薬剤師のためのお役立ちコラム 公開日:2024.02.29 薬剤師のためのお役立ちコラム

薬剤師は飽和状態?今後の需給予測とこれから求められる力を解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

近年、調剤業務のIT化やAIの導入などにより、薬剤師の業務のデジタル化が進んでいます。薬剤師にしかできなかった仕事が減れば、将来的に薬剤師の需要が下がる可能性は高いでしょう。一方で、薬剤師国家試験の合格者は毎年一定数いるので、有資格者は増え続けることになります。そうした背景を受けて、今後、需要と供給のバランスが崩れ、飽和状態になるのではないかと予測されています。では、実際にそのような状況は訪れるのでしょうか。この記事では、厚生労働省が公表した需給推計を紹介するとともに、飽和状態でも薬剤師として働き続けるための考え方についてお伝えします。

1.薬剤師は飽和状態?

厚生労働省は、2021年6月に「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」の「とりまとめ」を公表しました。その内容をもとに、薬剤師の需給推計について見ていきましょう。

 

1-1.将来的には飽和状態になる可能性がある

2020年から2045年までの需給推計によると、おおむね2030年前後までは高齢化の進行や院外処方箋の発行数の増加により、薬剤師の需要は増加すると見込まれています。
 
しかし、その後は人口減少による影響を受ける可能性があり、さらに業務のIT化や調剤業務の一部を薬剤師以外のスタッフが担うことで、薬剤師の需要に変化があると考えられています。
 
つまり、ここで課題視されているのは、対物業務中心の働き方です。特に調剤業務を中心とした対物業務に比重を置いた状態が継続された場合、全体として需要が減少し、薬剤師が飽和状態となる可能性が高まります
 
記事執筆時点ではまだまだ需要がある状況ですが、将来的には仕事への取り組み方を変えていく必要があるでしょう。

 

1-2.薬剤師の充足状況は地域によって差がある

現状維持が続けば薬剤師が飽和状態に達する可能性が考えられる一方で、薬剤師の偏在による不足エリアが発生しているのも事実です。
 
特に、都市部から離れた地方では病院薬剤師が不足しやすい傾向にあり、人材確保は早急に対応しなければならない課題です。全体的に飽和状態にあるとしても、地域差による需要は残ると考えられます。

2.薬剤師が飽和すると予測される具体的な理由

上述したように、薬剤師が対物業務を中心とした働き方を続けると、将来的には飽和状態になることが見込まれます。
 
その具体的な理由を、厚生労働省が公表した「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 とりまとめ(提言概要)」をもとに見てみましょう。

 

2-1.主とする業務によっては薬剤師の供給が過剰になる

厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 とりまとめ(提言概要)」に掲載されている薬剤師の需給推計によると、国家試験合格者数が今後も近年と同程度であると仮定した場合、2020年の時点で約32万5000人だった薬剤師数は、2045年には約45万8000人と、およそ1.4倍にもなると予想されています。
 
同資料によれば、薬剤師の需要総数は、2020年時点で約32万人。それに対し、業務内容が現在と同程度の状況が続いた場合、2045年の需要総数は約33万2000人で、薬剤師人口が増えるにもかかわらず、25年後の需要は現在とほぼ変わらないという予測です。
 
つまり、現状維持のままであれば、約12万6000人の薬剤師が余ってしまう結果となり、将来的に多くの薬剤師が医療関係の仕事に就けない状況になると予測されています。
 
一方、同資料では、人口減少を考慮した薬剤師の供給数や、業務の幅を広げることによる需要拡大を試みた場合の需給状況も推計しています。人口減少を考慮して推計すると、2045年の薬剤師数は約43万2000人。業務の幅を広げることで需要拡大を目指すと、2045年の需要総数は約40万8000人と上記よりも増加します。
 
それでも、需要に対し、約2万4000人が余ってしまう予測ですが、上記と比べて飽和状態を緩和させることになるでしょう。今後の飽和回避のためには、薬剤師育成のカリキュラムから見直しをすることと、業務の幅を広げることが重要であることが分かります。

 

2-2.調剤薬局は処方箋枚数が人口減少の影響を受ける可能性がある

院外処方箋の枚数は、高齢者の人口増加などにより、当面は増加することが予想されています。しかし、将来的には人口減少が予想されていることから、今までのように処方箋枚数に依存したビジネスモデルでは、薬局経営が成り立たなくなる可能性があります。
 
就職口が減れば、当然、薬剤師が余ってしまいます。これからの薬剤師は、地域医療に根付いた処方箋業務に依存しない活動を行い、幅広く活躍するための努力が求められるでしょう。

 

2-3.薬剤師の業務をAIや薬剤師以外のスタッフが行う流れに

「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」の「とりまとめ」では、薬剤師による対人業務を充実させるために、対物業務を薬剤師以外のスタッフや機械に任せて効率化する必要があるとしています。今後は処方箋に記載されている薬剤を薬剤棚から集める作業は薬剤師以外のスタッフが行い、一包化などは機械に任せるといった流れになるでしょう。
 
調剤業務を安全に行うために、調剤機器の精度を上げる役割や、薬剤師以外のスタッフに指導する立場としての需要は一定数あるかもしれません。しかし、いずれにしても、今後、薬剤師の仕事として、対物業務の割合は減っていくことでしょう。従来の仕事しかしない薬剤師の需要は減る可能性が高いといえます。

 
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3.これからの薬剤師に求められることとは?

厚生労働省は「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」の「とりまとめ」で、薬剤師が選択する業態に偏りがあることを課題のひとつと挙げています。薬剤師の業務拡大と同時に、活躍できるフィールドを広げることが、飽和状態を避けるためにも重要です。ここでは、今後広がると考えられる需要の傾向から、薬剤師として生き残るために身につけたいスキル、考え方などについてお伝えします。

 

3-1.コミュニケーションスキルを高める

薬剤師の業務が、対物から対人へ移行すると、今まで以上に人と接する機会が増えるはずです。2021年8月から地域連携薬局や専門医療機関連携薬局といった認定薬局制度が施行されたこともあり、薬剤師は医療機関との連携がより一層求められます。
 
薬局薬剤師は地域住民と医療機関や在宅医療関係などの架け橋となり、病院薬剤師は薬局薬剤師と医師との架け橋となることが期待される役割です。薬剤師は、現状行っている業務に加え、多職種のさまざまな立場の人との交流の中で、薬剤師としての意見や見解を示す業務が増えるため、コミュニケーションスキルの高い薬剤師の需要は高まるでしょう。

 
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3-2.地域貢献活動を強化する

調剤薬局やドラッグストアなどで働く薬剤師は、地域医療に貢献できるように活動の幅を広げてみましょう。例えば、地域住民が健康へ関心を持ち、正しい理解ができるように情報発信するとともに、予防や健康づくりの推進といったセルフメディケーションを促すことが挙げられます。
 
そうした提案力を身につけるには、要指導医薬品や一般用医薬品、薬局製剤、衛生材料、介護用品などの知識習得や最新情報の収集に努める必要があるでしょう。情報提供や相談対応などの健康サポート機能を高めることが、調剤薬局やドラッグストアにおける業務拡大につながります。

 

3-3.専門性を高める

これからの薬剤師は、専門性を求められる機会も増えるでしょう。免許取得後も薬物療法に関する最新の知見を幅広く得るために、常に自己研鑽に努めなければなりません。
 
勉強会や生涯研修への参加による情報収集を心がけ、がんなどの疾患領域に応じた認定薬剤師や専門薬剤師などの資格取得を目指しましょう。特定分野のエキスパートは、他職種や患者さんから頼られる存在となるため、需要が高まると考えられます。

 

3-4.薬学カリキュラムから今後求められる薬剤師像を考える

臨床薬剤師として活躍し続けるためには、最新の薬学カリキュラムを把握しておくことも大切です。厚生労働省は、物理・化学・生物などの基礎科目は、4年次に行う薬学共用試験で国家試験の必須問題レベルまで達成させ、薬剤師国家試験は臨床中心の出題にすることを検討しています。
 
加えて、解剖学・生理学・ 病態学・病理学など臨床に関する教科や、介護分野、地域住民の健康増進の取組などに関する授業の充実を求めていることからも、薬学生は臨床に関する知識を今以上に習得し、実務実習で経験を積んでいることが予想されます。先輩薬剤師として専門性を今以上に高め、薬剤師しかできない業務や知見、見解を示せるような人材の需要は高まるでしょう。

 

3-5.研究開発分野への提案力を高める

研究開発においても薬剤師の活躍の場があります。医薬品の研究開発は、基礎化学を中心としたさまざまな分野の知識が必要であり、薬学部だけでなく理工学部などの理系大学出身者が就職先に選ぶ分野です。
 
医薬品の研究開発分野は、薬学的知識を習得し、かつ臨床についての教育を受けている薬剤師と、他分野のエキスパートが協力することで、現場に求められる医薬品の開発につなげることができます。現場感覚を持つ人材が医療現場のニーズに合わせた研究開発を提案できるようになれば、需要が確保されるのではないでしょうか。

 

3-6.最新の医療ニーズに対応できるスキルを磨く

臨床薬剤師や研究開発に携わる薬剤師にかかわらず、最新の医療ニーズに対応できるスキルを磨くことで、需要が高まる可能性があります。例えば、遺伝子組み換え技術や細胞培養技術などを用いて製造するバイオ医薬品は、これまで治療薬がなかった病気や従来の医薬品では満足度の高い治療を行うことができなかった病気への効果が期待されています。
 
臨床薬剤師が新しい治療法や治療薬の知識を持てば、患者さんに向けて最新情報を提供できるはずです。研究開発に携わる薬剤師が医療ニーズに敏感になり、研究開発に生かせれば、ニーズの高い医薬品の開発にもつながります。
 
また、医療分野のデジタルトランスフォーメーションの進展を考えると、AIやビッグデータなどを利用した研究開発にも対応できるように、生物統計や薬剤疫学分野についての知識も広げる必要があるでしょう。最新の医療ニーズをとらえた薬剤師の需要は、業種にかかわらず今後も拡大する可能性があります。

 
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4.飽和状態でも薬剤師の役割がなくなることはない

「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」では、薬剤師が選ぶ業態や就労地域、臨床薬剤師の業務、大学のカリキュラムなどさまざまな観点から今後の課題を提示しています。決して薬剤師を排除する流れではなく、薬剤師の役割や知識の幅を広げたり深めたりしながら、それぞれの分野のスペシャリストとして活躍する人材が増えることを期待した課題提示です。薬剤師側も、その期待に応えたいものです。

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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