薬剤師のスキルアップ 公開日:2025.06.12 薬剤師のスキルアップ

インフェクションコントロールドクター(ICD)とは?資格の取得方法やメリットを解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

インフェクションコントロールドクターとは、ICD制度協議会が実施している認定制度で、医師や薬剤師などが取得できる認定資格です。本記事では、インフェクションコントロールドクターの概要や仕事内容、資格取得のメリットなどをお伝えするとともに、申請要件や申請方法、更新方法について解説します。

1.インフェクションコントロールドクターとは?

インフェクションコントロールドクターとは、ICD制度協議会が認定する感染制御の専門的知識を持つエキスパートのことです。
 
インフェクションコントロールドクターを取得できるのは医師だけではありません。医師以外の職種であっても、感染症関連分野の博士号(PhD:ドクター)の学位を取得していれば、要件を満たすことで取得できます。
 
2019年にICD制度協議会が実施したアンケート調査によると、インフェクションコントロールドクターの資格を取得している職種の割合は、以下のとおりです。

 

職種 割合
医師 89.58%
歯科医師 6.81%
薬剤師 1.90%
臨床検査技師 0.65%
看護師 0.04%
その他 1.03%

参考:2019年ICD制度協議会アンケート調査結果|ICD制度協議会

 

なお、2019年1月時点で、インフェクションコントロールドクターの有資格者の人数は9,362名となっています。
 
医師と比較して薬剤師の認定者数は少ないものの、薬剤耐性への対策は世界的な流れでもあるため、今後は薬剤師の認定者が増えていくことも考えられるでしょう。
 
参考:薬剤耐性(AMR)対策について|厚生労働省

患者さんへの対応から
実務に役立つ知識まで
すべて無料で視聴可能!
\薬剤師のスキルアップにおすすめ/

2.インフェクションコントロールドクターの仕事内容

病院は免疫機能が低下した患者さんが集まる特殊な環境です。健康であれば感染症が起こらない微生物であっても、病院感染を惹起しやすい状況にあります。
 
そのため、院内の感染制御を適正化することは、患者さんやスタッフを病院感染から守ること、病院機能を維持することにつながるでしょう。
 
インフェクションコントロールドクターは感染制御のエキスパートとして、効果的な感染対策を実施することが期待されます。
 
インフェクションコントロールドクターの仕事内容としては、主に以下のようなものが挙げられます。

 

● 病院感染の実態調査(サーベイランス)
● 病院感染対策の立案と実施
● 対策の評価および対策の見直し
● 職員の教育・啓発
● 病院感染多発(アウトブレーク)時の対応
● 伝染性感染症発症時の対応

参考:概要|ICD制度協議会

 

インフェクションコントロールドクターは、学会活動や研修会などに参加して最新の正しい知識や情報を身に付け、院内の感染対策に貢献することが求められます。

3.インフェクションコントロールドクターの資格を取得するメリット

インフェクションコントロールドクターの資格を取得するメリットとして、院内の感染対策を担う中心的な存在となれる点が挙げられるでしょう。
 
感染対策委員会に所属して、感染対策などの業務に携わることで、専門性を十分に発揮することができます。多職種から頼られる存在となり、やりがいを感じられるでしょう。
 
また、医科診療報酬の感染対策向上加算1・2は、「3年以上の病院勤務経験を持つ(または適切な研修を修了した)感染防止対策に関わる専任の薬剤師」などを感染制御チームの構成員にすることが施設基準のひとつとなっています。
 
参考:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省
 
🔽 感染対策向上加算について解説した記事はこちら


 
そのため、インフェクションコントロールドクターの資格は、院内での業務担当を決めるときだけでなく、転職や人事考課などでも強みとなるでしょう。

4.インフェクションコントロールドクターになるには

インフェクションコントロールドクターは、認定試験は実施されておらず、申請要件を満たすことで資格取得が可能です。ここでは、インフェクションコントロールドクターになるための申請要件や申請方法、活動実績についてお伝えします。

 

4-1.申請要件

インフェクションコントロールドクターの申請要件は、以下のとおりです。

 

● ICD認定制度に加盟しているいずれかの学会の会員であること
 ※会員歴の長さは問わない
● 医師歴が5年以上の医師または博士号取得後5年以上のPhDであること
● 病院感染対策に係わる活動実績があること
● 所属施設長の推薦があること
● 所属学会からの推薦があること

参考:インフェクションコントロールドクター(ICD)制度規則|ICD制度協議会

 

ICD認定委員会で上記の条件を満たしていることを確認し、協議会がインフェクションコントロールドクターとして認定します。推薦基準は各学会で定めており、所属学会の責任のもと推薦が行われます。

 

4-1-1.ICD制度協議会の加盟学会

ICD制度協議会の加盟学会は、2025年6月時点で30学会あります。インフェクションコントロールドクターになるためには、いずれかの加盟学会に所属しなければなりません
 
参考:加盟学会|ICD制度協議会

 

30学会の中には、認定薬剤師制度を設けている学会もあります。日本化学療法学会では「抗菌化学療法認定薬剤師」「外来抗感染症薬認定薬剤師」を認定しており、所属すると認定薬剤師に加えてインフェクションコントロールドクターの資格取得が目指せます。
 
参考:認定制度|日本化学療法学会

 
🔽 抗菌化学療法認定薬剤師について解説した記事はこちら

 

4-1-2.病院感染対策に係わる活動実績

病院感染対策に関わる活動実績は、以下の3つを満たすこととされています。

 

● 感染対策実務歴が5点以上あり、所属施設長の証明があること
● ICD制度協議会の主催する講習会または厚生労働省の委託による院内感染対策講習会への参加実績が3回(45点)以上あること
● 感染制御に関する論文または学会・研究会発表があること(筆頭1編または共同2編)

参考:ICD制度規則施行細則|ICD制度協議会

 

感染対策実務歴については、ICD認定申請書に記載されている「平時の感染対策」または「臨時の感染対策」のいずれかの項目を選択します。平時の感染対策は1項目につき5点、臨時の感染対策は1項目につき2点のため、計5点以上になるよう選択し、チェックした内容の詳細を記載しなければなりません。

 

4-2.申請方法

申請するためには、以下の書類を準備します。

 

1. ICD認定申請書
2. 医師免許証または学位記のコピー
3. 病院感染制御活動記録一覧表
4. 所属施設長の推薦状
5. 所属学会の推薦状
6. 申請料(郵便または銀行の払込用紙のコピー)

参考:インフェクションコントロールドクター(ICD)制度規則|ICD制度協議会

 

推薦を希望する学会に、上記の書類を提出します。所属学会の推薦状には、申請者の氏名のみを記入します。書類提出後、学会の理事長・会長の署名捺印がされると、ICD制度協議会で審査・認定が行われます。
 
申請料は11,000円(税込)です。インターネットバンキングを利用した場合は、振り込み完了画面を印刷して添付します。

患者さんへの対応から
実務に役立つ知識まで
すべて無料で視聴可能!
\薬剤師のスキルアップにおすすめ/

5.インフェクションコントロールドクターの更新方法

インフェクションコントロールドクターは5年ごとの更新制です。以下の場合、認定資格を喪失します。

 

1. 正当な理由を付して、ICDとしての資格を辞退したとき
2. 所属学会会員の資格を喪失したとき
3. 申請書類に虚偽が認められたとき
4. 所定の期日までに認定更新を申請しなかったとき
5. ICDとしてふさわしくない行為のあったと認められたとき

参考:インフェクションコントロールドクター(ICD)制度規則|ICD制度協議会

 

5-1.更新要件

インフェクションコントロールドクターの資格更新のためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

 

● 認定ICDとして認定された後も引き続き認定推薦母体の学会の会員であること
● 認定を受けてから5年間、病院感染制御や学術活動に貢献するとともに、ICD制度協議会が主催、指定ないしは推薦をした教育企画等に参加し、以下の所定研修単位を取得すること
  1. 総単位数は50単位以上
  2. 50単位のうち20単位以上は、ICD制度協議会または厚生労働省の委託の講習会に2回以上参加した単位が含まれていること

参考:更新手続きについて|ICD制度協議会

 

ただし、認定期間中に65歳を超えた場合には、認定推薦母体の学会の会員であれば更新できます。

 

5-2.研修単位

更新に必要な研修単位は、以下の講習会や学術集会などで取得します。

 

講習会・学術集会など 更新点数
ICD制度協議会の主催する講習会 15点
厚生労働省の委託による院内感染対策講習会 10点
● ICD制度協議会加盟学会の主催する学術集会(支部会を含む)
● ICD制度協議会が指定したセミナー
参加者:5点
筆頭演者:2点
感染制御に関する学術論文 筆頭著者:5点
共同著者:1点
ICD制度協議会が指定した日本医学会加盟学会の年次講演会で、院内感染対策に関するもの 5点
ICD制度協議会の推薦するその他の講習会、教育企画 2点

参考:更新手続きについて|ICD制度協議会

 

5-3.申請方法

インフェクションコントロールドクターの更新では、対象者へICD制度協議会から以下の更新用の書類一式が4月に送付されます。

 

● ICD認定資格更新申請書
● 単位取得確認書類

 

更新料は11,000円(税込)です。申請書には、振込用紙のコピーを貼付して提出します。インターネットバンキングを利用した場合は、振り込み完了画面を印刷して貼付しましょう。
 
書類の提出期限は、申請書類に記載されています。期限までに更新手続きを行わない場合は更新辞退と判断されるため、更新申請の書類が届いたら期限を確認することが大切です。

6.インフェクションコントロールドクターを目指そう

薬剤師がインフェクションコントロールドクターを目指すためには、大学院に通って博士号を取得した上で、ICD制度協議会に加盟する学会に所属し、所属施設長と所属学会から推薦される必要があります。
 
取得難易度が高い分、資格を取得できた場合には高い専門性を示すことができるでしょう。活躍の場も広がるため、資格取得に適した環境やスキルを持つ薬剤師は、インフェクションコントロールドクターを目指してみてはいかがでしょうか。

 
🔽 認定薬剤師の種類一覧を紹介した記事はこちら

 
🔽 専門薬剤師の種類一覧を紹介した記事はこちら

患者さんへの対応から
実務に役立つ知識まで
すべて無料で視聴可能!
\薬剤師のスキルアップにおすすめ/


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。