を決めなければならないルールはありませんが、クリニックとの関係を良好に保つためにも、開局時間を合わせる薬局が多く見られます。

 

3-3.面分業または点分業によって得られる経験や知識が異なる

門前薬局が点分業なのか面分業なのかによって、得られる知識や経験は異なります。
 
例えば、点分業の場合、小児科の門前薬局であれば小児科に、精神科の門前薬局であれば精神科に詳しくなりやすいでしょう。一方で、その他の診療科の処方箋を受ける機会が少ないため、自身で意識して学習する必要があります。
 
面分業であれば、日常的にさまざまな医療機関の処方箋を扱えます。かかりつけ薬剤師や在宅医療へ積極的に参画している場合、さまざまな知識や経験を得られますが、幅広い業務を行うほど、薬剤師以外の専門家と接する機会が増えます。他業種の業務内容やそれぞれの考え方を把握した上で、薬剤師としての知識や経験を求められる点が大変に感じるかもしれません。

 
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4.調剤薬局の分業形態~点分業と面分業~

先述したように、門前薬局の特徴によって、分業体制が異なります。地域医療への貢献という点で押さえておきたいのが「点分業」と「面分業」です。それぞれの違いについて詳しく見ていきましょう。

 

4-1.点分業

点分業とは、主に門前の医療機関の処方箋を扱うことを指します。

点分業の薬局は、特定の医療機関や診療科からの処方箋の集中率が高いのが特徴で、取りそろえなければならない医薬品の種類が少なくなる傾向にあります。そのため、医薬品の在庫数を抑えることができ、管理が容易です。点分業の薬局は、特定の医療機関が処方する医薬品をほぼ取りそろえているため、「在庫が足りず、当日中に薬を受け取れない」といったことが起こりにくいでしょう。

 

4-2.面分業

面分業とは、門前の医療機関だけでなく、さまざまな医療機関の処方箋を扱うことを指します。面分業の薬局は、特定の医療機関や診療科からの処方箋の集中率が低く、取り扱う医薬品の品目数が多くなりやすいのが特徴です。例えば、調剤併設のドラッグストアは面分業になりやすい傾向にあります。というのも、買い物をしながら調剤が終わるのを待ちたい患者さんは、門前薬局を利用せずに、あえてドラッグストアでの調剤を求めるケースがあります。こうした患者さんに対応するために、面分業になりやすいというわけです。

 
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4-3.かかりつけ機能と面分業

かかりつけ機能を持つ薬局も、面分業になりやすい傾向にあります。かかりつけ機能とは、患者さんが特定の薬局を利用し、一元的かつ継続的に服用薬の管理を薬局や薬剤師に任せること。かかりつけ機能のある薬局を「かかりつけ薬局」、特定の患者さんの服用薬や生活などについてサポートをする薬剤師を「かかりつけ薬剤師」と呼びます。

かかりつけ機能を充実させることは処方箋の集中率を下げ、面分業へとつながります。また、調剤基本料の算定は「処方箋の集中率85%以下」が一つの目安となっています(厚生労働省「令和4年度調剤報酬改定の概要【調剤】」より)。そのため、多くの門前薬局が、かかりつけ機能などを充実させて点分業から面分業にシフトしています。ただ、面分業にシフトしたとしても、メインで取り扱う処方箋は、やはり門前の医療機関が発行したものになるでしょう。
 
このように、門前薬局は、門前にある医療機関によって、薬局の特徴が異なります。転職を考える際には、希望する職場の状況を確認しておくとよいでしょう。

 
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5.門前薬局がなくなるといわれているのはなぜ?

従来では、処方箋をもらった患者さんは、病院の近くにある薬局を利用するのが当たり前でした。しかし、昨今は、薬剤師が患者さんの服用薬を一元的・継続的に管理し、服薬サポートを行うことが求められるようになり、かかりつけ薬局の機能が重視されるようになりました。かかりつけを持つことを地域に周知したことで、患者さんは、病院の近くにある門前薬局ではなく、自宅の近くなどいつも行く薬局へ処方箋を持っていく流れにあります。
 
また、処方箋集中率の高い薬局は、調剤基本料の評価が下がってしまいます。同じ医療機関からたくさんの処方箋を受けても、人件費に見合った収入が得られず、門前薬局はいずれなくなるのではないかともいわれています。
 
薬局の特性上、近隣に医療機関がない場所に開局しても、患者さんは集まりにくい傾向にあります。そのため、経営の点から特定の医療機関の近くに薬局を開設することがほとんどでしょう。しかし、医療資源の少ないへき地など、特殊な環境を除いて処方箋集中率が100%となることは稀(まれ)かもしれません。また、薬局はかかりつけ機能を充実させ、地域医療に貢献するよう求められています。こうした背景もあり、特定の医療機関の処方箋に頼った経営を行う薬局は少なくなっています。
 
2022年度の診療報酬改定では地域支援体制加算が見直され、薬局や薬剤師が目指すべき方向が明確になったことから、より地域医療へ貢献する薬局が増えるでしょう。今後は、門前の医療機関の処方箋に頼る薬局は減り、地域医療に貢献する薬局が増えると考えられます。

 
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6.薬剤師が門前薬局に就職・転職する際のポイント

先述したように、門前薬局ごとに特徴が異なり、主に扱う診療科も違います。待遇や職場環境だけでなく、学びたい診療科やどんな薬剤師になりたいのかを考えて転職先を探すことが大切です。

総合病院の門前薬局であれば、いろいろな診療科の処方や珍しい処方に触れる機会が増えるでしょう。一方、クリニックの門前薬局は面分業の傾向にあり、特定の病院ではなくさまざまな病院の処方箋を扱えるのが特徴です。患者さんとコミュニケーションをとる頻度も異なるため、門前薬局で働く場合には、目指す薬剤師像を描いておくとよいでしょう。
 
働きながらの転職活動は、得られる情報に偏りが出たり、情報収集に時間がとれなかったりすることもあります。門前薬局への転職で大切なのは、転職先の情報をたくさん集めることです。そこで利用したいのが転職エージェントです。転職エージェントは未公開の情報も多く扱っているため、うまく活用するとその薬局の特徴や働き方、どのような疾患の患者さんがメインなのかなど、より詳しい情報を得ながら、自分に合った門前薬局を探せます

7.理想の薬剤師像を目指せる門前薬局を選ぼう

門前薬局と一口にいっても、門前にある医療機関によって扱う処方箋が異なります。開局時間や患者さんとの関わり方も違うため、どのような薬剤師になりたいのか、どんな知識や経験を得たいのかを明確にしてから転職先を選ぶことが大切です。理想の薬剤師像を描いてから門前薬局を選ぶことが転職成功のカギといえるでしょう。

 


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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