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副作用に臨床推論の活用を‐添付文書との照合から脱却

薬+読 編集部からのコメント

2016年10月29日(土)、30日(日)、神戸市で開催された日本くすりと糖尿病学会学術集会。シンポジウム「糖尿病の臨床推論」では、“OPQRST”に沿って患者情報を聴取するなど薬学的臨床推論を活用して患者の状態を把握し、添付文書に記載された情報と照らし合わせるだけで判断することから脱却しないかと登壇者が呼びかけました。記事の最後では、具体的な事例も紹介されています。

 

目の前の患者に生じた有害事象が薬の副作用なのかそうでないのかを、添付文書に記載された情報と照らし合わせるだけで判断することから脱却しないか――。10月29、30日に神戸市で開かれた日本くすりと糖尿病学会学術集会のシンポジウム「糖尿病の臨床推論」に登壇した各演者は、臨床現場の薬剤師に対してそんなメッセージを送った。“OPQRST”に沿って患者情報を聴取するなど薬学的臨床推論を活用して患者の状態を把握した上で、症状の背景にある様々な要因のもっともらしさを推察しながら、他の医療者と情報を共有し対応を考えるよう呼びかけた。

 

川口崇氏(東京薬科大学薬学部医療実務薬学教室)は「患者さんに起きたイベントが添付文書に載っているかどうかを確認し、記載があれば副作用と判断する考え方はやめてほしい」と釘を刺した。

 

臨床現場で薬剤師に取り組んで欲しい副作用の対応方法として「三つのステップを踏んでほしい」と解説。患者情報や薬学的な知識を踏まえてまずは「被疑薬が原因であるもっともらしさを考える」。さらに、他の疾患が原因になっている可能性など「被疑薬以外が原因であるもっともらしさを考える」。その上で「チームと情報を共有して対応を協議する」。この3ステップを意識するよう強調した。

 

添付文書だけをよりどころにしてはいけない理由として川口氏は「欧米では、合理的な因果関係があるものだけを副作用としているのに対し、日本では因果関係を否定できない有害事象を含めて副作用としている」と説明。また、▽特に新薬の場合、添付文書に未記載の副作用が発現する可能性がある▽添付文書に載っている副作用でも、薬以外が要因になって起こる症状はいくつもある――などと語った。

 

北原加奈之氏(昭和大学病院薬局)は具体例を紹介した。ある日、北原氏は業務終了5分前にかかってきた電話で、ゲムシタビン投与中の70代男性肝内胆管がん患者に一過性意識障害が起きたことを知った。添付文書を調べると、関連がありそうな重大な副作用として白質脳症が記載されていた。白質脳症による意識障害の可能性が頭に浮かんだが、その情報を伝えて薬剤師の役割を終えるのではなく、さらに思索を深めた。

 

被疑薬が原因であるもっともらしさを考えるために患者のもとに出向いた。O(発症様式)、P(増悪・寛解因子)、Q(症状の性質)、R(場所・放散の有無、随伴症状)、S(強さ)、T(時間経過・日内変動)の各項目に沿って患者の状態を聴取。立ち上がろうとした時に意識が消失しすぐに戻ったことや、同剤投与前からたびたび起こっていたことを把握した。これらの症状は白質脳症とは合致しなかった。

 

薬以外が原因であるもっともらしさにも目を向けた。意識障害の中でも一過性の意識消失は失神と定義される。その患者は糖尿病を合併し喫煙歴もあった。ゲムシタビンの副作用ではなく、これらのリスクに伴う血管病変が影響し起立性低血圧を起こしているのではないかと考えた。一連の情報を医師に伝え、起立性低血圧による失神と診断された。ゲムシタビンを中止することなく、化学療法を完遂できたという。

 

佐古守人氏(東住吉森本病院薬剤部)は救急外来で深い呼吸をしていた40代女性に対応した事例を紹介した。

 

ある日、佐古氏は救急外来の初療室にいる女性患者が、深いため息のような呼吸をしていることに気づいた。数日前から嘔気症状が続き、頭痛とめまいが急に発症して運ばれてきた患者だった。血糖値は800mg/dL以上と高く、糖尿病の治療歴があった。

 

まずは高血糖と高度脱水と診断され、インスリンと補液の投与が始まった。佐古氏はOPQRSTに沿って患者の状態を把握。深く大きな呼吸は体内に過剰に蓄積された二酸化炭素を効率よく排出しているクスマウル大呼吸だと捉え、高血糖による糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)か高血糖高浸透圧症候群(HHS)が起こっているのではないかと考えた。DKAの場合、インスリンの自己マネジメントエラーが背景にあると推察した。

 

佐古氏はDKAとHHSの鑑別に必要な検査を依頼。その結果DKAと診断された。その後、意識がはっきりした患者に聞くと、数カ月前からインスリンを自己中断していたことが分かった。「病歴や身体所見を薬剤師として評価し、薬剤だけを原因と考えず、他の要因を臨床推論することが重要」と佐古氏は語った。

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出典:薬事日報

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