経管投薬支援料を算定するためには、簡易懸濁法を使った経管投薬について知識を深める必要があります。本記事では、経管投薬支援料の概要と点数・算定要件について解説するとともに、算定時の注意点や簡易懸濁法の手順、服薬指導のポイントをお伝えします。あわせて、簡易懸濁法のメリットや注意点についても解説します。
- 1.経管投薬支援料とは?
- 2.経管投薬支援料の点数・算定要件
- 3.経管投薬支援料の算定における注意点
- 3-1.経管投薬支援料が算定できないケース
- 3-2.在宅患者訪問薬剤管理指導料などを算定していない患者さんも算定できる
- 3-3.同一月内に服薬情報等提供料1・2・3の算定が可能
- 4.簡易懸濁法とは?
- 4-1.簡易懸濁法の手順とポイント
- 4-2.簡易懸濁法の服薬指導
- 5.簡易懸濁法のメリット
- 5-1.治療薬の選択範囲が広がる
- 5-2.患者さんのQOL低下の防止・向上と医療従事者の負担軽減
- 5-3.医薬品の安定性保持
- 5-4.配合変化の回避
- 5-5.リスクマネジメント
- 5-6.経済効果
- 6.簡易懸濁法を行う際の注意点
- 6-1.使用する水は硬度の高い水(硬水)を避ける
- 6-2.ミネラルウォーターを使用する場合は硬度をチェックする
- 6-3.水の温度に注意が必要な薬剤がある
- 6-4.光に不安定な薬剤は崩壊・懸濁時に遮光が推奨されている
- 7.簡易懸濁法の理解を深めて経管投薬支援料を算定しよう
1.経管投薬支援料とは?
経管投薬支援料とは、経管投薬を実施する患者さんが簡易懸濁法を始める場合に、医師などの求めに応じて薬局が必要な支援を行うことを評価したものです。
簡易懸濁法は、患者さんと薬剤師の双方にメリットがあることから、2020年度調剤報酬改定で薬剤師による支援を評価する経管投薬支援料が新設されました。
参照:令和2年度診療報酬改定の概要(調剤)|厚生労働省
2.経管投薬支援料の点数・算定要件
経管投薬支援料は、要件を満たすことで100点を算定できます。算定要件は以下のとおりです。
対象患者 | 胃ろうもしくは腸ろうによる経管投薬または経鼻経管投薬を実施する患者さん |
---|---|
患者さんの同意 | 必要 |
支援のタイミング | 医師、または患者さんや家族の求めがあったとき |
必要な支援 | (ア)簡易懸濁法に適した薬剤の選択の支援 (イ)患者さんの家族または介助者が簡易懸濁法により経管投薬を行うために必要な指導 (ウ)必要に応じて以下について医療機関へ情報提供を行う ● 患者さんの服薬状況 ● 患者さんの家族などの理解度 ※「簡易懸濁法」とは、錠剤の粉砕やカプセルの開封などを行わず、経管投薬の前に薬剤を崩壊および懸濁させ、投薬する方法のこと |
算定頻度 | 患者さん1人につき複数回の支援を行った場合においても、1回のみの算定とする(初回のみの算定) |
参照:調剤報酬点数表|厚生労働省
参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省
3.経管投薬支援料の算定における注意点
経管投薬支援料には、算定できないケースや、併算定が可能な薬学管理料などがあります。ここでは、経管投薬支援料の算定における注意点についてお伝えします。
3-1.経管投薬支援料が算定できないケース
経管投薬支援料は、特別調剤基本料Bを算定する薬局は算定できません。また、当該患者さんの調剤を行っていない薬局も経管投薬支援料は算定できないことになっています。
参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参照:疑義解釈資料の送付について(その1)2020年3月31日|厚生労働省
🔽 特別調剤基本料について解説した記事はこちら
3-2.在宅患者訪問薬剤管理指導料などを算定していない患者さんも算定できる
経管投薬支援料は、必要な要件を満たすことで算定できます。そのため、在宅患者訪問薬剤管理指導料や居宅療養管理指導費、介護予防居宅療養管理指導費を算定していない患者さんであっても、経管投薬支援料の対象となり得ます。
参照:疑義解釈資料の送付について(その1)2020年3月31日|厚生労働省
🔽 在宅患者訪問薬剤管理指導料について解説した記事はこちら
🔽 居宅療養管理指導について解説した記事はこちら
3-3.同一月内に服薬情報等提供料1・2・3の算定が可能
患者さんの服薬状況などを医療機関に提供した場合であって、要件を満たす場合は、同一月内に服薬情報等提供料1・2・3の算定が可能です。
参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省
🔽 服薬情報等提供料について解説した記事はこちら

4.簡易懸濁法とは?
簡易懸濁法とは、錠剤を粉砕したり、カプセルを開封したりせずに、そのままお湯に入れて崩壊・懸濁させてから経管投与する方法です。
お湯の温度は約55度、待ち時間は10分程度とされています。温度と待ち時間の基準は、以下を理由に設定されています。
● 24度の室温下で10分間自然に溶けるのを待ったときに、お湯の温度が37度以下にならない最初の温度が55度であること
また、多くの錠剤は水に入れることで崩壊するよう、崩壊剤が含まれています。そのため、錠剤においては、徐放錠などの特殊な錠剤を除き簡易懸濁法が実施できます。
🔽 簡易懸濁法について解説した記事はこちら
4-1.簡易懸濁法の手順とポイント
簡易懸濁法は、直接薬剤を入れた注射器にお湯を入れて崩壊・懸濁させます。錠剤やカプセルが崩壊したら、注射器をよく振ってから注入します。そのままでは崩壊懸濁しない錠剤は、フィルムに軽く亀裂を入れてから崩壊懸濁させましょう。
55度のお湯は、ポットのお湯と水を2:1で入れることで用意できます。60~70度に設定できる電気ポットであれば、少し放置することで55度程度まで下がるため、温度を調整しやすいでしょう。
参照:在宅医療Q&A 令和5年版|じほう
4-2.簡易懸濁法の服薬指導
初めて経管投与を始める患者さんや家族の中には、医療従事者が行う手技を自身で行うことができるのか不安になっている人もいることでしょう。
医師や看護師から大まかな手順は説明されているかもしれませんが、薬局ではより丁寧な説明が求められます。
簡易懸濁法の服薬指導では、以下のように実物を見せながら手順を細かく分けて伝えるとよいでしょう。
2. カップにお湯を入れる
3. 処方薬を注射器に入れる
4. 注射器でお湯を吸い取る
5. 10分程度放置する
6. よく振って懸濁し、投与する
手順ごとに注意点やコツ、ポイントを指導します。分からないときや迷ったときは、いつでも薬局に連絡するよう伝えると患者さんや家族も安心できるでしょう。
5.簡易懸濁法のメリット
簡易懸濁法には以下のようなメリットがあります。
● 患者さんのQOL低下の防止・向上と医療従事者の負担軽減が望める
● 医薬品の安定性が保持される
● 配合変化を回避できる
● リスクマネジメントができる
● 経済効果が期待できる
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
5-1.治療薬の選択範囲が広がる
『在宅医療Q&A 令和5年版』によると、簡易懸濁法の実験をした錠剤・カプセル剤6387薬品中、簡易懸濁法で投与できるのは5880薬品(92%)でした。
粉砕法では5340薬品(83.6%)であることから、簡易懸濁法の方が治療薬の選択範囲が広がることが分かります。
5-2.患者さんのQOL低下の防止・向上と医療従事者の負担軽減
簡易懸濁法は細いチューブを安心して使用できるため、患者さんのQOL低下の防止・向上が期待できます。
また、錠剤を粉砕したり、カプセルを開封したりといった手間がなく、チューブが詰まるリスクも避けられるため、医療従事者の負担も軽減されます。
5-3.医薬品の安定性保持
錠剤を粉砕して経管投与する場合、製品包装から取り出して粉砕後に再分包をしなければなりません。
簡易懸濁法は投与直前まで製品が包装されたまま保管できるため、薬剤の安定性を確保できます。
5-4.配合変化の回避
複数の薬剤を粉砕して混合した場合、薬剤によっては保管している間に配合変化を起こす可能性があります。
簡易懸濁法であれば、錠剤のまま保管できるため、保存期間中の配合変化を避けることができます。
5-5.リスクマネジメント
錠剤を粉砕すると、粉末になるため薬剤の鑑査が難しくなります。
錠剤であれば識別コードやシートの包装で薬剤を確認できるため、投与時のリスクを回避できるでしょう。
5-6.経済効果
簡易懸濁法はシート包装の状態で調剤を行うため、処方変更や処方中止の指示が入った場合に、薬品ごとの対応が可能です。
複数の薬剤を粉砕・混合している場合は、中止・変更となった薬剤のみを取り出すことができません。混合した薬剤をすべて再調剤しなければならないため、簡易懸濁法は経済的な面でもメリットがあります。
参照:中央社会保険医療協議会 総会(第442回)資料 調剤報酬(その4)|厚生労働省

6.簡易懸濁法を行う際の注意点
簡易懸濁法は、薬剤の安定性を維持する有効な方法です。ただし、実施時は、さまざまな点に注意する必要があります。ここでは、簡易懸濁法を行う際の注意点についてお伝えします。
6-1.使用する水は硬度の高い水(硬水)を避ける
硬水にはマグネシウムやカルシウムなどのミネラルが多く含まれている傾向にあります。そのため、簡易懸濁法で硬水を使用すると、薬剤によっては金属キレートが形成され、吸収が阻害される可能性があります。例えば、以下のような薬剤が挙げられるでしょう。
● テトラサイクリン系抗菌薬
● ビスホスホネート系骨代謝改善薬
● パーキンソニズム治療薬
通常、簡易懸濁法で使用される水は水道水が使われます。日本の水道水は硬度が30~100mg/Lの軟水のため、薬を服用する上で問題がないとされています。
ただし、地域によって水道水の硬度が高い場所があるため、施設や家庭の水質を確認するとよいでしょう。
6-2.ミネラルウォーターを使用する場合は硬度をチェックする
水道水の硬度が高かったり、水道水を使用するのに抵抗があったりする場合には、ミネラルウォーターを使用するのがおすすめです。
ただし、日本で販売されているミネラルウォーターには、軟水と硬水があります。商品によって硬度が異なるため、購入前にチェックしましょう。
また、前述したとおり、硬水での服用によって吸収阻害が起こる薬剤があります。例えば、フォサマックの添付文書には、「カルシウムやマグネシウムなど含量の特に高いミネラルウォーター」は避けるように記載されています。
添付文書に硬水での服用について記載されている薬剤においては、患者さんや家族へ注意喚起をする必要があるでしょう。
6-3.水の温度に注意が必要な薬剤がある
水温55度下では、ほとんどの薬剤が分解せずに安定しているとされています。そのため、多くの錠剤は問題なく簡易懸濁法が適用できるでしょう。
ただし、薬剤の中には添加剤によって簡易懸濁法が選択できない場合があります。例えば、添加剤にデンプンやマクロゴール6000などが使用されている薬剤は、温度が高すぎると崩壊・懸濁時に固まる可能性があります。
簡易懸濁法によって固まる添加剤が使用されている薬剤については、温度が55度より低くなってから薬剤を入れるとよいでしょう。具体的な温度を知りたい場合は、製薬企業に確認するのがおすすめです。
6-4.光に不安定な薬剤は崩壊・懸濁時に遮光が推奨されている
光に不安定な薬剤を簡易懸濁法で崩壊・懸濁する場合は、遮光した器具や遮光袋の使用が推奨されています。
また、できる限り投与直前に崩壊・懸濁を行い、光の曝露を避けることが大切です。
参照:簡易懸濁法マニュアル|じほう

7.簡易懸濁法の理解を深めて経管投薬支援料を算定しよう
簡易懸濁法は、保存期間中の薬剤の安定性を維持したり、配合変化を回避したりするなどさまざまなメリットがあります。
一方で、実施時は、使用する水の種類や温度などに注意が必要です。経管投薬支援料の算定において、薬剤師は簡易懸濁法を行う際のポイントをしっかり理解し、患者さんや家族などへ丁寧に説明することが求められます。
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薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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