薬剤師会

理想の薬剤師、漫画に描く~富野浩充氏(焼津市立総合病院薬剤科)

薬+読 編集部からのコメント

現在、月刊コミックゼノン(徳間書店)に連載中の薬剤師を描いたコミック『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』(荒井ママレ作/医療原案・富野浩充)をご存知でしょうか? 昨年11月に発売された単行本第1巻も増刷を重ね、薬剤師のリアルな日常、業務がコミカルに描かれた傑作です。医療原案を担当された富野浩充さんは静岡の焼津市立総合病院薬剤科に勤務する現役の薬剤師さん。編集者と富野さん、そして漫画家の荒井ママレさんの“三人四脚”で作られる、人気コミックの裏話をどうぞ! この作品は近々、当サイト『薬+読』でのWEB連載を予定しておりますので、お楽しみに!

「もしかして薬剤師っていらなくない?」。病院薬剤師として働く主人公・葵みどりのこんな疑問から始まる漫画『アンサングシンデレラ』。2018年11月に単行本の第1巻が発売され、増刷を重ねている。医療原案は焼津市立総合病院薬剤科の富野浩充氏(写真)。医療分野のライターとしても活動中だ。漫画の主人公のように、富野氏自身も薬剤師の立場や存在意義に危機感を抱くことがあるという。「例えば、病変の組織や細胞の観察を専門にする病理医がいるように、薬剤を専門にする医師がいてもおかしくない。薬剤師のあるべき姿、その着地点を漫画に描きたい」と抱負を語る。

17年7月、Twitterでメッセージが届いた。

 

「薬剤師の漫画を作りたいので、その監修をお願いできませんか?」

 

送信者は月刊コミックゼノンの編集者。富野氏がライター業務用に開設したウェブサイトを見て連絡してきたのだという。富野氏は「面白そうと二つ返事で依頼を引き受けた。ただ、薬剤師でドラマになるのかという不安はあった」と振り返る。逆に編集者は、「医師と対等に動ける立場の薬剤師はドラマになる」と自信を持っていた。医師の出した処方箋に唯一、異議を唱えられる職業が「薬剤師」。縁の下の力持ちであり、主人公が女性であることから『アンサングシンデレラ』と編集者がタイトルを付けた。

 

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漫画作りは、編集者と富野氏、漫画家の三人四脚で進められる。まず、編集者が大まかなストーリーを考える。富野氏は、そのシーンに合った医薬品を選び、薬剤師や医師らが医療現場でどう治療しているのか、いくつかの事例を示す。この作品では、医薬品の作用や性質はドラマを生むトリックのような存在だ。編集者と漫画家が、そのトリックが生きるようにドラマを作り上げていく。

 

例えば、第1話。編集者が考えたのは「薬の相互作用による容態の悪化を薬剤師が見つけて患者を助ける」というストーリー。富野氏が提案した中から、喫煙とテオフィリンの相互作用が採用された。喫煙は、代謝酵素のCYP1A2などを誘導し、テオフィリンの血中濃度を低下させる。そのため、喫煙者は非喫煙者よりも多量のテオフィリンを投与されることがある。

 

漫画では、禁煙したことを医師に伝えていなかった患者に、喫煙時と同量のテオフィリンを処方した結果、中毒症状が発現。その原因を主人公が突き止めるストーリーになっている。

 

漫画のタイトルの通り、薬剤師は縁の下の力持ち。医師や看護師と比べると、患者から見えにくい存在だ。富野氏は漫画を通して「まずは、薬剤師の仕事を知ってほしい。そして、薬剤師を目指す人が増えてくれたら」と期待を込める。

 

ただ、富野氏自身も漫画の主人公のように、薬剤師の立場や存在意義に危機感を抱くことがある。「病変の組織や細胞の観察を専門にする病理医がいるように、薬剤を専門にする医師がいてもおかしくない。疾患や薬の情報はインターネットで調べれば分かるようになった。ITや人工知能(AI)で替えの利く存在では薬剤師は生き残れない。薬剤師のあるべき姿、その着地点を漫画に描きたい」と抱負を語る。

 

富野氏は、薬剤師の理想像として、医師と同列の立場で全領域の薬に詳しいジェネラリストを一例に挙げる。「強みの一つは診療科の壁がないこと。担当以外の診療科の疾患や薬にも対応できる薬剤師は、有用性がある」と考えているが、ハードルは高いと感じる。

 

一方、病院、薬局を問わず、薬剤師は専門性を求める傾向にある。富野氏自身も小児薬物療法認定薬剤師の認定を取得しているものの、「医師は自分の診療科で使う薬には詳しく、その部分では教えてもらうことが多い」と実感している。「専門薬剤師制度は学ぶきっかけにはなるが、専門性を高めて他の領域に詳しくなくなるのはどうか」と苦悩する。

それでも、病院薬剤師の仕事には確かな手応えを感じている。現在、富野氏は、焼津市立総合病院に勤務。産婦人科と小児科を担当し、約20人の患者を受け持つ。午前中は調剤など中央業務が中心で、午後から病棟業務に移る。電子カルテに記載された報告や検査値を確認するなどして、必要があれば副作用がないか、体調に変化がないかを患者に尋ね、医師や看護師らにフィードバックする。「目に見えて1日ごとに患者さんの容態は変わる。回復していく過程が見えて、治療が進んでいる手応えがある」とやりがいを語る。

 

読書好きが高じ、高校時代には自ら小説を書きたいと考えるようになったが、気持ちと裏腹に文系科目より理数科目が得意だった。「文章で食べていけるかどうかわからない。それに理系出身の作家もいる」と考え、進路指導では理系を選択。地元の静岡県から東京理科大学薬学部に進んだ。

 

大学卒業後、約2年間は地元に戻り、ドラッグストアで働くなどしていた。当時の心境を「昨日と今日が入れ替わってしまっても問題ないルーティーンのような日々だった」と富野氏は振り返る。高校時代に抱いた「文章を書きたい」という気持ちは消えず、02年からジャーナリスト専門学校に通い、文章を書くスキルを磨いた。現在も連載を続ける医療系雑誌の仕事を始めたのもこの時期だ。その後、04年から千葉県の総合病院薬剤部で働き始め、13年に焼津市立総合病院薬剤科に赴任した。

 

担当編集者は、富野氏の人柄をネガティブと言い、自身も「内向的で、喋るより書く方が得意」と分析する。その半面、いろいろな物事に首を突っ込んでいく一面も合わせ持つ。「病棟では、なるべく患者さんや医師、看護師らと話すようにしている。創作のネタを探すという意味もある。いつかアイデアが貯まれば薬剤師をテーマにした小説を書きたい」と語る。

 

経験に裏打ちされた文章を書くためにも、病院薬剤師の仕事は続けていくという。それが病院薬剤師としての強みにもなると考えている。「薬剤師だけでなく、他の視点も持っていたい。医師と比べると、薬剤師はまだ完成されていない職業なので」

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