薬剤師のスキルアップ 公開日:2023.11.16 薬剤師のスキルアップ

退院時共同指導料とは?算定要件や算定のタイミング、2022年度改定での変更点などを解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬局薬剤師は、これまで地域の医療機関と連携して外来患者さんのサポートを行うよう求められてきました。特に、在宅患者さんへの対応については、合同カンファレンスに参加することで、多職種と連携して医療提供の一翼を担う流れが定着しつつあります。合同カンファレンスが求められる診療報酬には、地域支援体制加算や在宅患者緊急時等共同指導料があり、退院時共同指導料もその一つです。今回は、退院時共同指導料の算定要件や算定のタイミング、算定方法などについて詳しく解説します。

1.退院時共同指導料とは

退院時共同指導料とは、病院などの患者さんが入院する医療機関と、地域のクリニックや薬局など、退院後に患者さんをサポートする医療従事者が連携することを評価する診療報酬です。調剤報酬は区分がありませんが、医科診療報酬と歯科診療報酬の退院時共同指導料には1と2があり、それぞれ算定要件や点数が異なります。
 
薬局薬剤師は、退院時共同指導料に関わる合同カンファレンスに参加することで、入院中にどのような治療を行い、どういった経緯で服用薬を変更したかなどを把握できます。入院中の治療経過を把握することは、退院後の服薬アドヒアランスに大きく関わるため、薬局薬剤師が合同カンファレンスに参加する意義は大きいでしょう。
 
ただし、退院時共同指導料は、合同カンファレンスに参加するだけでは算定できません。カンファレンスで共有された患者さんの情報を基に、服薬指導の実施や文書による情報提供などを行う必要があります。

 
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2.退院時共同指導料の算定要件と点数

退院時共同指導料は算定要件を満たすことで、600点を算定することができます。ここでは算定要件について詳しく見ていきましょう。

 

2-1.退院時共同指導料の算定要件

退院時共同指導料の算定要件は以下のように定められています。
 
『退院時共同指導料は、保険医療機関に入院中の患者について、当該患者の退院後の訪問薬剤管理指導を担う保険薬局として当該患者が指定する保険薬局の保険薬剤師が、原則として当該患者が入院している保険医療機関(以下「入院保険医療機関」という)に赴いて、患者の同意を得て、退院後の在宅での療養上必要な薬剤に関する説明および指導を、入院保険医療機関の保険医または看護師等、薬剤師、管理栄養師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士もしくは社会福祉士と共同して行った上で、文書により情報提供した場合に、当該入院中1回(別に厚生労働大臣が定める疾病等の患者については2回)に限り算定できる。なお、ここでいう入院とは、医科点数表の第1章第2部通則5に定める入院期間が通算される入院のことをいう。』

 
参照:令和4年度調剤報酬改定の概要(調剤)|厚生労働省

 
退院時共同指導料の対象となる患者さんは、退院後に自宅療養をする予定の入院患者さんです。合同カンファレンスの参加については、基本的に直接医療機関へ出向くこととされていました。しかし、2022年度の診療報酬改定により、ビデオ通話での参加条件が緩和され、医療機関へ直接行かずに参加できることになっています。
 
また、患者さんへの指導については、家族や退院後に患者さんのケアを行う人に対して指導を行った場合でも算定可能です。ただし、薬歴に患者さんや家族などに行った服薬指導などの要点を記載し、患者さんや家族などに提供した文書の写しを添付することとされています。
 
参照:調剤報酬点数表に関する事項(2022年度診療報酬改定)|厚生労働省

 

2-2.退院時共同指導料を2回算定できるケース

退院時共同指導料の算定は、基本的に入院中に1回までとされています。しかし、以下のケースについては「別に厚生労働大臣が定める疾病等の患者」にあたるため、2回まで算定が認められています。

 

● 末期の悪性腫瘍の患者さん(在宅がん医療総合診療料を算定している患者さんを除く)
● 在宅での療養を行っている患者さんであって、高度な指導管理を必要とするもの

 

また、以下の状態である患者さんで、ドレーンチューブまたは留置カテーテルの使用、もしくは、人工肛門または人工膀胱を設置している患者さんについても、退院時共同指導料を入院中に2回まで算定できます。

 

● 在宅自己腹膜灌流指導管理
● 在宅血液透析指導管理
● 在宅酸素療法指導管理
● 在宅中心静脈栄養法指導管理
● 在宅成分栄養経管栄養法指導管理
● 在宅人工呼吸指導管理
● 在宅悪性腫瘍等患者指導管理
● 在宅自己疼痛管理指導管理
● 在宅肺高血圧症患者指導管理
● 在宅気管切開患者指導管理

 

参照:特掲診療料の施設基準等の一部を改正する件(令和4年厚生労働省告示第56号)|厚生労働省

3.2022年度の診療報酬改定における退院時共同指導料の変更点

2022年度の診療報酬改定では、退院時共同指導料の算定要件が変更されました。変更点について見ていきましょう。

 

3-1.ビデオ通話を使用する要件が緩和

2022年度の診療報酬改定で、ビデオ通話を使用する場合の条件が緩和されました。改定前は、3人以上が参加しており、そのうち2人以上が医療機関に出向いているといった留意事項を満たしている場合に限り、ビデオ通話によるカンファレンスの参加が認められていました。2022年度の改定では、これらの条件が削除され、以下のように定められています。
 
『退院時共同指導料の共同指導は、保険薬局の薬剤師が、ビデオ通話が可能な機器を用いて共同指導した場合でも算定可能である』
 
ただし、ビデオ通話を使用して退院時共同指導料に関わる合同カンファレンスに参加する際は、患者さんの同意を得ていることが条件です。情報通信機器を使って患者さんの個人情報を扱うため、情報漏えいなどの観点から患者さんの同意が必要とされています。
 
また、医療機関の電子カルテにアクセスしてカンファレンスを行う場合などは、厚生労働省が定める「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に対応していることとされています。

 

参照:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版(令和5年5月)|厚生労働省

 

3-2.共同カンファレンスに参加する医療従事者に薬剤師が明記された

改定前の算定要件には、合同カンファレンスに参加する医療従事者について、薬剤師が含まれていませんでした。2022年度の診療報酬改定では、以下のように明記されています。
 
『…入院中の保険医療機関の保険医または保健師、助産師、看護師、准看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士若しくは社会福祉士と共同して行った…』
 
2022年度の診療報酬改定で新たに明記されたのは、下線部分の医療従事者です。患者さんの退院後の生活をサポートするために必要な医療従事者として薬剤師が明記されました。

 
🔽 2022年度の改定について詳しく解説した記事はこちら

4.退院時共同指導料の算定方法と算定のタイミング

退院時共同指導料は、処方箋の受け付けによって実施・算定するものではありません。そのため、算定する際は、処方箋とは別の調剤報酬明細書(レセプト)を作成し、審査支払機関へ提出する必要があります。また、処方箋の受け付けによるものではないため、受付回数についても計上しないこととされています。退院時共同指導料を算定する際は、受付回数を0回として取り扱いましょう。
 
退院時共同指導料の算定のタイミングは、指導を実施した時点とされています。退院時共同指導料を算定するためには、合同カンファレンス後に、患者さんや家族、退院後に患者さんのケアを担当する人などに指導を行うことが必要です。この指導を実施した時点が算定のタイミングとなります。

5.退院時共同指導料を算定できない事例

退院時共同指導料が算定できない事例について見ていきましょう。

 

5-1.介護保険適用となる患者さんの例外ケース

介護保険の適用患者さんについて、医療保険が適用される場合は算定対象となります。ただし、退院後に在宅で療養する患者さんを対象としているため、以下の施設に入院または入所する場合は算定できません。

 

● 在宅自己腹膜灌流指導管理
● 他の医療機関
● 社会福祉施設
● 介護老人保健施設
● 介護老人福祉施設

 

退院後の居住場所によって退院時共同指導料を算定できないことがあるため、事前に確認しておきましょう。

 

5-2.算定後に死亡退院となったケース

退院時共同指導料は指導を実施した時点が算定のタイミングとなります。そのため、指導後、保険請求を行った後に患者さんが亡くなってしまうこともあります。そういった場合、退院時共同指導料に関する保険請求は取り下げなければなりません。

 

5-3.退院直後に合同カンファレンスを行うケース

入院から在宅医療に移行する場合、退院直後に患者さんの自宅で合同カンファレンスを行うケースもあります。こういったケースでは、退院時共同指導料を算定することができません。退院時共同指導料は、入院中の患者さんに指導を行うことで算定できるものです。そのため、退院後に患者さんの自宅で合同カンファレンスを実施し、指導を行った場合については算定できないことになっています。

6.退院時共同指導料の算定はハードルが高い?

政府は、『薬局における退院時共同指導料の算定回数の推移』について調査しており、「退院時共同指導料の算定回数は2020年をのぞき増加傾向だが、多くない」としています。この調査からも、薬局薬剤師が患者さんの退院後サポートに参画する機会が少ないことがうかがえます。
 
参照:調剤(その2)|厚生労働省
 
薬局薬剤師が退院時共同指導料を算定するには、患者さんの入院の有無を把握するだけでなく、退院の情報を得る必要があります。そのため、患者さんや家族と信頼関係を築き、患者さんに関する情報を得やすい環境を整えることが大切です。
 
あるいは、定期的な来局が滞っている患者さんについて、家族や医療機関に問い合わせるといった対応が必要かもしれません。退院時共同指導料を算定する機会を得るためには、かかりつけ薬剤師やかかりつけ薬局など、地域の薬局としての機能を今まで以上に充実させる必要があるでしょう。

 
🔽 かかりつけ薬剤師の役割について詳しく解説した記事はこちら

7.患者さんの自宅療養をサポートするために

退院時共同指導料は、退院後に、自宅で療養される患者さんを対象とします。患者さんが自宅で安心して治療を受けるためにも、在宅医療に関わる薬剤師が入院中の治療経過を把握することは大切です。また、さまざまな業種の視点から治療に関する情報を共有することは貴重な機会だといえます。2022年度の診療報酬改定で、ビデオ通話による参加が認められたことにより、今後は合同カンファレンスへの参加機会が増えるかもしれません。機会があれば、積極的に参加しましょう。

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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