抗菌薬適正使用に手引き‐政府目標実現へ検討開始
厚生労働省は5日、厚生科学審議会の薬剤耐性(AMR)に関する小委員会の初会合を開き、政府の行動計画であるアクションプランの実行に向けた議論をスタートさせた。2020年までに抗菌薬の使用量を約3割減らす目標に向け、国が抗菌薬適正使用の手引きをまとめる方針。新たに作業部会を設置し、まず手引き第1版の策定作業に着手。日常診療で多く見られる感冒(かぜ)や急性下痢症への対応について具体的な検討を進めていく。
政府は20年までのAMRに対する行動計画を打ち出し、抗菌薬の適正使用に関して13年比で約3割減少させる目標を打ち出した。厚労省は、AMR対策を強化するため、6月の感染症部会で小委員会を設置することを決定。この日の初会合では、アクションプランの重要分野の一つである抗菌薬の適正使用について専門的に議論するため、新たに作業部会を設置することを決めた。
作業部会では、一般診療の場で適正使用に重要な項目について、実践的な対応を解説したマニュアル「抗菌薬適正使用の手引き」(第1版)の作成に向けた検討に着手する。手引きは、外来診療に携わる医師などの医療従事者が利用するもので、基礎疾患のない軽症患者への対応を想定。総論と各論で構成し、第1版の各論では、かぜと急性下痢症について解説する。
各論では、特に抗菌薬を使うべきかどうか迷う状況での助けとなるよう適切な診療の進め方、患者や家族への伝え方について実践的な対応を盛り込む。
手引きは30~40ページ程度の簡易なものを目指すとしているが、小児科医の釜萢敏委員(日本医師会常任理事)は「これまでも外来診療での抗菌薬を適正使用していく動きはあり、関連学会からガイドラインも出ている。日本医師会もAMR対策に取り組んできたが、なかなか現場では抗菌薬の選択が難しく、判断に迷うケースが少なくない。全ての病原菌を即座に確定できないので、いろいろな角度から抗菌薬を出す、出さないを含めて判断せざるを得ない」と臨床現場の実情を訴え、「現場に役立つ手引きを作るのは容易ではない」と課題を指摘した。
舘田一博委員(東邦大学医学部微生物・感染症学教授)は「大事な意見。医師だけでなく、介護者や子供の母親などへの啓発も同時に重要となる」と述べ、八木哲也委員(名古屋大学大学院医学系研究科臨床感染統御学教授)も「薬をもらう側の啓発を表裏一体で進めないと適正使用はうまくいかない」とした。
一方、洪愛子委員(日本看護協会常任理事)は、「病院では基礎疾患を持っている入院患者の感染症が大きな問題」と指摘。肺炎や尿路感染症など重症感染症への対応を質した。
厚労省は、かぜに抗菌薬を使わないための適正使用がまず重要との考え方を示し、特に必要な疾患については、第2版以降の手引きで対応していくと説明。そのほか、抗菌薬の研究開発や国際協力への対応については、小委員会で議論していくとした。
また、動物、食品、環境といった垣根を越えた「ワンヘルス」として、AMRの動向について総合的な調査が重要となることから、健康局長の私的検討会「薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会」を設置することも決まった。
同調査検討会では農林水産省、環境省の参加のもと、省庁横断的な組織として議論を進める。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
厚生労働省は2020年までに抗菌薬の使用量を約3割減らすことを目標に、薬剤耐性(AMR)に関する小委員会の初会合を開きました。今後、「抗菌薬適正使用の手引き」をまとめる方針で、第1版では風邪や急性下痢症への対応についてが解説される予定ということです。