第59回 井手口直子 先生
仕事をしていると転勤、昇進といった社内での環境の変化や、転職、結婚といったライフステージの変化など、さまざまな転機に遭遇するのではないでしょうか。こうしたキャリアの転機が訪れたとき、1年後、3年後、5年後あるいはもっと先の自分は、どのようなスキルや知識を身につけて、どのような仕事をしていたいか考えたことがありますか。
今回は、薬剤師のキャリアについて井手口直子先生にお話をうかがいました。
自分にとって「仕事のやりがい」は何かを明確にするにはどうすればいいでしょうか。
仕事にやりがいや満足度を感じるには、「内的キャリア」と「外的キャリア」のバランスをとることが必要です。
内的キャリアは
- 自分が得意なこと
- 自分がやりたいこと
- どのような仕事をしているときに意味を感じ、社会の役に立っていると実感できるか
といった、自分が働くうえでの価値観や動機といったもの。
一方の外的キャリアとは
- 職種や業種
- 上司や同僚、家族、友人は自分に何を求めているか
- 今の職場で自分は何を求められているか
など、“外部”から自分に期待されていることを指します。
この2つが一致して同じ方向を示していると、人は働くことに充実感ややりがいを感じることができるのです。
そうはいっても、一人で自分の内的キャリアを掘り下げていくのはなかなか難しいかもしれません。
そのようなときには「キャリアアンカー」という考え方を使ってみるといいでしょう。キャリアアンカーとは、MIT(マサチューセッツ工科大学)の教授でキャリア研究の権威であるエドガー・H.シャインが開発した概念で、人が仕事を続けていくうえで、その方が大切にしている「仕事の志向」「動機」「才能」「価値観」が組み合わさったもののこと。8領域のキャリアアンカーがあります。
それは、
- 特定の専門領域や仕事で自分の才能を発揮し、高めることに意欲がわく専門・職能別コンピタンス
- 組織内で出世し、責任のある地位につきたいという想いが強い全般管理コンピタンス
- 自分のやり方、ペースで自分の納得する仕事をすることに重きをおく自律、独立
- 安全で確実と感じ、将来の予測ができてゆったりとした気持ちで仕事をしたい気持ちが強い保障・安定
- 新しい製品やサービスを開発したり、新しい組織や事業を起こす欲求が強い起業家創造性
- 何らかの形で世の中を良くしたいという欲求が強い奉仕・社会貢献
- 不可能と思えるような障害を乗り越えて、誰もなしえないようなことを達成することに重きをおく純粋な挑戦
- 組織が個人と家族を尊重してくれて、自分の都合にあった働き方ができることを重要視する生活様式
の8つです。
(エドガー・H.シャイン 著「キャリアアンカー」白桃書房より)
自分自身のキャリアアンカーを把握しておけば、将来のキャリアを考える際にも誤った方向へ進んでしまうことを予防できます。それとともに、より充実感を感じられるキャリアを築くことにも役立つでしょう。
これら8つの項目のうち、仕事をするうえで「これだけは絶対に譲れない!」と思う項目を1つか2つ、選んでみてください。専門性を高めることをキャリアの中心に据えたいと考える「1.専門・職能別コンピタンス」、インド式ダイエットなど個性的な考え方に価値を置く「3.自律、独立」など、あなたのキャリアアンカーはどれでしょうか。
自分のキャリアアンカーがわかったら、それに従って将来のキャリアを考えてみましょう。「5.起業家創造性」が自分のキャリアアンカーなら、いずれ開業、または起業することをキャリアの目標にしてみてもいいかもしれません。
このようにキャリアアンカーを明確にすることで、自分が思い描くキャリアデザインを実現しやすくなります。
著書に「薬剤師のためのコミュニケーションスキルアップ」(講談社、2010)、「薬学生、薬剤師育成のための模擬患者(SP)研修の方法と実践」(じほう、2009)などがある。