認定トキシコロジストは、毒性学に精通している研究者などを対象とした認定資格です。本記事では、認定トキシコロジストの概要や仕事内容、受験資格、試験問題、合格率・難易度などについてお伝えするとともに、更新方法や名誉トキシコロジストについても解説します。
1.認定トキシコロジストとは?
認定トキシコロジストとは、日本毒性学会が実施する認定制度で、毒性の検出や機序の解明、化学物質の管理など、幅広い範囲の専門的な知識と技術を持つトキシコロジストとして一定基準を満たした場合に認定されます。
2024年11月末時点における認定者の人数は656人です。日本毒性学会のウェブサイトで認定者一覧が公表されています。
参考:認定トキシコロジストとは|日本毒性学会
参考:認定トキシコロジスト一覧|日本毒性学会
1-1.毒性学とは?
毒性学とは、医薬品や化学物質によって起こる生体や生態系への有害反応(毒性)を明らかにし、毒性の発現メカニズムを解明する学問のことです。
毒性学の分野としては、サリドマイド、キノホルムなどの薬害や、メチル水銀による水俣病の発症といった公害に関する研究などが挙げられます。
参考:毒性学会Q&A|日本毒性学会
1-2.日本毒性学会に所属する会員の職種
日本毒性学会に所属する会員は、主に以下のような職種とされています。
● 医薬品等の新規化学物質の承認や規制に関わる国立の研究所、医薬品医療機器総合機構の研究者など
● 医学、薬学、獣医学等の毒性研究者など
認定トキシコロジストは、製薬企業や大学、研究所、官庁に所属している場合が多く、毒性学に関する研究者が中心となっています。
参考:毒性学会Q&A|日本毒性学会
2.認定トキシコロジストの求人と仕事内容
日本毒性学会のウェブサイトには、企業や公的機関の求人が掲載されています。職種は研究職や技術職、臨床開発職などさまざまで、求人の一部には歓迎条件や希望条件として認定トキシコロジストの資格取得が含まれています。
参考:求人|日本毒性学会
医薬品や食品、農薬などを開発し、製造・販売する企業には、開発された新規の物質について、人や環境への影響と安全性を研究・評価するための部門があります。
企業の毒性研究者が担う主な仕事のひとつは、さまざまな試験を組み合わせて安全性研究を行うことです。安全性研究は高い専門性が求められるため、専門に行う受託研究機関もあり、毒性研究者はさまざまな企業・官庁などで活躍しています。
ここでは、職種ごとの毒性研究者の主な仕事内容について紹介します。
2-1.製薬企業の安全性研究員
医薬品の開発は、無数にある化合物から薬効成分となる開発候補を選択したり、成分を発見したりすることから始まります。
製薬企業の安全性研究員は、医薬品の候補となる成分を絞り、動物実験や細胞実験によって有効性と安全性を検討する非臨床試験、新薬の候補となる成分を人に投与した場合の有効性や安全性を確認する臨床試験などを行います。
医薬品として承認される際は、非臨床試験と臨床試験のデータから副作用と安全域を確認するため、製薬企業の安全性研究員は、医薬品の安全性に関わる業務を担います。

2-2.食品企業の安全性研究員
食品の製造や流通時には、原料を加工したり、保存性を高めるための添加物や包装容器を使用したりします。
食品企業における安全性研究員の仕事のひとつは、包装容器の素材や添加物の成分などによって健康へ悪影響を及ぼさないように、安全性に関する既存の情報を調査したり、安全性を確認する試験を実施したりすることです。
最近では、特定保健用食品や栄養機能食品、サプリメントなども普及しており、これらの安全性を担保する上でも、食品企業の安全性研究員は大きな役割を担っています。
2-3.CROの安全性研究員
CROとは、受託研究機関(Contract Research Organization)のことです。企業や大学、政府などから委託された研究試験を行う機関を指します。
CROの安全性研究員は、毒性試験の専門家として依頼を受けた物質の安全性を確認するのが主な仕事です。使用目的や特性に合わせた毒性試験の提案・実施をすることで、物質の危険性などを明確にします。
身の回りにある医薬品や食品、農薬、化学物質などは、使い方や摂取量によって健康被害を引き起こす可能性があります。安全性研究員によって収集された毒性データは、消費者が安心して製品を使用するための重要なデータとなり、人々の健康被害を未然に防ぐことにつながります。
3.認定トキシコロジストになるには
認定トキシコロジストになるには、日本毒性学会が実施する書類審査と認定試験に合格しなければなりません。ここでは、認定試験の受験資格や試験問題、勉強方法、合格率と難易度についてお伝えします。
3-1.受験資格
認定試験の受験資格や費用は、以下のとおりです。
資格 | 日本毒性学会の会員であること |
---|---|
学会発表 論文投稿など |
受験資格評点基準に従って、総合点が80点以上に達していること |
経歴 | 出願時に以下の毒性学領域における実績を有する者であること ● 6年制大学卒業後5年以上 ● 4年制大学卒業後7年以上 ● 短期大学卒業後10年以上 ● 高等学校卒業後12年以上 ● 上記以外の者ではこれに準ずる年数 毒性学領域における実績期間には、毒性学関連の職歴および大学院等における毒性学関連の研究期間を含めるものとする ※修学期間、就業期間および研究実績期間の重複は多重に計上しない ※その他、大学等への入学前の実績期間や複数の大学等での修学の取り扱い等に関する疑義解釈は教育委員会が行う |
受験料 | 3万円 |
認定料 | 2万円 |
なお、上記のうち、基準に満たない要件がある者についても、理事長が特に認めた場合には受験資格を与えることがあるとされています。
認定トキシコロジストの受験資格の評点基準は、以下のとおりです。
種別 | 評点項目 | 参加 | 発表 |
---|---|---|---|
論文 | 毒性学関連論文 ※レフリー制度が整っている学術誌に限る |
筆頭著者・責任著者:10点/編 共同発表:5点/編 |
|
学会活動 | JSOT学術年会 | 10点/回 | 筆頭著者・責任著者:10点/編 共同発表:5点/編 |
毒性学に関連する学会の学術年会 | 5点/回 | ||
講習会等 | 基礎教育講習会 | 40点/回 | |
JSOT主催・公認講習会 | 5点/回 |
3-2.試験問題
認定トキシコロジストの認定試験は、原則年1回実施されます。試験問題については、詳細が公表されていません。
第27回認定トキシコロジスト認定試験については、2024年10月20日(日)に昭和大学旗の台キャンパスで実施され、200問の試験で140点以上を得点した人が合格しています。
参考:認定試験のお知らせ|日本毒性学会

3-3.勉強方法
日本毒性学会のウェブサイト上で認定試験の具体的な出題範囲は明示されていませんが、トキシコロジーの標準テキストとして『トキシコロジー(第3版)』が刊行されています。
認定トキシコロジスト試験の問題作成は資格更新の評定基準に含まれており、可能な限り同書から出題することとされているため、同書をベースに対策を進めるとよいでしょう。
『トキシコロジー(第3版)』は会員特別価格が設けられており、購入した会員には特典として電子版も提供されます。
参考:学会編集書籍|日本毒性学会
参考:毒性学ニュース Vol.50 No.3|日本毒性学会
3-4.合格率と難易度
認定トキシコロジストの合格率は、第1回(1998年)認定試験から第27回(2024年)認定試験までの実績がウェブサイトで公表されています。
第27回認定試験は受験者数74人、合格者数25人で、合格率は34%です。第1回から第27回の合格率は25~55%となっており、年によって違いがあるものの、近年は50%以下で推移しています。
受験資格として一定以上の実務経験と論文投稿・学会発表などが求められていることからも、資格取得の難易度は比較的高いといえるため、十分な対策が必要になるでしょう。
参考:認定トキシコロジストとは|日本毒性学会
4.認定トキシコロジストの更新方法
認定トキシコロジストの認定期間は5年です。継続して認定を受けるためには、資格更新をしなければなりません。資格更新の要件と費用は、以下のとおりです。
資格 | 過去5年間継続して日本毒性学会の会員であること |
---|---|
学会発表 論文投稿など |
● 過去5年間に評定基準に基づく総合点が80点以上 ● 評点基準のカテゴリーIIに定める学会に、過去5年間に1回以上参加 |
認定試験 | 資格更新試験に合格すること |
更新料 | 2万円 |
65歳以上の場合、あるいは特別な事情により理事長が認めた場合に限り、評点基準のカテゴリーIIの学会参加は免除されます。
カテゴリー | 評点項目 | 評点 | 上限(5年間) |
---|---|---|---|
I | 認定試験の問題作成 | 20点/回 | 80点 |
II | 学会活動 ● JSOT学術年会 参加/発表 ● 毒性学に関連する学会の学術年会 参加/発表 |
5点/回 | 25点 |
III | JSOT主催・公認講習会等 (講師を含む) |
5点/回 | 25点 |
IV | 毒性学関連論文 | 5点/編 | 25点 |
また、資格更新試験は過去5年間に出題された認定試験問題の中から選出した問題を資格更新申請者に送付し、一定期間後に回収することで実施されます。
正答率80%以上で合格できますが、不合格だった場合には1回のみ再試験が実施され、正答率80%以上だった場合に合格となります。
参考:認定資格更新に関する細則|日本毒性学会
5.名誉トキシコロジストとは?
名誉トキシコロジストとは、長年、毒性学の進歩・発展に貢献したと認められた場合に表彰される名誉称号です。以下の基準をすべて満たすと、名誉トキシコロジストとして理事長に推薦されます。
2. 15年以上の認定資格歴があること
3. 表彰を受けることを本人が希望すること
名誉トキシコロジストは、認定トキシコロジストとは別の制度です。そのため、66歳を過ぎても更新基準をクリアすれば、認定トキシコロジストの資格が得られます。また、名誉トキシコロジストの表彰を受けるための費用は徴収されません。
名誉トキシコロジストの人数は、2025年1月時点で66名です。日本毒性学会のウェブサイトで一覧が公表されています。
参考:名誉トキシコロジスト表彰に関する細則|日本毒性学会
参考:名誉トキシコロジスト一覧|日本毒性学会

6.認定トキシコロジストを目指そう
認定トキシコロジストは、主に企業や研究所、国の研究機関などに所属する研究者を対象とした認定資格です。薬剤師以外にも、研究職等に従事する理工農系大学の卒業者や医師、獣医師などが対象となります。
認定トキシコロジストは、受験資格の要件や認定試験の合格率を踏まえると、難易度の高い認定資格です。しかし、高い専門性の証明となるため、資格取得を目指せる人はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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