薬剤師のスキルアップ 更新日:2024.01.16公開日:2023.07.25 薬剤師のスキルアップ

調剤基本料3が改定された背景とは?算定要件と調剤基本料の加算項目について解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

2022年度の診療報酬改定では、「調剤基本料3のロ」が見直され、「調剤基本料3のハ」が新設されました。大手チェーン薬局を狙い撃ちしたとも捉えられる改定ですが、政府が改定に踏み切ったのには理由があります。今回は調剤基本料3について解説するとともに、大手チェーン薬局を対象とした改定になった背景についてお伝えします。

1.新設された「調剤基本料3」とは

調剤基本料3とは、大手チェーン薬局に対して設けられた区分です。調剤基本料3は、「同一グループの店舗数」や「1カ月の合計処方箋受付回数」、「処方箋の集中率」によって、さらにイ、ロ、ハと区分が分けられています。
 
2022年度の診療報酬改定で、この「調剤基本料3のロ」について見直され、「調剤基本料3のハ」が新設されました。まずは、調剤基本料3の見直し内容と見直された背景について見ていきましょう。

 
🔽2022年度調剤報酬改定について詳しく解説した記事はこちら


 

1-1.調剤基本料の見直し内容

2022年度の診療報酬改定で新設されたのは、「調剤基本料3のロ」の「同一グループの保険薬局の数が300以上」という要件と、「調剤基本料3のハ」の追加です。改定前は、調剤基本料3の区分はイとロのみでした。

 

■改定前の調剤基本料3


2022年調剤報酬改定前の調剤基本料3点数表

 
参考:令和4年度調剤報酬改定の概要(調剤)|厚生労働省 保険局 医療課

 

2022年度の改定で、調剤基本料3において、同一グループで処方箋40万回超、または300店舗以上で処方箋集中率85%以下の調剤薬局は、「調剤基本料3のハ」を算定することになりました。また、「調剤基本料3のロ」についても、同一グループ薬局が300店舗以上ある薬局が対象に加わっています。

 

■2022年改定で追加となった調剤基本料3の対象


2022年調剤報酬改定後の調剤基本料3点数表

 
参考:令和4年度調剤報酬改定の概要(調剤)|厚生労働省 保険局 医療課

 

この改定では、主に以下の点で大きな影響を与えています。

 

・処方箋集中率が85%以下の薬局
・同一グループ店舗数が300店舗以上あり処方箋受付回数が85%を超える薬局

 

上記のケースで、同一グループが300店舗以上ある薬局の場合、改定前は調剤基本料1(42点)が算定できていましたが、改定後は調剤基本料3のハ(32点)を算定することになり、10点のマイナスとなります。300店舗以上の大手チェーン薬局は、調剤基本料の算定点数が下がるため、収益面で影響を受けるでしょう。

 

1-2.調剤基本料3のロの見直しとハが新設された背景

調剤基本料は2021年11月26日に行われた中央社会保険医療協議会で議論されました。「中央社会保険医療協議会 総会(第500回)議事次第」の「調剤(その3)について」で示されたデータでは、同一グループの薬局の店舗数が多いほど損益率が高くなる傾向があり、300店舗以上の企業の損益率は10.9%と最も大きい状況でした。

また、調剤基本料1または2を算定している薬局についての損益率は、全体平均が6.2%であるのに対し、グループ店舗数が300店舗以上の薬局の損益率は11.8%と大きく上回っています。こうした状況を受けて、2022年度の改定では、同一グループでの保険薬局の店舗数の要件が加わったようです。さらに、調剤基本料1を算定している薬局のうち、処方箋集中率が40~80%の薬局では、地域支援体制加算の届出をしている割合が多かったことを配慮し、調剤基本料3のハが新設されたと考えられます。

2.そのほかの調剤基本料の算定要件

調剤基本料1、2については大きな見直しはありませんでしたが、特別調剤基本料については見直されています。それぞれの算定要件について簡単にお伝えします。

 

2-1.調剤基本料1

調剤基本料1については見直しがありませんでした。調剤基本料2または3、特別調剤基本料の算定要件を満たさない薬局が、処方箋の受付ごとに42点を算定できます。

 

2-2.調剤基本料2

調剤基本料2についても見直しはありませんでした。処方箋受付回数と処方箋集中率に以下のような制限があり、要件を満たす薬局は26点を算定できます。

 

■調剤基本料2の算定要件


調剤基本料2の算定要件

 
参考:令和4年度調剤報酬改定の概要(調剤)|厚生労働省 保険局 医療課

 

調剤基本料2は調剤基本料3のような同一グループについての規定がないものの、処方箋集中率の高い薬局については調剤基本料が低くなる設定となっています。

 

2-3.特別調剤基本料

022年度の改定では、いわゆる同一敷地内薬局が算定する特別調剤基本料についても見直され、9点から7点へ引き下げられました。また、地域支援体制加算や後発医薬品調剤体制加算についても、100分の80に相当する点数を算定することになります。

 
🔽特別調剤基本料について詳しく解説した記事はこちら

3.調剤基本料3の算定要件

調剤基本料3の算定要件は、同一グループでの処方箋受付回数と処方箋集中率、店舗数によって算定点数が異なります。

 

■調剤基本料3の算定要件


調剤基本料3の算定要件

 
参考:令和4年度調剤報酬改定の概要(調剤)|厚生労働省 保険局 医療課

 

「イ」と「ロ」については処方箋集中率が上記の値を超えていない場合であっても、特定の保険医療機関との間で不動産の賃貸借取引がある薬局は該当します。

 
なお、同一グループとは以下のことを指します。
 

1.保険薬局の事業者の最終親会社等
2.保険薬局の事業者の最終親会社等の子会社等
3.保険薬局の事業者の最終親会社等の関連会社等
4.1から3までに掲げる者と保険薬局の運営に関するフランチャイズ契約を締結している者

 

4.調剤基本料3の改定による大手チェーン薬局への影響

「同一グループの店舗数」の要件が加わったことで、今まで調剤基本料1または2を算定していた薬局が、調剤基本料3のロまたはハを算定することになったケースもあるでしょう。2022年度の改定で、注目されているポイントは、処方箋集中率を85%以下に維持できるよう努めていても、同一グループが300店舗以上ある企業は、調剤基本料が下がるという点です。

例えば、調剤基本料1の42点を算定していた薬局が、調剤基本料3のハの32点となった場合、10点のマイナスとなります。月2,000枚の処方箋受付回数の薬局であれば、20,000点分の売上減です。企業や薬局の状況にもよりますが、1店舗でスタッフ1人分ほどの給料分の売上を失うことから、300店舗以上を運営する調剤薬局にとって、経営上、影響を受けることがうかがえます。

5.調剤基本料3と地域支援体制加算

調剤基本料3を算定している薬局が基本料を上げるには、調剤基本料の加算項目の算定要件を満たすのも一案です。地域支援体制加算は、地域医療へ積極的に貢献する働きをしている薬局を評価するものです。施設基準や実績要件を確認しましょう。
 
また、地域支援体制加算は調剤基本料の区分と実績要件によって算定できる点数が異なります。調剤基本料3を算定している薬局は、要件を満たすことで地域支援体制加算3(17点)または地域支援体制加算4(39点)を算定できます。地域支援体制加算が算定できれば、加算分を合わせることで調剤基本料がプラスになる薬局もあるでしょう。

 
🔽地域支援体制加算について詳しく解説した記事はこちら

6.調剤基本料3と連携強化加算

連携強化加算は、地域支援体制加算を算定している薬局が算定できる加算です。災害や新興感染症の発生時などに地域の医療を保つための体制を整えている薬局が算定できます。連携強化加算は算定点数が2点と決して高い点数ではありませんが、処方箋の受付回数が多ければ売上に影響しやすくなります。調剤基本料3を算定する薬局で、地域支援体制加算を算定できるのであれば、連携強化加算の算定を目指すのもよいでしょう。

 

ただし、連携強化加算は、2022年3月31日の事務連絡で以下の要件が追加されているため、注意が必要です。

 

・PCR等検査無料化事業に係る検査実施事業者として登録され、当該事業を実施していること。

・登録されていることについて、自治体等のホームページ等において広く周知されていること。


参照:(事務連絡)調剤報酬点数表における「連携強化加算」の施設基準等の取扱いについて|厚生労働省保険局医療課

 

PCR等検査無料化事業の検査実施事業者でない場合、登録・実施を行うとともに、ホームページ等で周知してから地方厚生(支)局へ届出を行う必要があります。

 
🔽連携強化加算について詳しく解説した記事はこちら

7.調剤基本料3と後発医薬品調剤体制加算

後発医薬品調剤体制加算は、2022年度の改正で見直された項目で、以下のように点数が引き上げられました。

 

■2022年度調剤報酬改定の後発医薬品調剤体制加算


2022年度調剤報酬改定の後発医薬品調剤体制加算

 
参考:令和4年度調剤報酬改定の概要(調剤)|厚生労働省 保険局 医療課

 

また、後発医薬品の調剤数量割合が低すぎる薬局に対しては調剤基本料の減算規定を設けています。

■後発医薬品調剤体制加算と調剤基本料の減算


後発医薬品調剤体制加算と調剤基本料の減算

 
参考:令和4年度調剤報酬改定の概要(調剤)|厚生労働省 保険局 医療課

 

後発医薬品の使用を向上させることは、医療費削減に大きく貢献するため、積極的に後発医薬品の使用を推奨している薬局は評価されています。調剤基本料3を算定している薬局は、後発医薬品の使用率が高まるよう患者さんに働きかけることも大切でしょう。

 
🔽後発医薬品調剤体制加算について詳しく解説した記事はこちら

8.調剤基本料3を算定する薬局の薬剤師が意識しておきたいこと

薬局によっては、企業自体の規模や立地条件によって、調剤基本料3を算定せざるを得ないケースもあるでしょう。そうした場合、現行の診療報酬で調剤基本料1や2を目指すのは難しいかもしれません。また、地域支援体制加算や連携強化加算など算定可能な加算について検討する必要があります。
 
そのほか、門前の医療機関の処方箋だけでなく、さまざまな医療機関の処方箋を受け付けることで、処方箋の集中率をできる限り下げることも大切です。例えば、かかりつけ薬剤師を持つ患者さんを自薬局に増やすことも効果的でしょう。受診する全ての医療機関の処方箋を患者さんに持参してもらうことで、処方箋集中率が低下しやすくなります。

在宅医療に参画することも同様にさまざまな医療機関の処方箋を扱うことにつながります。さらに、前述した地域支援体制加算を算定するためには、かかりつけ薬剤師指導料や在宅薬剤管理、服薬情報等提供料などの実績件数を満たす必要があるため、こういった活動は診療報酬の算定に影響するでしょう。
 
調剤基本料3を算定している薬局は、患者さんが持ってくる処方箋を待つだけでなく、積極的に患者さんや地域医療と関わりを持つことが大切ではないでしょうか。

 
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9.調剤基本料3を算定する薬局の今後を見据えよう

調剤基本料3を算定する薬局は、処方箋集中率をできる限り下げ、調剤基本料3のハを目指すことが大切です。また、かかりつけ薬剤師を持つ患者さんを増やしたり、在宅医療へ積極的に参画したりすることも必要でしょう。薬剤師や薬局に求められる役割として、地域医療への貢献を意識することが大切です。

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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