第60回 井手口直子 先生
仕事をしていると転勤、昇進といった社内での環境の変化や、転職、結婚といったライフステージの変化など、さまざまな転機に遭遇するのではないでしょうか。こうしたキャリアの転機が訪れたとき、1年後、3年後、5年後あるいはもっと先の自分は、どのようなスキルや知識を身につけて、どのような仕事をしていたいか考えたことがありますか。
今回は、薬剤師のキャリアについて井手口直子先生にお話をうかがいました。
今後、どのようなことが求められてくるでしょうか。
2016年度診療報酬改定では、かかりつけ機能を果たす薬剤師・薬局を評価するための「かかりつけ薬剤師指導料」が新設されました。薬剤師は地域の人たちへ、より質の高い医療を提供することが求められています。では、どのような薬剤師が患者さんの信頼を得られる薬剤師なのでしょうか。
例えば、あなたが車を買うとします。Aさん、Bさんという2人のディーラーから話を聞いてどちらかから購入する予定です。どちらも人柄には問題ありませんが、Aさんは尋ねたことにすぐにわかりやすく答えてくれて、欲しい資料をすぐに手配してくれます。一方のBさんは悪い人ではありませんが、資料を頼んでも「忘れていました」。質問に対しても「社に戻って確認します」と、どうも頼りない印象です。
もしこうした状況にあったら、どちらの人から商品を購入したいと思いますか。多くの方がAさんから商品を買いたいと思うのではないでしょうか。
「重要なもの、高価なものほどいい人から買いたい」と思うのが人情でしょう。患者さんにとっての薬剤師も同じです。特に、薬剤師は“健康”という何よりも大切なものを患者さんに提供すべき立場。まずは、日々の業務を通して“小さな信頼”を獲得することを大切にしましょう。将来にわたって患者さんに選ばれ続け、信頼を寄せられる薬剤師であるためには、その積み重ねが欠かせないのです。
これからの薬剤師は、調剤室の中から在宅医療、介護などの現場へと行動範囲を広げ、今まで以上に対人業務に力を入れていくことが不可欠になります。ここでいう「対人業務」とは対患者さんはもちろん、多職種連携における他の医療職との関わりも含みます。
こうした時間を十分に確保するには、日常業務の省力化をはかるためのIT化や自動化を積極的に推し進めていく必要が出てくる可能性もあるでしょう。薬剤師を取り巻く環境は、テクノロジーの面においても刻々と変化していくと考えられます。
状況の変化をキャッチしたら内的キャリアを見つめ直し、自分が思い描いているキャリアと現在進んでいるキャリアの方向性が合っているかを確認してください。もしも方向性がずれていると感じたら、自分の実現したい仕事のために軌道修正をしていきましょう。
とはいうもののキャリアの軌道修正は難しく、自分だけの力では困難な場合もあります。
その際に大切なのが人間関係です。キャリア形成のチャンスは人が運んできてくれることも多いもの。ぜひ、これまでに築いてきた人とのつながりを大切にしてください。
「あのとき」「あの人に」話したことが、キャリアアップといった思わぬ形で舞い込んでくることがあるかもしれません。
著書に「薬剤師のためのコミュニケーションスキルアップ」(講談社、2010)、「薬学生、薬剤師育成のための模擬患者(SP)研修の方法と実践」(じほう、2009)などがある。