薬剤師のスキルアップ 更新日:2024.11.15公開日:2024.10.09 薬剤師のスキルアップ

吸入薬指導加算とは?算定要件やレセプト摘要欄への記載事項などを解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

吸入薬指導加算は、薬剤師による吸入薬指導を評価する服薬管理指導料・かかりつけ薬剤師指導料の加算です。本記事では、吸入薬指導加算の概要と2024年度調剤報酬改定における変更点について解説するとともに、算定要件や点数、算定タイミング、算定時の注意点、レセプト摘要欄への記載事項、吸入薬指導のポイントなどもお伝えします。

1.吸入薬指導加算とは

吸入薬指導加算とは、喘息患者さんや慢性閉塞性肺疾患の患者さんが、適切に吸入薬を使用できるようにサポートすることを評価した、服薬管理指導料・かかりつけ薬剤師指導料の加算です。
 
🔽 服薬管理指導料について解説した記事はこちら


 
🔽 かかりつけ薬剤師指導料について解説した記事はこちら

 
ここでは、2024年度の調剤報酬改定による吸入薬指導加算の変更点についてお伝えします。

 

1-1.2024年度調剤報酬改定による変更点

2024年度の調剤報酬改定までは、吸入薬についての情報提供や服薬指導はかかりつけ薬剤師指導料の一環とみなされ、かかりつけ薬剤師指導料を算定している患者さんへ吸入薬指導を行った場合、吸入薬指導加算は算定できませんでした。
 
2024年度の改定でかかりつけ薬剤師指導料の業務内容について見直しが行われ、かかりつけ薬剤師が行う通常業務の内容と吸入薬指導は異なると判断されました。そのため、本改定からかかりつけ薬剤師指導料を算定する患者さんでも、要件を満たすことで吸入薬指導加算が算定可能となっています。
 
参照:令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】|厚生労働省
参照:個別改定項目について|厚生労働省

 
🔽 2024年度診療報酬改定について解説した記事はこちら

2.吸入薬指導加算の算定要件・点数

吸入薬指導加算は、吸入薬が処方されている患者さんに対して、治療効果の向上や副作用の回避につながるよう、必要な薬学的管理や指導を行った場合に算定できる加算です。要件を満たすことで30点を加算できます。
 
吸入薬指導加算の主な算定要件は、以下のとおりです。

 

■吸入薬指導加算の算定要件
対象患者さん ● 喘息
● 慢性閉塞性肺疾患
指導に必要なもの ● 説明するための文書
● 練習用吸入器 など
医師への情報提供 文書により提供
患者さんの同意 必要
算定頻度 3カ月に1回

 

算定要件について詳しく見ていきましょう。

 

2-1.吸入手技の指導

吸入薬指導加算では、喘息や慢性閉塞性肺疾患の患者さんを対象に、文書や練習用吸入器などを使って吸入手技を指導することとされています。患者さんが正しい手順で使用できるかを確認することも大切です。
 
指導にあたっては、日本アレルギー学会が作成する「アレルギー総合ガイドライン」などを参照することとされています。
 
参照:ガイドライン・その他刊行物|日本アレルギー学会
 
また、吸入薬指導加算の算定は、3カ月に1回とされていますが、指導したものと異なる吸入薬が新たに処方された場合は、前回の算定から3カ月以内であっても算定可能です。

 

2-2.患者さんの同意と医師の了解

吸入薬指導加算は、以下のケースにおいて患者さんの同意を得た上で実施しなければなりません。

 

● 医療機関から求めがあった場合
● 患者さんやその家族から希望があるなど必要性が認められた場合で、医師の了解を得た場合

 

医療機関から求めがない場合は、医師の了解を得た上で吸入指導を実施しましょう。

 

2-3.医師への情報提供

吸入薬指導加算を算定するには、吸入指導を行った結果などを医療機関へ文書を用いて情報提供しなければなりません。吸入指導の内容や患者さんの理解度について報告しましょう。
 
報告書については、文書で情報提供するほか、お薬手帳を活用しても差し支えないとされています。
 
ただし、患者さんが吸入薬を使用するにあたって疑義などがある場合は、処方医へ必要な照会をしなければなりません。
 
参照:調剤報酬点数表|厚生労働省
参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省

3.吸入薬指導加算の算定タイミング

吸入薬指導加算を算定するためには、医療機関へ文書の作成またはお薬手帳への記載によって情報提供することとされています。そのため、情報提供後または患者さんが次回医療機関を受診して手帳を提示した段階で算定可能と考える薬剤師もいることでしょう。
 
しかし、吸入薬指導加算は、吸入薬の適切な使用や治療効果の向上、副作用の回避につながる指導を行うことを評価したものです。また、「次回来局時に確認・指導する」といったことが算定要件で求められていないことから、患者さんへ指導を行ったタイミングでの算定で差し支えないとされています。
 
参照:『保険調剤Q&A 令和6年版』Q134|じほう(編集:日本薬剤師会)
 
ただし、医療機関への情報提供は速やかに行うことが重要です。お薬手帳に記載する場合には、患者さんへ次回の受診時に医師へお薬手帳を提示するよう伝えましょう。
 
お薬手帳の持参や提示を忘れてしまう可能性がある場合は、文書による情報提供の方が確実です。患者さんの状況などに合わせて、情報提供の方法を検討しましょう。

4.吸入薬指導加算を算定するときの注意点

吸入薬指導加算には、ほかの薬学管理料と「同時算定ができないケース」があります。詳しく見ていきましょう。

 

4-1.吸入薬指導加算と同時算定ができない薬学管理料

吸入薬指導加算と同時算定ができない薬学管理料には以下のものがあります。

 

■吸入薬指導加算と同時算定できないもの
● 服薬管理指導料の手帳減算に該当する場合
● かかりつけ薬剤師包括管理料

参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省

 

上記に加え、特別調剤基本料Bを算定している薬局は服薬管理指導料・かかりつけ薬剤師指導料を算定できないため、吸入薬指導加算が算定できません。

 
🔽 特別調剤基本料について解説した記事はこちら

 

4-2.状況によって吸入薬指導加算と同時算定ができない薬学管理料と調剤基本料

以下の項目は、吸入薬指導加算と同時算定ができる場合とできない場合があります。

 

■状況によって吸入薬指導加算と同時算定できない項目
● 服薬情報等提供料
● 特別調剤基本料A

参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省

 

服薬情報等提供料は、吸入薬指導加算の算定に係る情報について同じ医療機関に提供した場合、算定できません。特別調剤基本料Aについては、「不動産取引等その他特別な関係を有している」医療機関へ情報提供した場合は算定できないことになっています。

 
🔽 服薬情報等提供料について解説した記事はこちら

5.吸入薬指導加算のレセプト摘要欄への記載事項

吸入薬指導加算は、レセプトの摘要欄への記載事項があります。

 

■吸入薬指導加算のレセプト摘要欄への記載事項
レセプト電算処理
システム用コード
左記コードによる
レセプト表示文言
850100480 吸入薬の調剤年月日(吸入薬指導加算)
;(元号)yy“年”mm“月”dd“日”
830100446 吸入薬の名称(吸入薬指導加算)
;********

 

レセプト摘要欄には、対象となる吸入薬の調剤年月日と吸入薬の名称を記載することとされています。
 
2022年度改定では、以下の場合についてレセプト電算処理システム用コードが定められていました。

 

● 前回の吸入薬指導加算の算定から3月以内に再度算定する場合
● 吸入薬が処方されていない月に算定した場合

参照:「診療報酬請求書等の記載要領等について」等の一部改正について(令和4年3月25日)|厚生労働省

 

2024年度の調剤報酬改定で上記は削除されており、基本的には吸入薬を調剤したときに算定することになりました。3カ月以内に再度算定するケースにおいては、新規の吸入薬が処方された場合に限るとされています。
 
参照:「診療報酬請求書等の記載要領等について」等の一部改正について(令和6年3月27日)|厚生労働省

6.吸入薬指導のポイント

吸入薬の種類は多岐にわたる上に、吸入するための手順やデバイスも異なるため、初めて使用する患者さんは戸惑うこともあるでしょう。
 
また、患者さんの中には、誤った使用方法を身に付けてしまい、十分に治療効果が得られていない方もいるかもしれません。
 
そのため、薬剤師は患者さんの理解度を定期的に確認し、適切に指導することが求められるでしょう。ここでは、吸入薬指導のポイントについてお伝えします。

 

6-1.【ステップ1】右手と左手の役割を決める

吸入薬を初めて使用する患者さんには、どちらの手で何をするかを指導すると、スムーズに操作できるようになります。「右手でデバイスを持ち、左手でレバーやボタンを押す」といった指導をしましょう。
 
このとき、対面の指導では操作する手が逆になるため、なるべく患者さんと同じ方向を向いたり、隣に座ったりするのがおすすめです。

 

6-2.【ステップ2】デバイスについての確認ポイントを伝える

吸入薬が充填されているデバイスの持ち方を指導した後は、確認点を伝えましょう。カウンターの位置や吸入口などを伝え、指で吸入口をふさがないよう指導します。
 
また、吸入する前にデバイスのカウンターを確認することも合わせて伝えることで、空のデバイスを使い続けるといったトラブルを防げます。

 

6-3.【ステップ3】操作時のポイントを伝える

デバイスによっては、操作ミスにより薬剤が十分に充填されないものがあります。吸入薬のカバーやキャップ、レバー、ボタンなどは最後までしっかり「開ける」「押す」ことを伝えましょう
 
また、吸入口をくわえたときに、口との間に隙間ができないかを確認することも大切なポイントです。隙間があると、余分な空気を吸ってしまう分、薬剤の吸入量が減ったり、薬剤が隙間から漏れ出たりすることがあります。

 

6-4.【ステップ4】吸入時のポイントを伝える

吸入薬を吸入するときは、強く深く吸って、数秒止めるのが一般的な流れでしょう。吸入薬の説明書には、吸い方についてさまざまな表現で記載されているため、説明する際に戸惑ってしまう薬剤師もいるかもしれません。そういった場合には、製薬企業や学会の動画を使って指導するのもよいでしょう。
 
一般社団法人日本喘息学会では、さまざまな吸入薬の操作方法について、YouTubeで公開しています。吸入薬指導の参考にしてみてはいかがでしょうか。
 
また、ステロイドが含まれている吸入薬については、嗄声や口腔内カンジダの予防のため、使用後に必ずうがいを行うよう伝えましょう。
 
参照:吸入操作ビデオ|日本喘息学会
参照:確実に吸い続けてもらうためのシンプル服薬指導のススメ|日経DI

7.患者さんが吸入薬を適切に使用できるようにサポートしよう

吸入薬は、患者さんが正しく吸入できるかどうかが、治療効果や副作用などに大きく影響します。そのため、治療のためには正しい手技を身に付けることが重要です。薬剤師は、患者さんの吸入薬に対する理解度や手技の習得度をチェックし、必要な指導を行うことが求められます。
 
また、患者さんの生活習慣や心身の状態によっては、処方されている吸入薬が適切に使用できない可能性もあるでしょう。患者さんが薬物治療を安心安全に受けるためにも、薬剤師は吸入薬について患者さんの理解度や習得度を的確に評価し、医師と連携して治療に参画することが大切です。

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。