医療

薬学部の入学者募集停止~全国初、撤回訴え届かず 姫路獨協大学

薬+読 編集部からのコメント

姫路獨協大学が、2025年度から薬学部の入学者募集を停止。2024年度の入学生を含む全生徒の卒業後に廃部となる見通しです。入学者の募集を停止するのは全国の薬学部で初めてとなり、学生の確保に苦しむ他大学への波及も懸念されています。

姫路獨協大学は、2025年度から薬学部の入学者募集を停止する。薬学部は、今春の入学生を含む全生徒の卒業後に廃部となる見通しだ。全国の薬学部で募集停止は初めて。学長が廃部方針を打ち出し、3月28日の理事会で正式に承認された。増田智先薬学部長(写真)は「近年は学生の支援を強化し、薬剤師国家試験合格率は高くなりつつあった。地元高校との関係再構築にも力を入れ、入学者数回復の兆しは見えていた。あと数年は様子を見てほしかった」と悔しさをにじませる。

薬学部の入学者数は18年度以降、低迷を続けていた。定員100人に対して20~40人台の入学者が続き、23年度の入学者数が5人になった結果、薬学部全体の定員充足率は50%を割り込む状況になった。文部科学省は、収容定員充足率が50%を下回る学部が一つでもある場合、新たな学部の設置を認めない方針を示している。定員充足率の低下は大学の補助金確保にも影響が及ぶ。こうした背景から薬学部の募集停止が決まった模様だ。

 

医療系3学部と人間社会学群を持つ同大は、大学全体でも入学者確保に苦しんできた。状況を打開しようと姫路市に公立化を要望したが、市は22年に受諾しない方針を示した。併行して、自治医科大学と関係が深く各地の病院経営等を手がける地域医療振興協会に大学の事業譲渡を持ちかけ前向きに検討が進んだが、23年6月に事業譲渡は不成立となった。以降、薬学部の入学者募集停止の方針が前面に出てきたという。

 

18年度以降、入学者数が低迷したのは、学生確保を優先し薬剤師国家試験の合格率が低くなった影響もある。23年度に入学者が5人になったのは、公立化を信じ生徒を送り込んできた地元高校の反発だ。こうした反省から薬学部の教員は近年、学生を丁寧に指導するなど国試対策に力を入れ、合格率は上向きつつあった。昨年は地元高校のあいさつ回りを強化し、信頼関係の再構築にも努めた。

 

こうした取り組みで今春、24年度の薬学部入学者数は20人(うち1人は4月に入って退学を決定)になり、今後数年でさらに回復が進むとの期待があった中、他学部の入学者数も低迷を続ける状況で薬学部だけが狙い撃ちされた。

 

増田氏は学長に対して、入学者数回復の兆しがあることや、薬学部の募集停止は今後の大学運営にも影響が及ぶことを伝え、最後まで方針撤回を訴え続けたが、受け入れられなかった。

 

薬学部の全教員には昨年12月に学長から募集停止の方針が伝えられ、28人の教員のうち4人が3月に退職した。薬学部はすぐに廃部になるわけではなく、全生徒が卒業するまで存続するが、教員の動揺は避けられない。教員の1人は、「学生の教育を最優先して取り組むしかない」と語る。

 

同大は3日の入学式を前にウェブサイトで廃部方針を公表した。薬学部の新入生や既存学生、保護者が混乱に陥るのは必至で、退学者の増加が危惧される。大学のさらなるブランド力低下も招きかねない。

 

 姫路薬剤師会 泉副会長「残念でショック」

将来、薬学部がなくなることは近隣地域にも大きな影響が及ぶ。姫路薬剤師会の泉憲政副会長は「地域に薬学部があるメリットは大きい。大学があるおかげで地域の薬剤師の意識は活性化されていた。卒業生の数は多くはなかったが、地域の薬剤師確保にもつながっていた。すごく残念でショックだ」と言及。「薬学部は地域の財産。存続の道はなかったのだろうかと思う。薬剤師会としてもっと協力できることがあったのではないかと反省している」と話す。

 

同大は1987年、高等教育機関の設置を求める地域の声を背景に、姫路市が提供する資金や土地をもとに獨協学園が設立する“公私協力方式”で開学した。文系3学部を擁する総合大学として発展し、2006年には医療保健学部を新設。07年には慢性的な薬剤師不足に対応するため薬学部新設に踏み切った。

 

当初120人でスタートした薬学部の定員は13年度には100人に、23年度には60人に減らし、規模縮小で志願者減に対応しようとした。しかし、大学全体のブランド力や立地などの要因があったほか、少子化と大学間の競争激化という大きな波に抗うことはできず、新設から17年で募集停止とせざるを得ない事態となった。

 

懸念されるのが、今回の一件が他大学に飛び火する可能性だ。同大に限らず、学生確保に苦しむ薬系大学は各地にある。文科省の調査によると、23年度入試で入学者数が定員の半分に満たなかった6年制薬学部は同大を含め七つある。一方、依然として多数の志願者を集める大学もあり、二極化の現象も見られる。今後さらに進行する少子化を目前に、一部大学は存続の正念場を迎えているのかもしれない。

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出典:薬事日報

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