薬剤師の働き方 更新日:2023.06.27公開日:2023.06.22 薬剤師の働き方

MS(医薬品卸販売担当者)とは?仕事や年収、転職について解説

文:テラヨウコ(薬剤師ライター)

医療に携わる職業の一つに、医薬品や医療機器の営業職であるMS(医薬品卸販売担当者)があります。病院や薬局でよくMSを見かけるけれど、どのような仕事をしているのか詳しくは分からないという人もいるでしょう。MSは患者さんと直接関わることはないものの、医薬品の安全な流通を担い、人々の健康を支える医療職です。今記事では、MSの仕事内容や一日の流れ、同じ医薬品の営業職であるMRとの違いについて解説します。また、実際の募集要項を基に、MSの年収や労働条件、薬剤師から転職する方法について紹介します。

1.MS(医薬品卸販売担当者)とは

MSとは、マーケティングスペシャリスト(Marketing Specialist)の略語です。医薬品卸会社に所属する営業職の社員を指します。MSの主な仕事内容は医薬品・医療機器などの仕入れや販売をはじめ、製品についての情報を病院や薬局といった医療機関に提供することです。医師や薬剤師相手の仕事であるため、医療用語や医薬品についての専門知識が必要とされます。MSとして仕事を続ける場合は、日々進歩する医療についての知識の積み重ねが求められます。

 

1-1.MSになるには、資格が必要?

MSになるのに、特に資格は必要ありません。しかし、中には一般社団法人日本ジェネリック医薬品販社協会が発行するMS認定資格を保有している人もいます。資格の取得は必須ではありませんが、資格があることで次のようなメリットがあります。

 

①情報提供のスキルを高め、MSとして活動するモチベーションを上げられる。
②医療経営についてのコンサルティング業務や効率化のためのシステム提案ができる。
③医療人や人としての基本的倫理を備えることで、コンプライアンスの徹底につながる。

 

また、MSは医療の専門知識が欠かせない営業職ですが、必ずしも医療系の大学などの出身である必要はありません。MSは医薬品のプロフェッショナル職の一つですが、入社後に知識を蓄えていく人が多いと考えられます。

 

1-2.MS業界の傾向

日本医薬品卸売業連合会に所属しているMSは、2021年時点で15,373人です。 2004年には22,471人のMSが所属していましたが、最近は年々減少傾向にあります。MSの減少に関与していると考えられる理由として、医薬品卸売業界全体の売上総利益率減少が挙げられます。

また、MSが所属する医薬品卸会社自体の数も減少しています。業務の合理化や効率化を目指した再編により2006年にはおよそ130社あった企業数が、2019年には70社ほどに減少しています(医薬卸連ガイド2020年度版より)。医薬品卸会社を取り巻く環境は近年大きく変化しており、それに伴って社員であるMSも影響を受けていると考えられます。

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2.MS(医薬品卸販売担当者)の仕事内容

MSは医薬品卸会社に在籍する営業職ですが、具体的にはどのような仕事をしているのでしょうか。ここでは、MSの主な業務について解説するとともに、あるMSの一日を見てみましょう。

 

2-1.医薬品の流通・販売・情報提供に貢献

MSの主な業務内容は、医薬品の配達や返品処理、受発注業務などによって医薬品のスムーズな流通を保つことです。具体的には病院や薬局を訪れて、価格交渉も含めた医薬品の販売を行います。営業職であるMSには個人やチームごとにノルマが設定されており、ノルマ達成のための計画を立て、遂行することが必要です。MSが取り扱う製品は、幅広い製薬会社から発売されている医薬品や医療機器です。

そのため、さまざまな製薬会社のMRから新薬や適応追加になった製品、販売中止などの情報を収集し、病院や薬局などへ提供しています。MSの仕事は、医薬品を販売して終了ではありません。患者さんが医薬品を使用した後の効果や副作用などについて医師や薬剤師から情報を収集し、製薬会社のMRへフィードバックします。

また、昨今は診療報酬改定などによって病院や薬局の経営環境が大きく影響を受けるケースも少なくありません。医療経営についての相談へ対応するなど、取引先の問題解決のサポートもMSの重要な役割となってきています。MSは円滑な医薬品流通に携わるだけでなく、医療機関の経営コンサルティングに関わることで、日本の医療体制を支えている医療職です。

 

2-2.MS(医薬品卸販売担当者)の主な一日の流れ

では、あるMSの一日の仕事の流れを確認してみましょう。MSが実際にどのような業務を行っているのか、ぜひチェックしてみてください。

まずは午前中、その日の訪問スケジュールの確認を行います。ミーティングでは製薬会社のMRとお互いが持っている情報を交換した後に、病院や薬局を訪問します。訪問先では、医薬品の紹介や商談の他、新しく得た情報の提供や副作用などの情報収集を中心に活動します。会社に戻ってきた後に取り組むのは、それぞれの取引先から受けた依頼への対応です。また、配送担当者との情報のやりとりや社内業務を行い、終業時間までに明日の準備を整えます。

MSの仕事は必要な製品や情報を必要なタイミングで取引先の医療機関へ届けることです。そのため、該当の医療機関に販売している医薬品の情報だけでなく、周りの病院で採用している医薬品の情報や季節性インフルエンザの流行状況といった先方のニーズに合った情報を提供する場合もあります。

また、診療報酬改定など取引先の経営にも関係する情報について社内勉強会を実施して、適切な情報提供を行います。医薬品や情報の提供によって、取引先のスムーズな診療や運営をサポートするのがMSの大切な業務です。

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3.MS(医薬品卸販売担当者)とMR(医薬情報担当者)の違い

MSとMRはどちらも医薬品の営業職という共通点があるため混同されがちです。しかし、実は全く異なる職業です。ここでは、MSとMRの違いについて見ていきましょう。

 

3-1.MRとは

MRとは、Medical Representatives(医薬情報担当者)の略語です。MRは製薬会社などに所属して自社製品のみの営業を行います。価格交渉を行わず、情報提供や情報収集が主な業務内容です。一方で、MSは医薬品卸会社に所属し、自社で取り扱うさまざまな製品について価格交渉を含めた営業活動をします。

また、MRが取り扱うのは自社製品だけなので、それらへの深い専門知識が必要です。しかし、MSはさまざまな製薬会社の医薬品を取り扱うため、広い範囲の知識を求められます。

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3-2.MSとMRは連携する機会が多い

MSとMRは連携して仕事をする場面も少なくありません。MRは医薬品卸会社で実施される朝ミーティングなどに参加し、自社製品についての情報を共有します。反対に、MSからは医療機関での薬の使用状況や副作用についての情報をフィードバックします。時にはMRと一緒に取引先へ訪問することも。MSとMRは、日ごろから密な情報共有を行い、お互いの業務に生かしている「仕事仲間」といえるでしょう。

4.MS(医薬品卸販売担当者)の年収事情

転職を考える上で、年収は大きなポイントです。MSは営業職のため、年収は売り上げ成績に大きく左右される傾向があります。また、企業によってはそれぞれの特色があるため、年収だけでなく、自身のライフプランやワークライフバランスに合った企業選びも重要です。ここでは、2つの医薬品卸会社の年収や労働条件、特色を紹介します。

 

4-1.アルフレッサ株式会社の場合

まず紹介するのは、全国に事業所がある大手の医薬品卸会社の新卒採用の募集要項です。
大卒の営業職の場合は、月の基本給が210,000円と示されています(2023年4月実績)。この他に時間外手当、家族手当、通勤手当などが各種手当として追加されます。これらにより計算される大卒1年目のMSの年収は、およそ240万円にボーナスや各種手当が加算された金額と考えられます。

昇給は年1回、賞与は年2回あり、年間の休日数は例年124日ほどで、完全週休2日制です。その他、夏季休暇、年末年始、リフレッシュ休暇などが設定されています。一日の勤務時間は8:30~17:00(休憩1時間)の7時間30分です。

こちらの企業では、子どもが小学校を卒業するまで時短勤務ができる他、育児や介護のためにやむを得ず退職した人を再雇用するシステムがあるなど、家庭と仕事のバランスを取りつつ働きたい人にうれしい制度が設けられています。

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4-2.株式会社メディッセオの場合

こちらも全国に事業所を持つ、大手の医薬品卸会社の募集要項を基に紹介しましょう。営業職の大卒の場合は、営業手当を含む月給が227,200~236,500円とのことです(2023年6月時点)。その他の手当として、通勤手当や生計補助手当などが挙げられています。

これらから大卒1年目のMSの年収は、およそ270万円にボーナスや各種手当を加えたものと計算できます。昇給は年1回、賞与は年2回となっており、土日祝日の他、年末年始の休みが設けられています。営業職の就業時間は基本的には9:00~18:00です。

全国に130以上の事業所を持つこちらの企業では、地域に密着した営業活動を推し進めています。そのため、勤務地は原則、自宅から通える事業所へ配属され、勤務地ごとに賃金が異なります。現在の生活環境を大きく変えずにMSとして勤めたいと考える人には魅力的な制度です。

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5.薬剤師からMS(医薬品卸販売担当者)に転職できる?

MSは医薬品の知識が不可欠なため、薬剤師の知識や経験を持っていることは利点と考えられます。また、患者さんや医師とのコミュニケーション能力もアピールできるポイントです。就職活動の際は、これまでの薬剤師経験からどのように会社に貢献できるかを伝えましょう。その他、MS以外にも、医薬品卸会社では、管理薬剤師採用もあります。興味がある人は企業の情報を集めたり、内部の人に話を聞いてみたりするとよいでしょう。

6.MS(医薬品卸販売担当者)は薬の流通で健康を支える医療職

昨今は大規模な災害や新型コロナウイルス感染症の影響で、医薬品の流通に支障が出ているケースも見られます。人々の健康的な生活を守るためには、医薬品が必要とされる場所に提供されることが重要です。医薬品卸会社に所属する営業職であるMSは、患者さんと直接やりとりはしません。しかし、日々医療の現場に必要な医薬品や情報を届け、医療機関と製薬会社の橋渡しをしています。医薬品の安全でスムーズな流通を担う業務で医療を支えたい人は、MSという選択肢を考えてみるのはいかがでしょうか。

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執筆/テラヨウコ

薬剤師。3人兄弟のママ。大学院卒業後、地域密着型の調剤薬局に勤務。大学病院門前をはじめ、内科・婦人科・皮膚科・心療内科・皮膚科門前などで多くの経験を積む。15年の薬剤師歴ののち独立して薬剤師ライターへ。健康や医療、美容に関する記事を執筆。休日は温泉ドライブや着物でのおでかけが楽しみ。

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