薬剤師の接遇マナー・テクニック 更新日:2023.03.23公開日:2015.06.10 薬剤師の接遇マナー・テクニック
困ったときに薬(やく)立つ、薬剤師の接遇・マナー
困ったときに薬(やく)立つ、薬剤師の接遇・マナー

薬の在庫がないと怒り出す患者さん
薬の在庫がないと怒り出す患者さん

私は総合病院の門前薬局に勤務しています。先日、初めていらっしゃった患者さんの処方せんが門前病院のものではなく、処方薬も在庫のないものばかりでした。薬は取り寄せになるとお伝えしたところ、「全国の処方せんを受け付けると書いてあるのに、話が違うじゃないか!」とお怒りになってしまいました。このようなときの傾聴、謝罪の仕方について、教えてください。

Answer
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「薬剤師の常識」は一般には通用しない

薬局側としては、発売されているすべての薬を揃えるのは不可能であり、用意できない薬があるのは当たり前だという認識でしょう。しかし、一般の方は「全国の処方せんを受け付けます」と書いてあるからにはどんな薬も用意してあるのだろうと思ってしまうもの。しかも、1種類だけならまだしも、複数の薬が用意できないとなると「この薬局はどうなっているんだ!」と不信感を抱いてしまう方がいても決しておかしなことではありません。まずはこの認識の違いをしっかり理解しておく必要があります。
そのうえで、患者さんの話をとにかく聞きます。反論せず、否定せず、聞くことに徹するのです。薬局に限らず、クレーム応対の基本ですね。くれぐれも、開き直って「すべての薬を用意することは不可能です」などと薬局側の都合を押しつけないようにしましょう。「私が悪いわけじゃないのに」と感じるかもしれませんが、そこはグッと飲み込んで聞くことに徹します。上にあげた「一般の人は、薬局にすべての薬があると思っても仕方がない」ということを念頭に置き、「不愉快な思いをさせてしまった」ことに対して申し訳ないという気持ちで応じましょう。

最初は演技でもいい。お詫びの気持ちを態度で示す

話を聞く際は、うなずいたり相槌を打ったりして「しっかり聞いていますよ、あなたの気持ちを受けとめていますよ」と態度で示します。間違っても「そんなことを言っても、ないものはないのだから」という態度をとってはいけません。
ときどき、「2~3時間も延々とクレームを言われ続けた」という話を聞きますが、クレームが長時間になってしまったときは、おそらく応対の方法に問題があるのでしょう。最初は在庫切れのことで怒っていても、応対する人の表情や態度に気になる点があったりすると「その態度はなんなの!」と、火に油を注ぐことになり、クレームが続いてしまう事態になっているように感じられます。
クレームの連鎖を防ぐためにも、聞く際には「おっしゃる通りです。申し訳ございません」というように相槌を打ちながら謝罪する。その際は言葉だけでなく申し訳ない気持ちを表情と態度でも示してください。申し訳ないという気持ちがあれば自然と表情に出るはずですが、表情が出にくいという人もいますので、そこは意識して出すことを心がけましょう。慣れないうちは演技でもかまいません。わざとらしいほど大げさな演技は逆効果ですが、いつもより多少オーバーに「申し訳ありません!」と言う方が、クレーム応対においては早く気持ちをおさめていただくことにもつながりやすいようです。

最後に、今後の対応を明確に提示する

ひと通り話を聞いて患者さんの気持ちが落ち着いたら、今後の対応を伝えます。このケースですと薬が数種類用意できないのですから、

①いつ用意できるのか
②用意した薬をどうするのか(再度来局してもらうのか、郵送するか、自宅や職場までお届けに上がるかなど)

を、明確にします。ここを曖昧にしておくと、「届けてくれると思っていたのに、家でいくら待っていても来なかった!」と新たなクレームが発生してしまうことも。①の「いつ用意できるか」という点においては、確実に用意できる日時を提示しましょう。
 
クレーム応対が苦手という人は多いと思いますが、上手に応対できれば印象が一気に好転するチャンスでもあります。「クレームを言ったときの誠実な対応がきっかけで、このお店のファンになった」というのはよくある話。皆さんも「これはチャンスだ!」という前向きな気持ちでクレーム応対に臨んでください。

言葉と表情と態度で謝罪の気持ちを伝え、相手に共感することがクレーム応対のコツ。お詫びはもちろん、今後の対策までしっかり伝えて!
言葉と表情と態度で謝罪の気持ちを伝え、相手に共感することがクレーム応対のコツ。お詫びはもちろん、今後の対策までしっかり伝えて!

村尾 孝子
村尾 孝子(むらお たかこ)
薬剤師、医療接遇コミュニケーションコンサルタント。
株式会社スマイル・ガーデン代表取締役。
薬剤師として総合病院薬剤部、漢方調剤薬局、調剤薬局で20年以上にわたり調剤、患者応対を経験。管理薬剤師として社員の人材育成に注力する。
現在は医療現場経験を活かし、医療接遇コミュニケーションコンサルタントとして活躍中。
株式会社スマイル・ガーデン : http://smile-garden.jp/
ブログ「いつもワクワク Always Smiling!」: http://smilegrdn.exblog.jp/
薬剤師さんからの質問大募集!村尾孝子先生が、あなたの質問にお答えします
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