かかりつけ薬剤師誕生の陰に潜む「超高齢化」という問題
2025年は、日本の人口における最大のボリュームゾーンである団塊の世代(1947~1949年生まれ)において、そのすべての人が、後期高齢者層(75歳以上)に突入するターニングポイントです。日本の高齢化は例をみないスピードで進んでおり、2025年以降も医療費や介護需要のさらなる増大が予想されています。
国家予算のなかでも医療費の十分な確保は難しいものとなっており、さらなる負担を軽減するための対策が進められています。そのひとつが、厚生労働省が進める「地域包括ケア」の充実です。
2025年を目処に、高齢者が住み慣れた地域で最期を迎えることができるような医療や介護のシステム構築が目的とされています。医療機関のひとつとして、薬局にも地域化が求められ、「かかりつけ薬局」としての機能を持つことが掲げられているのです。薬局の機能を大きく左右するのが、薬剤師の存在です。そうした理由から、まずは薬剤師が「かかりつけ薬剤師」として地域貢献するような制度がスタートすることになりました。
超高齢化社会を支える「地域包括ケア」の実態
総務省や厚生労働省は2050年には1人の若者が1人の高齢者を支える時代が到来するという予測を発表しています。「若者1人で高齢者1人を支える」……言葉では簡単に言えても、現実的には不可能なことだといえるでしょう。そうした背景をもとに、薬剤師や医師などの医療従事者や介護に携わるスタッフはもちろんのこと、自治会やNPOなどの地域社会が相互協力することで、地域全体で高齢者を支えていけるようなシステムの構築が進められています。こうした動きが総称して「地域包括ケア」と呼ばれています。
では、なぜ、それほどまでに医療機関の地域密着が必要なのでしょうか。
これまでの介護環境では、高齢者本人が自ら医療機関などに出向いていかなければ、サービスを受けることができない状況にありました。交通機関が整っていないような地域では、そうした移動の負担も大きく、結果的にサービスを受けられない人が増えています。こうした状況を踏まえ、高齢者を医療機関に招くのではなく、医療機関が地域化することで、よりサービスの利用しやすい環境を作ることが求められています。
高齢者が自宅や施設等にいながらでもサービスを受けられるようになるだけでなく、さらには地域社会の活動に積極的な参加を促すことで、要介護状態の予防につながります。高齢者と特に関わりの多い医療従事者や介護スタッフ、地域のボランティアなどが見守ることで高齢者の健康状態をサポートし、要介護になっても住み慣れた地域で過ごすことで最後まで尊厳を保てるようにする……この一連の動きを地域包括ケアと呼ぶのです。
地域包括ケアで期待される薬剤師の働き
こうした地域包括ケアにおいて、医療関係者のひとりである薬剤師にも、大きな働きが求められています。そのひとつが「対人業務」の充実です。患者さん一人ひとりに対して、コミュニケーション能力を発揮し、健康管理の一助を担わなければいけません。それぞれの患者さんに対して、どのようなアプローチが有効なのか、生活習慣で懸念されることはないか、など、患者さんの背景にある健康不安を確認しながら、抱えている問題を解決していく力が求められているといえるでしょう。
かかりつけ薬剤師のスキルはすべての薬剤師に求められている
高齢者が住み慣れた町でよりよい生活をするため、薬局に求められるのは「地域の健康ステーション」としての役割です。患者さんが抱える課題に対し、親身にアプローチできる薬剤師がいるだけで、地域の患者さんはどれだけ心強いことでしょう。地域包括ケアでは、薬剤師にも患者さんの課題を解決する力が求められています。