1.連携強化加算とは?
連携強化加算とは、災害や新興感染症の発生時などに、調剤薬局としての機能を十分に果たすための体制を整えている薬局を評価する調剤基本料の加算です。
新型コロナウイルス感染症の流行を機に2022年度の診療報酬改定で新設され、2024年度の診療報酬改定では算定点数や算定要件、施設基準が見直されています。
🔽 調剤基本料について詳しく解説した記事はこちら
2.連携強化加算の2024年度改定における変更点
2024年度の診療報酬改定では、「地域支援体制加算に該当する場合に算定可能」という要件が廃止された一方、「都道府県知事より第二種協定指定医療機関の指定を受けること」などが要件に加わりました。
算定点数は2点から5点となりますが、特別調剤基本料Aを算定する薬局において、同一敷地内の医療機関が外来感染対策向上加算または感染対策向上加算の届出を行っている場合は算定できません。
また、特別調剤基本料Bを算定する薬局は算定できません。次項から、算定要件や施設基準について詳しく解説します。
🔽 2024年度調剤報酬改定について詳しく解説した記事はこちら
3.連携強化加算の点数・算定要件
連携強化加算は、他薬局や医療機関、都道府県などと連携して、災害などの非常時に対応できる体制を整備している薬局が調剤を行った場合に調剤基本料に加算できます。
調剤基本料の区分 | 2024年度改定 | 2022年度改定 |
---|---|---|
調剤基本料1・2・3 | 5点 | 2点 |
特別調剤基本料A | ||
算定不可※ | ||
特別調剤基本料B | 算定不可 |
※同一敷地内の医療機関が外来感染対策向上加算または感染対策向上加算の届出を行っている場合
また、算定要件として、「災害または新興感染症の発生時などに対応可能な体制を確保していることについて、薬局のほか、行政機関、薬剤師会等のホームページなどで広く周知すること」が追加されています。
地域住民や行政機関、医療機関、福祉関係者などが情報を得やすいよう、市町村や地区単位で情報整理を行い、周知しなければなりません。
薬局の所在地の行政機関または薬剤師会などと協力した周知活動を行うとともに、定期的に情報を更新することが必要です。
さらに、都道府県単位で薬局の情報がまとめられていることが望ましいとされています。
周知する内容の例として、以下のような項目が挙げられています。
● オンライン服薬指導の対応の可否
● 要指導医薬品・一般用医薬品の取扱いの有無、品目数
● 検査キット(体外診断用医薬品)の取扱いの有無
上記の周知内容はあくまで一例です。ほかにも、地域に必要と考えられる情報については周知を行うこととしています。
連携強化加算を算定するためには、災害や新興感染症の発生時などの整備体制について幅広く周知できる仕組みも整えておきましょう。
参照:疑義解釈資料の送付について(その2)令和6年4月12日|厚生労働省
参照:疑義解釈資料の送付について(その3)令和6年4月26日|厚生労働省
参照:疑義解釈資料の送付について(その6)令和6年5月30日|厚生労働省
4.連携強化加算の施設基準
連携強化加算の主な施設基準は以下の通りです。
2.感染症対応に係る当該保険薬局の保険薬剤師に対する研修、訓練を年1回以上実施
3.個人防護具を備蓄
4.新型インフルエンザ等感染症等の発生時などにおいて、要指導医薬品及び一般用医薬品の提供、感染症に係る体外診断用医薬品(検査キット)の提供、マスク等の感染症対応に必要な衛生材料等の提供ができる体制を平時から整備し、これらを提供している
5.自治体からの要請に応じて、避難所・救護所等における医薬品の供給または調剤所の設置に係る人員派遣等の協力などを行う体制の整備
6.災害対応に係る当該保険薬局の保険薬剤師に対する研修・訓練を年1回以上実施
7.災害や新興感染症発生時における薬局の体制や対応について、それぞれの状況に応じた手順書などの作成
8.情報通信機器を用いた服薬指導を行う体制の整備
9.要指導医薬品および一般用医薬品の販売、検査キット(体外診断用医薬品)の取扱い
続いて、第二種協定指定医療機関の指定や、災害時・感染症流行時の体制整備、オンライン服薬指導を実施する際の体制について、詳しく解説します。
4-1.第二種協定指定医療機関の指定とは
協定指定医療機関とは、平時に、都道府県知事と新興感染症の対応を行う医療機関として協議を行い、感染症対応に係る協定を締結した医療機関のことです。第一種と第二種は以下のように区分されています。
区分 | 感染症対応に係る協定 |
---|---|
第一種協定指定医療機関 | 病床を確保し入院医療を実施する機関 |
第二種協定指定医療機関 | 発熱外来の実施や自宅療養者などに対する医療の提供をする機関 |
薬局は「自宅療養者等に対する医療の提供」を行うため、第二種協定指定医療機関に該当します。薬局が第二種協定指定医療機関の指定を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
● 新型インフルエンザ感染症の発生などの公表期間に都道府県知事からの要請を受けて、外出自粛対象者に対して医薬品等対応(調剤・医薬品等交付・服薬指導等)を行う体制が整っていると認められること
参照:「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律」の一部の施行等について(通知)|厚生労働省
連携強化加算を算定する薬局は、上記の要件を満たし、都道府県知事より指定を受ける必要があります。
4-2.体制整備に関する研修の実施
連携強化加算の施設基準には、以下のような体制整備に係る研修の実施を求める要件があります。
ア 当該保険薬局において、感染症に係る最新の科学的知見に基づいた適切な知識を習得することを目的として、年1回以上、当該保険薬局の保険薬剤師に対する研修を実施する、又は、外部の機関が実施する研修に当該保険薬局の保険薬剤師を参加させること。
イ 新型インフルエンザ等感染症、指定感染症又は新感染症に係る医療の提供に当たっての訓練を、年1回以上、当該保険薬局において実施する、又は、外部の機関が実施する訓練に当該保険薬局の保険薬剤師を参加させること。
(中略)
(2)災害の発生時等において他の保険薬局等(同一薬局グループ以外の薬局を含む。)との連携に係る体制として、次に掲げる体制が整備されていること。
(中略)
イ 医薬品の供給や地域の衛生管理に係る対応等を行うことについて、災害の被災状況に応じた対応を習得する研修を薬局内で実施する、又は、地域の協議会、研修若しくは訓練等に参加するよう計画を作成し、実施すること。また、協議会、研修又は訓練等には、年1回程度参加することが望ましい。
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて 保医発0305第6号 令和6年3月5日|厚生労働省
災害や新興感染症の発生に備えて、年1回は研修を実施することが求められています。非常時に適切な対応を行えるよう研修を実施することで、知識やスキルの習得・向上が期待できるでしょう。
特に、災害時などは通常とは異なる状況で業務を行うことになるため、さまざまなシチュエーションを想定して、備えておくことが大切です。
起こってしまった後に対応を考えるのではなく、あらかじめ研修などで知識を得ることで、いざというときでも落ち着いて対応できるのではないでしょうか。
また、必要に応じて地域の医療機関や保険薬局などと情報共有し、連携体制を整えておくことも求められています。
日頃から地域の医療機関などとコミュニケーションを取ることは、非常時にもスムーズに連携できる体制づくりに役立ちます。災害時の混乱を少しでも緩和できるよう、地域の協力体制を構築しておくようにしましょう。
4-3.オンライン服薬指導を実施するための研修
オンライン服薬指導を実施するためには、薬学的知識だけでなく、情報通信機器の使用や情報セキュリティなどに関する知識が必要です。
連携強化加算の施設基準では、情報通信機器を使用した服薬指導を実施するために、以下の研修を行うこととされています。
(中略)
イ オンライン服薬指導の実施要領の第4の(5)に基づき、薬局内の保険薬剤師に対して、必要な知識を習得させるための研修を実施すること。
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて 保医発0305第6号 令和6年3月5日|厚生労働省
「オンライン服薬指導の実施要領について」の第4の(5)では、薬局開設者に以下の点について対応するよう求めています。
● 厚生労働省ホームページに掲載予定のオンライン服薬指導に関するe-learningなどの教材を参考にすること
参照:オンライン服薬指導の実施要領について 薬生発0930第1号 令和4年9月30日|厚生労働省
連携強化加算を算定する薬局は、安心安全にオンライン服薬指導を実施するためにも、専門知識を身に付けられる体制を整備する必要があるでしょう。
🔽 オンライン服薬指導について詳しく解説した記事はこちら
5.連携強化加算の届出方法
連携強化加算を算定するには、地方厚生局長などに届出を出す必要があります。提出するのは、「連携強化加算(調剤基本料)の施設基準に係る届出書添付書類」です。届出書には12の項目があり、それぞれ該当する部分にチェックや記入をした上で申請します。
5-1.連携強化加算の届出を行う際の注意点
薬局情報の周知に関する要件について、「地域の行政機関や薬剤師会などのホームページ等で広く周知する」とされていますが、「単に厚生局の届出のウェブサイトに掲載される一覧にリンクを貼るのみでは、周知活動をしていることにならない」とされています。
災害や新興感染症の発生時などに対応できる体制を整えていることを薬局内に掲示したり、ホームページで公表したりするほか、自治体や薬剤師会のホームページなども活用して広く周知することが大切です。
誰もが簡単に情報を得られるよう情報発信を行い、非常時に頼られる調剤薬局を目指して周知活動を行いましょう。
5-2.連携強化加算の経過措置
2024年3月31日時点で連携強化加算の届出を行っていた薬局は、2024年12月末まで、第二種協定指定医療機関の指定に係る施設基準を満たしているものとみなす経過措置が設けられています。
参照:特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて 保医発0305第6号 令和6年3月5日|厚生労働省
6.連携強化加算で薬剤師に求められること
医療体制が充実しているとされる日本でも医療崩壊が起こる可能性が十分にあります。調剤薬局は医療資源を最大限活用して地域住民が少しでも安心して過ごせるよう、体制を整えることが必要でしょう。
また、薬剤師は今まで以上に非常時に対応できる知識とスキルを身に付けることが望まれています。
例えば、非常時において、医療機関は混雑しがちであり、多くの人が一斉に集まると正常に機能しなくなる恐れがあります。
その点、調剤薬局は、医療機関に比べて軒数が多く、地域住民が立ち寄りやすい環境にあります。非常時は最初に薬局を訪ねるように認知されれば、人の流れが分散され、混乱を最小限に抑えることも可能でしょう。
軒数の多さや地域住民とのつながりといった薬局の特徴を生かすために、連携強化加算が見直されたのではないでしょうか。
連携強化加算は、災害時や新興感染症の発生といった緊急時に、より地域に貢献できるよう、薬局の在り方を示しているとも捉えられます。緊急時における薬局のさらなる活躍が期待されているといえるでしょう。
7.連携強化加算が示す今後の薬剤師像・薬局像
連携強化加算では、非常時に調剤薬局が地域医療に貢献できるよう、他薬局や多職種と連携し、薬剤師が職能を十分に発揮することが求められています。さらに、今後の薬剤師像・薬局像を示したものと受け取ることもできるでしょう。地域医療や地域住民とどう向き合っていくのかを今一度考えるタイミングといえるかもしれません。
🔽 調剤報酬に関連する記事はこちら
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
あわせて読みたい記事