薬剤師のスキルアップ 公開日:2025.11.18 薬剤師のスキルアップ

薬剤師の転職理由とは?主な例や面接での伝え方について解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬剤師の転職理由にはさまざまなものがあり、転職先にどう伝えればよいのか悩む場合もあるでしょう。転職活動では、基本的に面接や履歴書で転職理由を伝えなければなりません。転職を成功させるためには、転職理由を適切に説明することが大切です。本記事では、薬剤師の転職理由の主な例や、転職理由を伝えるときのポイントについてお伝えするとともに、転職を成功させるためのコツ、円満退職をするための退職理由の伝え方などを解説します。

1.薬剤師の転職理由の主な例

薬剤師が転職を考える理由には、さまざまなものがあります。収入面や人間関係、スキルアップ・キャリアアップなど、個々の置かれている状況によって転職を決断する理由は異なるでしょう。ここでは、薬剤師の転職理由としてよくある例を紹介します。

 

1-1.年収や待遇に不満がある

薬剤師が転職を考える大きな要因のひとつに、年収や待遇への不満があります。業務量や資格・役職に対して給料が見合わなかったり、育休や産休といった福利厚生が十分でなかったりする場合、転職を考えるきっかけとなるでしょう。
 
また、昇給や評価制度が整っていない職場の場合、「頑張っても給与が変わらない」「将来の収入が見通せない」といった不安が積み重なりやすくなります。より高待遇でキャリアの成長が見込める環境へ転職したいという思いが強くなると、転職を検討する理由となるでしょう。

 
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1-2.人間関係が良くない

人間関係が良くないために、「意見を言いづらい雰囲気」「風通しの悪い上下関係」「チーム内での不公平感」といった問題があると、ストレスの原因になる可能性があります。
 
特に、忙しさや責任の重さから協力体制が築きづらく、自分が孤立しているように感じる職場では、やりがいや働きがいを得にくくなります。人間関係の問題が生じたことで、精神的に疲弊してしまい、「もっと安心して働ける環境を探したい」と転職を検討することもあるでしょう。

 

1-3.スキルアップ・キャリアアップを目指したい

薬剤師としての経験を積み、「もっといろいろな知識やスキルを身に付けたい」「新しい仕事に挑戦したい」といった目標を持つようになっても、職場によってはスキルアップできるような環境でなかったり、学べる機会が少なかったりすることがあります。
 
そういった場合には、認定薬剤師や専門薬剤師の資格取得や勉強会への参加を手厚くサポートする職場への転職を考えることもあるでしょう。また、薬局長やエリアマネージャーといった役職に空きがなく、新しい仕事に挑戦しにくい環境の場合、将来のキャリアパスを見据えて転職に踏み切る人もいます。

 
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1-4.仕事にやりがいを感じられなくなった

薬剤師として働く中で、業務にやりがいを感じられなくなるケースは少なくないでしょう。毎日ルーティン化された業務が続くと、成長の実感や達成感を得にくくなり、本来の専門性や知識を生かしきれていないと感じることもあるかもしれません。
 
薬剤師としてのやりがいを感じにくい状況によって、もっと活躍できる職場に転職したいという意欲が生まれることもあります。

 
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1-5.働き方や労働時間を見直したい

薬剤師が転職を考える背景には、働き方や労働時間への不満も多く見られます。長時間勤務や過度な残業が続くと、心身の疲労がたまって生活の質や仕事と家庭との両立に影響を及ぼすことがあります。
 
また、希望通りに休日を取りづらい雰囲気があったり、急なシフト変更が多かったりする職場では、プライベートとのバランスを保つことが難しくなるでしょう。「自分の時間を大切にしたい」「柔軟な働き方をしたい」と考える薬剤師にとって、ワークライフバランスの取れる職場は魅力的に感じます。

 

1-6.ライフステージが変化した

ライフステージの変化も、薬剤師が転職を考える大きな要因のひとつです。結婚や出産、介護などの家庭環境の変化によって、従来の働き方が難しくなることもあります。例えば、フルタイム勤務が難しくなったり、通勤時間や勤務時間を調整する必要が出てきたりする場合が挙げられるでしょう。
 
また、ライフステージの変化によって価値観が変わり、「自分らしく働ける職場に移りたい」という思いが芽生え、転職の動機につながることもあります。

 

1-7.会社の将来性に不安がある

調剤薬局やドラッグストア業界では、競争の激化や再編が進んでいます。勤務先で店舗閉鎖や売上減少などが続くと、「この先も安定して働けるのか」と不安を抱くこともあるでしょう。また、製薬業界でも国内市場の縮小や海外競争の激化により、将来性のある分野に絞って投資したり、各部署の人員を最適化したりしています。
 
薬剤師が働く医療業界は、変化のスピードが速いため、多くの企業が人材や資金などのリソースを見直し、変化に順応できるよう戦略を立てています。そのため、薬剤師が長期的なキャリアを築く上で、企業の成長戦略や経営方針がはっきりしていることは重要なポイントとなるでしょう。会社の将来性に不安があると、安心して長期間働ける環境を求めて、転職を検討する薬剤師がいるのも自然な流れといえます。

 

1-8.異業種にキャリアチェンジしたい

薬剤師としての経験を生かしつつ、異業種へのキャリアチェンジを考える人もいるでしょう。例えば、医療ライターやヘルスケア企業の企画職など、薬剤師の専門知識を生かせる分野は多岐にわたります。
 
薬剤師としての経験を積み重ねることで、調剤業務にとどまらず、もっと広い視野で社会に貢献したいという思いが芽生えることもあるでしょう。自分の可能性を広げたい、新しい環境で挑戦したいという前向きな気持ちが、転職のきっかけになることもあります。

2.面接や履歴書で薬剤師が転職理由を伝えるときのポイント

転職活動では、応募時の書類や面接において転職理由を聞かれることがあります。志望先の企業に過去の職場の不満ばかりを伝えてしまうと、ネガティブな印象を与えてしまうかもしれません。転職を成功させるためにも、転職理由の伝え方はとても大切です。ここでは、いくつかの例を挙げて、面接や履歴書で薬剤師が転職理由を伝えるときのポイントについてお伝えします。

 

2-1.現職の将来性に不安があるケース

現職の将来性に不安を感じて転職を考えたとしても、応募先の企業に必ずしもその内情を詳しく伝える必要はありません。発想を転換して、「応募先の企業経営方針や経営状況などを魅力に感じた」という視点で転職理由をまとめてみると良いでしょう。
 
自身のキャリアビジョンを実現できる環境で、腰を据えて仕事に専念したい気持ちが伝われば、人事担当者に「採用後も長く働いてもらえる」という印象を与えられます。

 

2-2.子育てとの両立が難しくなったケース

子育てと仕事の両立が難しくなり、転職を考えている場合には、応募先の「育休取得率、育休後復帰率、女性支援などに力を入れている点」を転職理由としてまとめるのも良いでしょう。子育てと仕事の両立を考えていることや、実際に両立している女性社員が多いことなどを転職理由に付け加えることで、転職への意欲が伝わりやすくなります。
 
現職で不満に感じている点をベースに転職理由を考えるのではなく、応募先の企業に感じる魅力をまとめることで、面接時にも好印象を持ってもらいやすくなるでしょう。

 

2-3.特定の診療科についての知識や経験しか得られないケース

偏った診療科の知識しか得られないことが転職理由であれば、「幅広い診療科の処方を扱ってスキルアップしたい」と言い換えることができます。その場合、総合病院の門前や店舗数の多い企業などが転職先の候補になるでしょう。
 
抱えている不満を解消できる転職先を選ぶことで、面接時には幅広い診療科の経験ができる点や、異動する度にさまざまな処方と接する機会ができる点を、転職理由としてアピールできます。

 

2-4.残業が多くプライベートな時間が確保できないケース

残業時間が多いことが不満で転職を考える場合、面接時には具体的にどのようなことを実現するためにプライベートの時間を確保したいのかを伝えると良いでしょう。
 
例えば、「自主的に勉強する時間を増やして認定資格の取得に励む」など、将来を見据えた前向きな目的を伝えられると、仕事に対する姿勢のアピールにもつながります。

 

2-5. スキルアップができる環境でないケース

現在の職場では十分なスキルアップができないと感じている場合、「薬剤師としてレベルアップしたい」「スキルアップ支援に力を入れていることに魅力を感じている」という前向きな姿勢を伝えてみましょう。
 
社内勉強会や社外勉強会への参加支援を行っている企業であれば、その点を志望動機として伝えると説得力が増します。認定薬剤師や専門薬剤師の資格取得などを目指している場合には、具体的なキャリアプランを伝えると、転職への前向きな姿勢がアピールしやすいでしょう。

 

2-6.年収に不満があるケース

「忙しさの割に給料が安い」「能力が評価されない」など、年収に不満を感じる理由はさまざまですが、ネガティブな面ばかりを強調するのではなく、「業務の成果や認定資格の取得などの実績が評価される環境で、やりがいを持って働きたい」「人事評価制度が整った会社でキャリアアップしたい」といった転職理由に言い換えましょう。同時に、転職先の評価システムに魅力を感じている点をアピールしてみてはいかがでしょうか。
 
例えば、在宅件数などの実績や認定薬剤師などの資格取得によって手当が付くという条件を提示している企業であれば、手当がもらえるよう努力を惜しまないという姿勢を伝えます。実績作りや資格取得に向けた前向きな取り組みは、自分の評価につながるだけでなく、企業にとってもプラスに働くため、お互いにとってメリットがある点を訴えてみましょう。

3.薬剤師が転職を成功させるためのポイント

薬剤師が転職を成功させるためには、求人をチェックする前に希望条件を明確にしておくこと、転職先とのミスマッチを防ぐために自己分析を丁寧に行うことがポイントです。また、面接対策をしたり、必要に応じて転職エージェントを活用したりすることも重要になるでしょう。ここでは、薬剤師が転職を成功させるためのポイントについて詳しくお伝えします。

 

3-1.希望条件を明確にして求人をチェックする

納得のいく転職を実現するには、まず自分の希望条件を明確にすることが重要です。勤務地や給与、業務内容に加えて、リモートワークの可否やシフト制などの働き方、企業風土や経営方針などの希望条件を挙げていきます。次に条件に優先順位を付け、求人を選ぶ際の具体的な指標を決めます。
 
条件と優先順位がはっきりしていれば、求人を効率良く絞り込むことができ、求人選びに迷うことも少なくなるでしょう。また、希望条件をあらかじめ明確にしてから応募する求人を決めるため、応募先に対しても一貫性のある志望理由を伝えることができます。

 

3-2.自己分析と企業研究を十分に行う

転職を成功させるためには、自己分析と企業研究を丁寧に行うことが不可欠です。まずは、自分の強み・価値観・理想の働き方を整理しましょう。自己分析を丁寧に行うことで、企業選びや面接時の発言に一貫性が生まれます。
 
次に、企業の理念・事業内容・社風・求める人物像、福利厚生制度など、多角的に企業研究を行いましょう。企業の公式サイトだけでなく、採用ページや口コミ、ニュース記事など、さまざまな方法で情報収集を行うことにより、実際の職場像が浮かび上がるでしょう。
 
企業研究を行い、自分に合った職場環境であるかを見極めることで、転職理由や志望動機の説得力が高まり、入社後のミスマッチも防ぎやすくなります。

 

3-3.面接時は志望動機と一貫性がある転職理由を伝える

志望動機と転職理由につながりがあると、採用担当者の納得感が高まるといえます。そのため、転職を成功させる上でも、志望動機と転職理由の伝え方を工夫することはとても大切です。
 
例えば、「患者さんと向き合う時間を大切にしたい」ということを志望動機とする場合、「現職では業務が多忙で理想のケアが難しかった」といった背景を示すと、納得感が生まれます。単なる不満ではなく、価値観やキャリアの方向性に沿った前向きな理由として伝えることがポイントです。志望動機と転職理由に一貫性があれば、企業との相性もより明確になります。

 

3-4.必要に応じて転職エージェントなどを活用する

転職活動をスムーズに進めるためには、必要に応じて転職エージェントや専門のキャリア支援サービスを活用するのも有効な手段です。特に薬剤師専門の転職エージェントであれば、職場の雰囲気や働き方まで含めた情報を効率良く収集しやすいのがメリットです。
 
自分では気付かなかった選択肢を提示してくれたり、履歴書の添削や面接対策などのサポートを受けられたりするため、準備段階から選考通過まで効率的に転職活動を進めやすくなるでしょう。より理想に近い職場と出会える可能性が広がります。

4.薬剤師が円満退職するための退職理由の伝え方

薬剤師の転職活動を成功させるには、できるだけ現職を円満に退職できるようにすることも重要なポイントです。ここでは、退職理由を伝えるときのポイントについてお伝えします。

 

4-1.ネガティブな表現はできるだけ避ける

退職理由が職場への不満や疲弊感であっても、できるだけ感情的にならず、前向きな説明ができると良いでしょう。同じ内容でも「より幅広い経験を積みたい」「自分自身を成長させる機会を求めている」など、将来への希望や挑戦を軸にした表現にすることで、ポジティブな印象を与えやすくなります。

 

ネガティブな退職理由 言い換え例
今の職場ではやりがいが感じられない。 より自分のスキルを生かせる環境で働きたい。
業務量や残業時間が多かった。 働き方を見直し、勉強時間を確保してスキルアップしたい。
職場の人間関係に不満がある。 新しい環境に挑戦し、より充実した働き方を目指したい。
今の仕事に将来性を感じなくなった。 自分のキャリアを長期的視点で見直し、新しい分野に挑戦したい。

 

4-2.個人的な事情に焦点を当てる

退職の理由を組織や人間関係に結びつけず、自分のライフスタイルやキャリア観の変化に基づいたものとして説明すると角が立ちにくい場合があります。そのため、「家族との時間を大切にしたい」「将来的に臨床開発の分野に進みたい」など、自分の気持ちの変化を軸に話すことも選択肢のひとつです。

 

ネガティブな退職理由 言い換え例
柔軟な働き方ができず、家庭との両立が難しい。 家庭環境に変化があり、今後は家族との時間も大切にしながら働ける環境に身を置きたい。
子育てへの理解が不十分で、育児との両立が難しい。 子どもの成長に合わせて、家庭と仕事が両立できる働き方を考えたい。
心身への負荷が大きく、今の仕事を続けるのが難しい。 自身の健康について見直す時間を経て、より自分らしく働ける環境を選びたい。
やりたい仕事ではなかった。 自分の価値観やスキルを生かせる分野にチャレンジしたいという気持ちが強まった。

 

4-3.現職への感謝も伝える

退職の意向を伝えるときは、今までの職場での経験や指導への感謝も一緒に伝えることで、受け入れてもらいやすくなります。感謝の伝え方の例としては、以下のようなものが挙げられます。

 

● 在職中は多くの学びの機会をいただき、心より感謝しております。
● 貴重な経験を積ませていただき、成長の機会をいただいたことに感謝しています。
● この職場で培った知識と人とのつながりを、今後も大切にしていきたいと思います。

 

医療業界は意外と狭いものです。退職後につながりができることもあるため、できるだけ良い関係を保って退職するよう心がけましょう

5.ポジティブな転職理由で、前向きな転職を

ネガティブな理由で転職をする場合、それを解消できる転職条件に目が行きがちです。好条件の職場へ転職することも大切ですが、自分のやりたいことや将来像に目を向けて、それを達成するために必要な環境が揃っているかを確認することも、同じくらい重要です。転職活動は、新しい環境へ向かうための第一歩となります。理想的な働き方を実現するためにも、ポジティブで前向きな転職活動を心がけましょう。

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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。病院・薬局で幅広い診療科を経験。現在は2児の子育てをしながら、Webライターとして活動中。専門的な資料や情報をわかりやすくかみ砕き、現場のリアルに寄り添う言葉で伝えることを大切にしている。同じ薬剤師として、日々の悩みやモヤモヤに共感しながら、少しでも役立つヒントや気づきを届けられるように試行錯誤中。