西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!
第3回 日本漢方と中医学で異なる「虚実」の考え方
中医学における「虚実」の考え方
中医学では、「証(体質・病の本質)」を導き出すために、「八綱弁証(はっこうべんしょう)」や「気血津液弁証(きけつしんえきべんしょう)」「臓腑弁証(ぞうふべんしょう)」など、さまざまな弁証法を用います。
表面化しているそれぞれの症状の「証」が同じであれば、ひとつの処方で同時にそれらの症状が治ることがあります。これを「異病同治(いびょうどうち)」といいます。また、同じ症状・病名であったとしても、「証」が異なれば処方がまったく違うということもあります。これを「同病異治(どうびょういち)」といいます。
中医学では「正気(体力・免疫力)」の不足によって、身体が弱り抵抗力が落ちていることを「虚(きょ)」といい、正気は足りているけれど「邪気(病邪)(※1)」が旺盛なために体に不調がある状態を「実(じつ)」といいます。
ふだんは「虚証(※2)」の人も、風邪をひけば身体に「風邪(ふうじゃ)」という邪気が入り、一時的に「実証(※3)」が加わります。反対に、「実証」に「虚証」が混ざることもあります。このように、虚と実が同時に存在する状態を「虚実挟雑(きょじつきょうざつ)」といいます。
また、不調が長引くと、虚実は複雑に入り混じります。「虚」の状態が次第に「実」に変化し、「虚」と「実」が混ざったり、「実」の状態が長く続けば「虚」に転じることもあります。
臨床では大抵、これらの虚実が入り混じった状態なので、その患者さんがどのようなメカニズムで「虚」と「実」になったのか、ひもとくことが大切です。
中医学では「正気(体力・免疫力)」の不足によって、身体が弱り抵抗力が落ちていることを「虚(きょ)」といい、正気は足りているけれど「邪気(病邪)(※1)」が旺盛なために体に不調がある状態を「実(じつ)」といいます。
ふだんは「虚証(※2)」の人も、風邪をひけば身体に「風邪(ふうじゃ)」という邪気が入り、一時的に「実証(※3)」が加わります。反対に、「実証」に「虚証」が混ざることもあります。このように、虚と実が同時に存在する状態を「虚実挟雑(きょじつきょうざつ)」といいます。
また、不調が長引くと、虚実は複雑に入り混じります。「虚」の状態が次第に「実」に変化し、「虚」と「実」が混ざったり、「実」の状態が長く続けば「虚」に転じることもあります。
臨床では大抵、これらの虚実が入り混じった状態なので、その患者さんがどのようなメカニズムで「虚」と「実」になったのか、ひもとくことが大切です。
中医学と日本漢方における「虚実」の考え方の違い
中医学と日本漢方では、「虚実(きょじつ)」の考え方が異なります。
前述したように、中医学における「虚実」は正気と邪気のバランスで決まります。したがって一人の身体の中の「虚実」は、一定でなくそのときどきで変化します。一方、日本漢方では「虚実」は身体の充実度で決まるので常に一定です。また、日本漢方では、虚証と実証の中間を「中間証」といいますが、中医学には「中間証」はありません。
このように、「虚実」という同じ言葉を使っていても、中医学と日本漢方では意味も考え方も異なるので注意が必要です。
一般的にいわれる「漢方」には「日本漢方」と「中医学」が混ざっていることが多いのですが、「虚実」の考え方の違いや「弁証論治」の有無から、最近では両者を分けて語られるようになってきました。患者さんにも違いを知ったうえで来局なさる方がいます。
勉強していくと、保険調剤をする際も漢方薬を処方した医師が中医学を学んだのか、日本漢方を学んだのか、あるいは、なんとなく処方しているのかがわかります。その分、患者さんへの服薬指導もしっかりできます。
私の場合は中医学が専門ですので、中医学専門の医師の処方意図は理解しやすく、食養生や生活の養生法などを患者さんにお話ししやすかったように思います。
- ※1
- 邪気(病邪、邪ともいう):細菌・ウイルス・寒さ・暑さ・湿気・乾燥など人体に有害な影響を与え、病気の原因となるもの。
- ※2
- 虚証:正気が虚弱(邪気も盛んでない)で抵抗力が落ちた状態。
- ※3
- 実証:邪気が旺盛(正気も盛ん)で体に不調がある状態。
- ※1
- 邪気(病邪、邪ともいう):細菌・ウイルス・寒さ・暑さ・湿気・乾燥など人体に有害な影響を与え、病気の原因となるもの。
- ※2
- 虚証:正気が虚弱(邪気も盛んでない)で抵抗力が落ちた状態。
- ※3
- 実証:邪気が旺盛(正気も盛ん)で体に不調がある状態。