老年薬学認定薬剤師は、高齢者の薬物治療に必要な知識やスキルを身に付けていることを証明する認定資格です。本記事では、老年薬学認定薬剤師の概要や仕事内容についてお伝えするとともに、申請条件や申請方法、試験問題・テキストについて解説します。加えて、老年薬学認定薬剤師の更新方法や上位資格の老年薬学指導薬剤師についても紹介しています。
1.老年薬学認定薬剤師とは?
老年薬学認定薬剤師とは、一般社団法人日本老年薬学会が実施する認定制度です。誤嚥や転倒、せん妄、認知症などの症状を持つ高齢者に薬学的管理・指導を行ったり、多剤処方や重複投薬など薬物治療に関する問題を解決するために医師へ提言したりと、高齢者の薬物治療の専門家として一定水準以上の知識や技術を持つ薬剤師を認定します。
参照:制度概要|一般社団法人 日本老年薬学会
2024年10月時点で、老年薬学認定薬剤師の有資格者の人数は194名です。日本老年薬学会のウェブサイトから認定者一覧が確認できます。
参照:認定薬剤師一覧|一般社団法人 日本老年薬学会
2.老年薬学認定薬剤師の仕事内容
老年薬学認定薬剤師の仕事は、主に高齢者の薬物治療をサポートすることです。高齢者に多い老年症候群には、以下のような症状があります。
● 転倒
● せん妄・認知症
● 排尿障害
● 寝たきり・褥瘡 など
老年薬学認定薬剤師は、上記のような症状や複数の疾患を抱える高齢者に対して、包括的な薬学的管理・指導を行い、QOLの改善に寄与することが求められています。
また、高齢者は以下のような薬物関連の問題や課題を抱えている傾向にあります。
● 多剤処方
● 薬物有害事象 など
これらを解決するために、処方を見直したり、医師に提言したりすることも重要な仕事です。
さらに、老年薬学認定薬剤師には、高齢者施設や在宅の環境整備、感染防御、医薬品の安全管理に関わること、薬学的知見や高齢者に関する基礎研究、臨床研究に基づき、チーム医療および医療・介護・福祉の連携の中で、提案や調整などをすることが求められます。
参照:制度概要|一般社団法人 日本老年薬学会

3.老年薬学認定薬剤師になるには
老年薬学認定薬剤師の資格を取得するためには、まず認定試験に合格する必要があります。その後、定められた手順で認定申請を行い、書類審査をクリアしなければなりません。また、認定申請を行う際には、申請条件を満たす必要があるため注意が必要です。
ここでは、老年薬学認定薬剤師の申請条件や申請方法、試験問題・テキストのほか、合格率・難易度に関する情報をお伝えします。
3-1.申請条件
老年薬学認定薬剤師になるための申請条件は以下のとおりです。
資格 | ● 認定申請時点で薬剤師免許取得後3年以上経過していること ● 3年度以上引き続いて日本老年薬学会の一般会員であること ※認定申請年度はカウントに含めない ● 認定試験に合格していること ● 以下のいずれかの認定薬剤師を取得していること ※2024年度の申請から施行 1. 薬剤師認定制度認証機構により認証された生涯研修認定制度による認定薬剤師 2. 日本病院薬剤師会 日病薬病院薬学認定薬剤師 3. 日本医療薬学会認定薬剤師 |
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症例報告 | 業務を通じて高齢者の薬物療法の有効性または安全性に直接寄与した症例を10症例報告できること |
研修単位 | 以下を含めて、取得単位が30単位以上であること ※認定申請年度を除き4年度以内 1. 日本老年薬学会学術大会への参加が1回以上 2. 日本老年薬学会が主催する学術大会および研修などの単位を15単位以上 |
実技実習 | 日本老年薬学会の指定する実技実習などにおいて、3項目以上受講していること ※認定申請年度を除き4年度以内 |
推薦 | 以下のいずれかの推薦があること 1. 日本老年薬学会役員(理事、監事、評議員) 2. 所属長(病院長あるいは施設長など) 3. 保険薬局においては開設者 |
認定期間 | 5年 |
日本老年薬学会が発行する単位シールは、緑色と橙色の2種類があります。橙色の単位シールは、日本老年薬学会が後援および単位シールの発行を認めた研修会などとなるため、「日本老年薬学会が主催する学術大会および研修などの単位」に該当しません。単位をカウントする際は注意しましょう。
3-2.申請方法
認定試験に合格した薬剤師には、事務局からID・パスワードが発行されます。そのIDとパスワードを使って、申請受付期間(4月1日~5月31日)に日本老年薬学会のウェブサイトの会員ページから申請手続きを行わなければなりません。「資格認定申請」の画面から、以下が行えます。
● 移行審査料の受領証の提出
● 10症例の入力
申請資料については、ファイルデータが確認できない場合、再提出を求められる場合があります。そのため、認定審査が終了するまで、各種申請資料は保管しておきましょう。
また、申請受付期間であれば、入力内容の修正や資料の再アップロードが可能です。不備などが確認された場合は、申請受付期間内に修正するようにしましょう。
なお、単位や実技実習などは、認定申請年度を除く4年度以内の受講分が有効です。日本老年薬学会の年度は3月1日から2月末までとなっているため、単位取得や実技実習などの受講日に注意しましょう。
参照:認定申請の手引き|一般社団法人 日本老年薬学会
3-3.試験問題・テキスト
老年薬学認定薬剤師の認定試験については、出題範囲や問題例、参考図書・資料が提示されています。2025年度の認定試験の出題範囲は、以下のとおりです。
2. 加齢に伴う薬物動態の変化
3. 高齢者薬物療法
精神疾患、神経疾患、呼吸器疾患、循環器疾患、高血圧、脂質異常症、腎疾患、糖尿病、褥瘡、消化器系疾患、泌尿器疾患、筋骨格疾患、がん
4. フレイル
5. サルコペニア
6. 栄養療法
7. 高齢者の処方見直しへのアプローチ
8. 高齢者の身体能力に合わせた服薬支援
9. 多職種との連携
10. 感染対策
試験問題は選択形式による出題となっており、集合受験またはオンライン受験が選択できます。ただし、2026年度からはオンライン受験のみとなるため、受験する場合はインターネット環境を整える必要があるでしょう。
また、参考図書や資料として、以下が提示されています。
● ポリファーマシー見直しのための医師・薬剤師連携ガイド(書籍)
● ケースで学ぶ老年薬学(書籍、日経DI)
● 病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方
● 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(公開PDF)
● サルコペニア診療ガイドライン2017年版(公開PDF)
● フレイル診療ガイド 2018年版(書籍)
● 高齢者脂質異常症診療ガイドライン2017(公開PDF)
● 高齢者高血圧診療ガイドライン2017(公開PDF)
● 高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版(2019年3月)(公開PDF)
● 高齢者のがん薬物療法ガイドライン(書籍)
● 高齢者糖尿病治療ガイド2023(書籍)
● 高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)(公開PDF)
● 高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))
● 高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン 人工的水分・栄養補給の導入を中心として(公開PDF)
● 高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024(書籍)

3-4.合格率と難易度
老年薬学認定薬剤師の認定試験について、日本老年薬学会のウェブサイトで受験者数や合格率などは公開されていません。難易度を測る目安としては、認定試験の実施要項内に問題例が示されているため、内容を確認しておくとよいでしょう。
参照:認定試験|一般社団法人 日本老年薬学会
老年薬学認定薬剤師になるには、症例報告や日本老年薬学会が指定する認定薬剤師の資格取得が必要です。一定水準以上の実務経験や知識・技術のある薬剤師であることが求められ、取得するには継続的に自己研鑽をしなければならない資格といえます。
4.老年薬学認定薬剤師の更新方法
老年薬学認定薬剤師の更新条件は以下のとおりです。
資格 | ● 認定を取得してから継続して日本老年薬学会に所属していること ● 更新に係る試験を合格した者であること ● 以下のいずれかの認定薬剤師を取得していること ※2023年度以前に認定を受けていた場合は更新時に証明の写しの提出が必要 1. 薬剤師認定制度認証機構により認証された生涯研修認定制度による認定薬剤師 2. 日本病院薬剤師会 日病薬病院薬学認定薬剤師 3. 日本医療薬学会認定薬剤師 |
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症例報告 | 業務を通じて高齢者の薬物療法の有効性または安全性に直接寄与した症例を10症例報告できること |
研修単位 | 取得単位40単位以上、かつ日本老年薬学会が主催する学術大会および研修などの単位を20単位以上含むこと |
認定期間 | 5年 |
更新申請をするためには、事務局から発行されたIDとパスワードで、日本老年薬学会のウェブサイトの会員ページにログインし、手続きを行う必要があります。
「資格認定申請」の画面から、確認試験の回答と10症例の入力を行い、以下の申請書類を提出します。
● 更新用単位取得証明書
● 認定薬剤師の証明の写し
● 審査料の振込金(兼手数料)受領書
申請書類はPDF(振込金(兼手数料)受領書はPDFまたはJPEG)でアップロードします。なお、単位取得の証明書については、資料を並べてスキャンし、ひとつのPDFファイルにしなければなりません。更新審査合格者は、通知後30日以内に登録料を収める必要があります。
参照:更新申請|一般社団法人 日本老年薬学会
5.上位資格の「老年薬学指導薬剤師」とは?
老年薬学指導薬剤師とは、老年薬学認定薬剤師の上位資格です。豊富な実務経験と学術活動・学会活動の実績があり、老年薬学認定薬剤師の養成などを行うための指導と評価ができる薬剤師を老年薬学指導薬剤師として認定します。
老年薬学指導薬剤師は、日本老年薬学会に5年以上継続して入会し、老年薬学認定薬剤師の資格を持っていることが要件です。加えて、老年薬学に関する学会発表を10回以上行い、そのうち日本老年薬学会が主催する年会で筆頭発表者となった発表が1回以上あることが必要です。また、老年薬学に関する学術論文も5報以上、そのうち1報は筆頭著者でなければなりません。
老年薬学指導薬剤師は、一定以上の学術活動や学会活動が求められる点が、老年薬学認定薬剤師との大きな違いです。
参照:指導薬剤師制度|一般社団法人 日本老年薬学会

6.老年薬学認定薬剤師を目指そう
超高齢社会である日本において、薬剤師は高齢者の薬物治療に関わる知識や技術を得る必要があります。老年薬学認定薬剤師は、資格取得を通して実務に必要な知見が身に付けられるでしょう。より丁寧な服薬管理、服薬指導を行うためにも、老年薬学認定薬剤師を目指してみてはいかがでしょうか。
🔽 認定薬剤師の種類一覧を紹介した記事はこちら

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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