1.国際中医師(国際中医専門員)とは
国際中医師は、中国の国家資格「中医師」の専門知識と同等の専門知識を有することを認められた資格で、中医学の知識がある専門家として認められます。ただし、医師と名称にあるものの、日本での医療行為はできません。そもそも中医師とはどのようなものなのでしょうか。ここでは中医師と国際中医師の違いについて解説します。
1-1.中医師とは
中国の伝統的な経験医学を体系化したものを「中医学」と呼び、中医学を修めた者が「中医師」と呼ばれます。中国における中医師は、西洋医学の西洋医師とは別に設けられた国家資格の一つで、医療行為が認められています。中医師の資格取得は、日本での医師や薬剤師資格を取得する場合と同様に、中医薬大学などに進学して学ぶ必要があり、中国においては難関資格の一つとされています。
1-2.国際中医師とは
中医学はその実績が認められ、これまでに多くの国で補完・代替医療として用いられてきました。しかし、中医学を扱う者の知識や技術レベルの差は大きく、さまざまなトラブルが発生してきた経緯があります。そこで、中国政府が中医学知識を正しく世界に広めるために設けた資格が「国際中医師」です。国際中医師は、中医師と同レベルの中医学の知識を持つと認定されており、資格取得には、中国政府の外郭団体・世界中医薬学会連合会が主催する国際中医師試験(国際中医師標準試験)の合格が必須です。
日本で取得するには、まずは世界中医薬学会連合会に認められている団体の教育課程を修了し、その後に実施される試験をクリアする必要があります。
1-3.国際中医師ができること・できないこと
中国国内における中医師は、日本での医師のように臨床における診断から治療までを行えます。ところが、中国以外の国でも取得可能な国際中医師は、活動条件が異なります。国によって、できることが異なるため注意が必要です。
日本では、国際中医師は医師資格ではないため医療行為は許されていません。そのため、医師免許を持たない一般人は、国際中医師の資格を取得しても、身近な間柄での漢方相談や漢方についての講演などしかできないのが実情です。一方で、薬剤師は職業上、漢方を取り扱えるため、漢方薬の調剤や患者さんへの相談に乗ることができます。こうした点で、医師や薬剤師など医療系の資格を持つ人にとって、国際中医師は相性が良い資格と言えるのではないでしょうか。
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2.薬剤師が国際中医師の資格を取得するメリット
薬剤師は医療従事者であるため、国際中医師資格を取得すると仕事に生かせます。ここでは薬剤師が国際中医師となったときの3つのメリットを見ていきましょう。
メリット① 中医学の知識を身に付けられる
薬学部でも生薬や漢方といった東洋医学を学べますが、そのほかの薬学についても広く学ばなければならないため、あくまでも限定的な内容です。漢方について深い専門知識を身に付けようと考えるならば、さらなる自己学習が欠かせません。資格取得のために中医学を体系的に学ぶと、着実に東洋医学の知識を積み上げられます。その結果、漢方について医師や患者さんから尋ねられたときに、エビデンスに基づいた回答ができ、信頼性を高められるでしょう。
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メリット② 中医学を仕事に生かせる
薬剤師であり国際中医師でもあるという立場から、西洋医学・中医学の両面からのアプローチが可能です。中医学の考え方である「未病先防=未だ発生していない病気を先に防ぐ」に基づいた適切な漢方薬の提案ができれば、病気や体調不良で悩む患者さんの手助けになるでしょう。
また、薬局の中には、一般向けに漢方講座を開いているところもあります。このような活動は、地域に暮らす方たちの健康貢献につながるでしょう。
メリット③ キャリアアップに役立つ
漢方分野でのキャリアアップを考えている人にとっては、国際中医師の資格取得は大きなメリットとなります。資格を持っていると漢方薬局への転職が有利になるほか、自分の漢方薬局の開設も可能です。また、病院や調剤薬局への転職であっても、漢方に詳しいという利点は大きなアピールポイントになるでしょう。
3.国際中医師の資格を取得するには
国際中医師になるには、中国の中医薬大学の付属日本校での指定課程を修了、もしくは世界中医薬学会連合会に認められている団体における通信講座を受講する必要があります。その上で試験に合格すると国際中医師の資格の取得が可能です。ただし、団体によってカリキュラムが異なります。
例えば、中医学アカデミーの国際中医師試験資格取得講座では、中医学のベースとなる「中医基礎理論」「中医診断学」「中薬学」「方剤学」「中医臨床学科」の5つを学びます。各教科の修了テストと卒業試験に合格すると、国際中医師試験の受験資格を得られる仕組みです。いくつかの方法があるため、自分のライフスタイルやペースに合った養成校を選びましょう。
4.国際中医師の受験資格・難易度・費用は?
国際中医師試験は、日本国内でも世界中医薬学会連合会が主催している認定試験を受験できます。ここでは受験資格の基準や合格の難易度、受験にかかる費用を紹介します。
4-1.受験資格
国際中医師試験は、世界61の国と地域で開催されている国際認定試験です。例年、1年に1回開催されており、試験日程は2日間にわたります。国際中医師試験を受けるには、中国医師法に基づいた中医師の履修基準に近い、以下の基準が必要です。
■国際中医師の受験資格
日本で国際中医師の受験資格を得るためには、養成校によって指定された課程の履修が必要です。養成校によっては、国際中医師のほか国際按摩推拿師、国際薬膳師、国際鍼灸師の資格をまとめて受験できたり、受験資格を得られたりすることもあります。
中には、受験に当たって臨床経験が求められる場合もあり、医療関係者が有利になるケースがあります。国際中医師以外の資格取得も視野に入れている方は、養成校選びの際にしっかりチェックしましょう。
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4-2.難易度
多くの養成校の場合、教育課程は2年ほどかかります。薬剤師の仕事と並行して資格を取る場合は、効率的に勉強するために時間管理が大切になるでしょう。
試験科目は、中医基礎理論、中医診断学、中薬学、方剤学、中医臨床内科学、弁証論治の6科目です。選択式問題だけでなく記述問題もあるため、思考力が求められます。それぞれの教科で、60点以上で合計360点以上が合格とされており、2006年から2016年までの合格率は85%以上です。受験資格を得るまでに時間はかかりますが、地道に勉強をすれば資格取得は難しくはないと考えられます。
4-3.費用
国際中医師試験の受験料は、養成校によって異なります。一例を挙げると、ある養成校では2022年度の受験料は182,000円でした。一方で、別のところでは翻訳料などを含め270,000円かかるところもあります。さらに、受験資格を得るためには養成校での講座受講が必要となるため、それらの費用も必要です。
団体によってカリキュラムや費用が異なるため、自分に合った方法で学べるところを選ぶとよいでしょう。
5.国際中医師の資格を生かせる職場は?
中医学の知識を十分に生かせる職場として、まず挙げられるのが漢方薬局です。漢方薬局では、最初に患者さんへのカウンセリングを行って、その人の体質や症状に合わせた漢方薬を調剤します。場合によっては、既製品の漢方薬以外に、生薬の刻み・煎じによる調剤が必要です。漢方に特化した薬局のため、転職の際は中医学の知識を持つ人が有利になるでしょう。
中には、漢方薬局で働きながら、国際中医師など漢方の資格を取得する薬剤師もいます。筆者の知人も漢方に特化した薬局に勤務するかたわら、資格取得に向けて勉強中です。「仕事と資格勉強の両立は大変だけれど、テキスト学習だけでなく実物の漢方や生薬、さまざまな症例に毎日触れられるので、より理解が深まる」と話していました。
いち早く漢方を学べる環境を得たいと考える方は、まずは漢方薬局などに転職して仕事と並行しながら勉強するのはいかがでしょうか。
6.国際中医師の資格取得による年収への影響は?
マイナビ薬剤師に登録されているある漢方薬局の求人情報によると、年収350~450万円ほど(24歳~35歳モデル)と、一般的な調剤薬局と大きな差は見られませんでした。
応募時点で漢方や中医学に長けていることは必須ではありませんが、漢方や中医学への関心が高いほうが歓迎されるといえるでしょう。そのほかにも、漢方薬を多く取り扱う病院の門前薬局や、東洋医学外来がある病院の病院薬剤師という働き方もあるでしょう。転職の際は、資格を生かしつつ、自分のライフスタイルに合ったところを検討してみましょう。
7.国際中医師の資格取得で薬剤師の可能性を広げよう
国際中医師になると、中医学・漢方について中国の国家資格である中医師に相当する知識があると認められます。漢方は個人の体質や症状に合わせて選ぶ必要があり、体系的に学んだ知識は、患者さんの悩みの解決に役立つでしょう。また、漢方の専門家という肩書きは相談者にとっても安心・信頼につながります。国際中医師は漢方薬局で働くだけでなく、自らの漢方薬局を立ち上げようと考える方にとっても有用な資格です。漢方や中医学に興味があり、今後仕事の幅を広げたい方は国際中医師の資格取得を目指して、キャリアアップを検討してみるのはいかがでしょうか。
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執筆/テラヨウコ
薬剤師。3人兄弟のママ。大学院卒業後、地域密着型の調剤薬局に勤務。大学病院門前をはじめ、内科・婦人科・皮膚科・心療内科・皮膚科門前などで多くの経験を積む。15年の薬剤師歴ののち独立して薬剤師ライターへ。健康や医療、美容に関する記事を執筆。休日は温泉ドライブや着物でのおでかけが楽しみ。
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