医療

薬剤部機能の維持に苦心~新型コロナ対応で各病院【薬事日報社調査】

薬+読 編集部からのコメント

全国各地の病院が現在、もっとも苦慮していることは、薬剤師が新型コロナウイルス感染症を発症することで、薬剤部の機能が停止し病院全体の機能に影響が及んでしまうことです。薬事日報社の調査によりますと、各病院で様々な予防策を講じていることが分かりました。薬剤師が感染した場合の対策をまとめている病院も少なくはありませんが、現実問題として普段から薬剤師不足が懸念されている中、「対策を立てられない」と苦慮する声も少なくありません。また病院薬剤師から各方面に対する様々な要望として、各病院の薬剤師が口を揃えて強く求められているのが、個人用防護具の安定供給でした。

全国各地の病院薬剤部は、新型コロナウイルス感染症を薬剤師が発症することにより、薬剤部の機能が停止し、病院全体の機能に影響が及ばないよう様々な予防策を講じていることが、本紙の調査で分かった。病院でも有事の事業継続計画(BCP)策定が求められており、薬剤師の感染が発覚した場合の対策をまとめている病院も少なくなかったが、「普段から薬剤師が不足しており、対策を立てられない」など苦慮する声もあった。


調査によると、薬剤師間の新型コロナウイルス感染を抑制するため、シフト変更や環境整備に取り組んでいる病院が多かった。近畿地方の大学病院は、調剤や注射薬調製等の中央業務を担当する薬剤師と、病棟業務を担当する薬剤師の接触を減らすためにシフトを変更。中央業務と病棟業務を交代で担当するシフトを改め、どちらかの業務のみを担当するシフトを導入した。担当病棟もできるだけ固定し、病棟グループ間での薬剤師の接触も抑制している。

 

九州地方の大学病院は、薬剤部で「3密」の環境を作らないよう会議や勉強会を中止した。配置する消毒薬を追加し、手洗い遵守の環境を整備。職員には病院で策定された基準を遵守するよう指導し、薬剤部長が毎朝ラウンドして発熱や呼吸器症状の有無等の状況を確認している。

 

新型コロナウイルス感染者の診療を受け入れている中国地方の民間病院は、実際に薬剤部の職員が肺炎疑いで診察を受ける事態が生じたという。外来・入院患者の調剤や注射薬調製を一つの大部屋で行っているため、薬剤部職員全員のPCR検査や自宅待機も考えられたが、PCR検査が必要な症状ではなく難を逃れたようだ。その後、薬剤部全体の会議は中止し、各部署内を小グループに分けて打ち合わせを行うことで濃厚接触者を減らし、全体の業務が中断されないようにした。

 

マスクを外すため、リスクが高まる食事の場面での感染予防に注意している病院も多かった。「食事の際にも換気を行い、時間差でソーシャルディスタンスを確保した上で静かに食べている。医療従事者の感染が医療崩壊に直結することを自覚して行動してもらっている」(近畿地方の自治体病院)、「それぞれが濃厚接触者とならないよう休憩時間、特に食事をする時には距離を置き、マスクを外した会話は控えるように注意している」(九州地方の民間病院)などの声があった。

 

■非薬剤師活用も視野‐薬剤師の感染発覚時に

薬剤師の感染が発覚した場合の対策についても、複数の病院から回答があった。中国地方の大学病院は、薬剤師の感染時には職員の出勤を停止し、濃厚接触者にはPCR検査を実施し、陰性の場合には職場に復帰させる。それまでは業務を縮小し、濃厚接触者以外の職員で主に入院患者への薬剤の供給を行う計画を策定している。

 

中国地方の民間病院は、陽性者が出た場合に濃厚接触者の規模に応じて外来診療を縮小し、薬が必要な慢性疾患の患者には電話診療を行い、宅配や院外処方で対応する準備を進めている。

 

非薬剤師の活用を視野に入れている病院も少なくない。「調剤室の薬剤師が感染した場合、病棟担当薬剤師や薬剤部長が調剤と供給を行う。薬剤師以外の者の狭義の調剤範囲におけるテクニカルサポートを拡張する」(関東地方の民間病院)、「急に中止してはいけない薬剤のみ看護師が薬剤師に代わって業務を遂行する」(関東地方の民間病院)、「薬剤師の指示のもと薬剤助手や事務員によるピッキングや、分包機を使用せずPTP単位での払い出しを行う」(中国地方の民間病院)などの回答があった。

 

一方、「感染時の対応を想定しているものの、普段から薬剤師不足のため事業継続計画を立てられない」(近畿地方の自治体病院)、「閉鎖された調剤室で業務を行っているため1人でも感染すれば薬剤部は閉鎖となり病院が機能しなくなる。他施設の薬剤師の関与の状況や対策を知りたい」(近畿地方の公的病院)など、対応に難渋する悲痛な声も上がった。

 

■医療崩壊防ぐ体制整備を

病院薬剤師から各方面に対する様々な要望として各病院の薬剤師が口を揃えて強く求めたのが、個人用防護具の安定供給だ。「一般病棟の一部を軽症者に開放することが予想され、院内感染をいかに防ぐかを検討しているが、防護具の不足が心配。安定供給をお願いしたい」(中国地方の大学病院)、「出口が見えない中で防護具が不足しており、その状況下に置かれる職員の不安が強い。目に見える形での定期的な配分が必要」(関東地方の民間病院)、「不織布タイプのマスクを一般に販売することはやめて政府の管理下に置き、医療機関や介護施設、保育所などハイリスクの方々に配布してほしい」(近畿地方の民間病院)などの声があった。

 

治療薬についても「治療候補薬の入手方法を自ら探さなくてはならず、臨床研究、適応外使用など様々な面でハードルが高い。行政が患者の受け入れを要請するのであれば、治療薬の手配も行い、どの病院でも同じ治療ができるようにすべき。攻撃(治療薬)と防御(個人用防護具)の両方が潤沢でなければ戦えない」(近畿地方の自治体病院)との意見があった。

 

医療体制については「軽症患者の入退院基準を早期に見直してほしい。検査センターの開設、陽性患者の自宅待機時のフォローなどの対策を講じてもらいたい」(近畿地方の大学病院)、「院内感染の増加を踏まえ、感染した場合にリスクの高い患者に接する機会がある医療従事者に対してPCR検査を実施してほしい」(九州地方の大学病院)、「未だ保育所が子供を預かってくれず、出勤できない医療従事者がいる。解決の措置が必要」(近畿地方の大学病院)など、医療崩壊を防ぐ体制整備を求める声が多かった。

 

医療従事者を守るよう求める声も強く、「医療従事者の家族への感染を避けるため、専用の宿泊施設をバックアップしてもらいたい」(近畿地方の大学病院)、「陽性患者の対応には想像以上の労力や疲労を伴うため、スタッフの心のケアが必要」(近畿地方の公的病院)などの回答があった。

 

このほか、「一般病棟を専門病棟にした場合、病棟薬剤業務実施加算1の条件をクリアできなくなることが想定される。特例措置を認めてほしい」(近畿地方の大学病院)、「医療も安定経営があってこそ。国民への補償に合わせて医療機関等への補償も同時に検討してほしい」(関東地方の民間病院)、「薬学生の就職説明会や面接を実施できない。病院も困るが学生はもっと困っている。大学と病院薬剤師会で何か考えてもらいたい」(近畿地方の民間病院)など多方面に及ぶ要望が寄せられた。

 

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出典:薬事日報

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