薬局起点で緊急避妊薬提供~電話診療受け1時間以内に
豊中市薬剤師会は、豊中市医師会、豊中市保健所と連携して、薬局が起点となって利用者が緊急避妊薬を受け取れるモデル(※下は豊中市薬提供のモデル図)を構築し、1日から運用を開始した。薬局から市内の婦人科診療所の医師に電話をかけて診療を受けてもらい、FAX送付の院外処方箋で調剤する。薬局薬剤師は、事前に診療に必要な情報を利用者から聴き取り、医師に提出する。現行の法規制下において、薬局に足を運ぶだけで対応可能な方法を考案した。地域の保健や医療、福祉の窓口として薬局の存在意義を高めたいとの狙いが背景にある。
医師会、保健所と連携
国は、緊急避妊薬のスイッチOTC化に向け検討を進めているが、実現に至っていない。現行の法規制下では通常、利用者は婦人科の医療機関で対面やオンラインで診療を受け、医療機関や薬局で緊急避妊薬を受け取る。豊中市のモデルは、関係者の理解のもとで薬局が起点になることが大きな特徴。薬局内で医師の電話診察も完結し、利用者は訪問から1時間以内に緊急避妊薬を服用できる。
薬剤師は、訪れた利用者から事前質問票に沿って9項目の情報を聴き取る。性交渉があった日時、妊娠が心配な理由、一番最近の月経日、普段の月経周期など、聴取した内容を書き込んだ質問票を、市内の婦人科診療所の医師に送信。その上で、薬局から電話診療で受診してもらい、院外処方箋をFAXで受け取る。調剤や服薬指導、その場での服薬確認を経て、医師の診療代を含め費用を精算する。
その後、薬局は医師へ服薬情報提供書を提出し、医師は薬局へ処方箋原本を郵送する。利用者には3週間後に受診してもらう。
豊中市の薬剤師会、医師会、保健所の3者で運用に合意した。手上げ式で市内の婦人科診療所17軒中5軒、薬局は会員約140軒中45軒が参加した。豊中市薬は、3月に会員向け研修会を開いて必要な知識を伝え、参加薬局の緊急避妊薬1回分の購入費用を負担した。
利用者が支払う費用は自費診療扱いとなる。保険診療の点数を根拠に、医師と薬剤師それぞれの技術料を目安として示し、参加する診療所と薬局に自由に費用を設定してもらう仕組み。薬代を合わせて利用者の費用負担は1万円弱となる見込みだ。
豊中市薬は1年半かけて医師会と対話し、理解を得た。豊中市では、これまで薬局が緊急避妊薬の提供に関わる機会は乏しかった。医師側は、薬局が窓口になることで受診者が増える可能性はあるが、大きなメリットはなく、薬局側もこの取り組みが過大な利益を生むわけではない。
一方、利用者は薬局の参画によって、市内各所に緊急避妊薬にアクセスできる場所が増える。医師会と話し合いを重ねて利用者目線で連携する意義を共有し、実現に至った。
豊中市薬の多田耕三副会長(グリーンメディック代表取締役=写真㊧)は「オンライン診療も考えたが、電話での診療が一番やりやすい。電話では十分な聴取が難しいとの医師の意見を受け、薬局で事前に診療に必要な情報を聴き取ることにした」と説明。「薬局は保健や医療のゲートキーパーとして地域に存在することを市民に認識してもらうことが大事。緊急避妊薬などの取り組みを一つずつ積み重ね、地域にあって良かったと思ってもらいたい」と期待する。
市保健所とも連携関係を構築した。行政は様々な相談窓口を設けており、性暴力や性犯罪、配偶者やパートナーからの暴力などの相談に応じている。薬局薬剤師は、緊急避妊薬を求める利用者に、必要に応じてメンタルケアの相談窓口を紹介する。多田氏は「薬局で全て完結できるわけではなく、相談に対応できる専門家の窓口を紹介するのも、ゲートキーパーとしての役割」と語る。
利用者数の見込みは不明だが、一定のニーズはあると見られる。今後、市民への周知活動に力を入れ、参加薬局のリストをウェブサイトに掲載するほか、豊中市等との協力事業で薬局に設置した電子掲示板(デジタルサイネージ)で発信している市政情報の中でもアピールする計画。市の広報とも連携していく考えだ。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
大阪府の豊中市薬剤師会では豊中市医師会、豊中市保健所と連携して、薬局起点で利用者が緊急避妊薬を受け取れるモデルを構築。8月1日から運用スタートしました。薬局から市内の婦人科診療所の医師に電話をかけて診療を受けてもらい、FAX送付の院外処方箋で調剤します。背景には地域の保健や医療、福祉の窓口として薬局の存在意義を高めたいとの狙いがあります。