初の新卒統一研修スタート~病院薬剤師不足を打開へ 地域医療機能推進機構

地域医療機能推進機構(JCHO)は、今年度から新卒薬剤師を対象とした「ポリバレントファーマシスト育成研修プログラム」を開始した。57病院からなる機構全体での統一的な卒後研修プログラムは初の試みで、急性期から慢性期における多様な病棟業務を1年次から経験でき、きめ細かなフィードバックも受けられるのが特徴。プログラム期間中も給与額は抑制されず、新設の「就職支度金貸与制度」「奨学金返還支援金貸与制度」も含め、待遇と研修の充実により病院薬剤師不足の打開を図る。
薬剤師不足問題はJCHOも例外ではなく、組織全体で定員数に対する欠員が続く。各病院で卒後研修を提供してきたが、薬剤師不足が医療安全機能に影響することを懸念し、昨年1月から薬剤師確保・育成・定着に関する本格的な検討を開始した。
同4月からは、埼玉メディカルセンター薬剤部長の伊藤典子氏(写真左)を病院薬剤師育成担当理事として配置。伊藤氏を委員長とする薬剤師教育研修実行委員会でJCHO全体の統一的なプログラムを初めて作成した。
新卒薬剤師を対象としたプログラムは、1年次の「医療薬学一般」と2年次の「医療薬学専門」の2コースで構成。急性期から慢性期まで多様な薬剤師業務を経験でき、詳細なフィードバックを受けることで効果的な薬物療法支援、チーム医療推進、地域医療に貢献できる薬剤師の育成を目指す。
調剤業務など基本的業務と並行して1年目から幅広く業務を経験してもらうため、2~3カ月ごとに内科系と外科系病棟を中心に経験できるのが特徴だ。JCHO本部薬事専門職の片山歳也氏(写真右)は「従来は一つの病棟業務に数年間配置される事例もあったが、効率的に各病棟業務を2年間で学べることが魅力」と強調する。
プレアボイド報告・在宅を含めた月1例程度の症例報告、講習会や関連学会への参加、自己評価・指導者評価等でスキルを担保し、プログラム内容の効率と質を両立させる。片山氏は、「研修部門、研修課題、研修評価を連携させており、きめ細かにフィードバックできる。実際に業務しながら自己評価し、自分で学び取る考え方を養える仕組み」と利点を挙げる。
全国57病院のうち、東京新宿メディカルセンターなど今年度に新卒薬剤師を採用し、プログラムに対応できるスケジュールと体制を整備した6病院から実施しており、来年度以降に実施病院を拡大し、将来的に全病院での実施を目指す。
返還義務を負う奨学金を抱え、給与面から病院薬剤師を進路から外す薬学生は少なくない。レジデント期間中の給与は一定額に抑えられる傾向にある中、JCHOのプログラムでは1年次から常勤採用の給与体系が適用される。
伊藤氏は、「育成と待遇をパッケージにして薬剤師確保を打ち出す。充実した卒後研修は確保と離職防止に有効ではないか」と狙いを語る。
今年度から新規採用された薬剤師に100万円を上限に入職時に一括貸与し、2年間勤務で全額免除する就職支度金貸与制度と、奨学金の返還義務を抱える薬剤師に返還すべき額に応じて月5万円を上限に貸与し、1年間勤務で1年分の返還義務を免除する奨学金返還支援金貸与制度を開始した。
薬学生向けの奨学金貸与制度は従来から運用しているが、伊藤氏は「病院薬剤師をやりたいが、奨学金返還義務で諦めざるを得ない人に将来のキャリアとして選択してもらうため」と制度新設の目的を説明する。
その上で、「研修と待遇の制度充実により、病院薬剤師をキャリアとして選んで入職した人が定着し、症例発表等で研修成果を外部にアピールし、病院薬剤師ができることを可視化するサイクルができるのではないか。以前から取り組んできた指導内容をプログラムとして体系立てることで指導薬剤師の意識向上と業務の見直しも進み、より臨床で実践力のある薬剤師が増える」と見通している。
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出典:株式会社薬事日報社
薬+読 編集部からのコメント
地域医療機能推進機構(JCHO)は、2025年度から新卒薬剤師を対象とした「ポリバレントファーマシスト育成研修プログラム」をスタート。57病院からなる機構全体での統一的な卒後研修プログラムは初の試みで、待遇と研修の充実により病院薬剤師不足の打開を図ります。