”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2024.01.16公開日:2022.11.17 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第86回 阿膠(あきょう)とは?天然のコラーゲンといわれる効能を解説

絶世の美女・楊貴妃をはじめ、中国の歴代の妃たちが秘かに愛用した、特別な漢方薬のひとつが「阿膠(あきょう)」です。中国では古くから現代まで、日々の美と健康のために愛用されています。本シリーズではアンチエイジングにもってこいな薬食をさまざまに紹介していますが、まさに、阿膠(あきょう)もそのひとつです。

目次

1.ロバの膠(にかわ)の「阿膠(あきょう)」とは

阿膠とは、ウシやロバの皮を長時間煮だして作られる「膠(にかわ)」のことで、主な成分はコラーゲンです。とても手間がかかることや、原料が動物性であることなどから、今も昔も高価な中薬(=生薬)です。
 
ほかの中薬にも言えることですが、品質はピンキリです。質の良い阿膠ほど、光沢があり、向こう側が見えるほど透き通り、皮の臭いがなく、夏でも軟化しない、といいます。写真のような固形状(日本の漢方薬局では細かく砕いた状態)で、熱い煎じ液に溶かして飲みます


画像:執筆者提供

ずいぶん前の話ですが、むき卵みたいにお肌ツルツルでバラ色の頬の女性が、「阿膠を50グラムください」と漢方薬局にいらしたことがありました。年齢を聞いてびっくり! 10歳以上は若く見え、もうすぐ更年期にさしかかる年齢でした。よく見るとアイメイクやリップメイクのみで、たしかにお肌はスッピンです。漢方薬局で働き始めたばかりで若かった筆者が、阿膠の底力を思い知らされた衝撃的な出来事でした。

2.阿膠のはたらき:血や潤いを補い、止血する

中薬学の教科書において阿膠は、「補血薬(ほけつやく)」に分類されています。補血薬は「養血薬(ようけつやく)」とも呼ばれ、「血虚証(けっきょしょう)」を改善します
 
生薬や食べ物には四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平」といいます。阿膠は「平性」です。

■生薬や食べ物の「四気(四性)」 

阿膠の四気五味(四性五味)は「平性、甘味」なので、次のような作用があることが分かります。

・平性=温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがない性質
・甘味=補う作用 

 

また、阿膠は、「肺のグループ」「肝のグループ」「腎のグループ」に作用します。これを中医学では「肺・肝・腎に帰経する」などと表現します。

3.阿膠はどんな時に用いられるのか(使用例)

阿膠は肺・肝・腎に帰経して、「補血止血(ほけつ・しけつ)」「滋陰潤肺(じいん・じゅんはい)」の効能を持ちます。阿膠の作用は、おおまかに次の4つが挙げられ、症状・疾患の改善のほか、中医美容にも応用されます。具体的な例を見ていきましょう!

(1) 不足した血を補う:「補血(ほけつ)」作用
(2) 不足した潤いを補う:「滋陰(じいん)」作用
(3) いろいろな出血に:「止血(しけつ)」作用
(4) 乾燥による咳に:「潤肺止咳(じゅんぱい・しがい)」作用

 

(1)阿膠の「補血(ほけつ)」作用

阿膠は、「血(≒血液)」を補い、「陰(=潤い)」を滋養します。これを、補血作用、滋陰作用といい、「血虚(けっきょ)=血(けつ)の不足」が原因の老若男女のさまざまな症状に用います。また、肝血(かんけつ)と腎陰(じんいん)を補うことから、アンチエイジング効果が期待されます。たいていは、他の補血薬(ほけつやく)や補気薬(ほきやく)などと一緒に配合されて用います。
 
ちなみに「滋陰」「補陰」「養陰」は、どれも「潤いを補う」ことを意味します。中国文化では同じ用語の繰り返しを避けて、わざと言い換えて説明する傾向があります。「陰」は潤いであるため、「さんずい」を含む「滋陰」の用語を用いることが多いように思います。

阿膠は、血虚による顔色が悪い・頭のふらつき・めまい・眼のかすみ・動悸・乾燥肌・爪が割れやすい、生理不順・月経後期などの症状のほか、血虚による肌や髪に潤いやハリが足りない・髪がパサつく・髪が細い・髪が抜けるなどの美容の悩みにも応用されます。
 
(上述の症状の方すべてに阿膠が良いわけではない点にご注意ください。根本原因が血虚や陰虚の場合に用いることができるというだけです)
 
阿膠のような動物由来の中薬は「血肉有情の品(けつにくゆうじょうのしな)」と呼ばれ、特徴的で薬効が高いことが多いです。本コラムで登場したことのある「紫河車(しかしゃ=プラセンタ)」や「牛黄(ごおう=牛の胆石)」なども仲間です。
 
動物性の中薬は、植物性の中薬では届かないような深いところに、しっかり・どっしりと効くメージがあります。中薬学の教科書にも、『阿膠は「真陰(しんいん)」を補う』と記載されています。「真陰」とは、「最も根本的な陰(潤い)」のことで、「腎陰(じんいん)」を意味します。

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(2)阿膠の「滋陰(じいん)作用」

潤い不足の「陰虚(いんきょ)」にも、阿膠の滋陰作用が用いられます。さて、ここで人体の陰陽をおさらいです。ざっくりした表現で語弊があるかもしれませんが、イメージをつかみやすいように、あえてかみ砕いた言い方をします。

・「陽(よう)」とは、エネルギーのことで、太陽のような火のイメージ
・「陰(いん)」とは、潤いのことで、清らかな水のようなイメージ

 

「陽」は人体を温めて活性化させるパワー、「陰」は温め過ぎてオーバーヒートしないようにする冷却水だと想像してみてください。どちらも必要不可欠で、両方のバランスが重要です。

ところが、冷却水である「陰(潤い)」が減ってしまう(=陰虚になる)とどうでしょう? 相対的に「陽」が優勢となるので、人体には「熱っぽい症候」があらわれることがあります。これを、「陰虚火旺(いんきょかおう)」とか「虚熱(きょねつ)(=不足したことによる熱)」などと言います。阿膠は、陰虚火旺による不眠・焦燥感・熱感などの症状に、ほかの中薬と配合して用います
 
ちなみに、陰虚になるとみんなが陰虚火旺になるわけではありません。また、「熱っぽい症候」が発熱や炎症とは限りません。西洋医学で言う、いわゆる「熱」とは異なる意味です。たとえば、中医学の感覚でいう「熱っぽい症候」には、「精神的な症状=メンタルの熱」も含んだりします。

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(3)阿膠の「止血(しけつ)」作用

阿膠には止血作用があり、鼻出血・喀血・吐血・血尿・血便・不正性器出血・月経過多などの多種の出血に対して、単味あるいは他の生薬を配合して用います。
 
止血に阿膠を使うのは「慢性的な虚証(きょしょう)による出血」の場合です。実熱(じつねつ)や瘀滞(おたい)のある出血に早期に用いると、邪がこもってしまう弊害がありますので注意です。止血に用いる際は特に、体質を見極める必要があります。必ず、中医学の専門家に相談しましょう。

 

(4)阿膠の「潤肺止咳(じゅんはい/じゅんぱい・しがい)」作用

鼻・のど・気管支などの粘膜が乾燥して咳がでる状態に用います。阿膠は、肺グループを潤し、潤すことで咳を鎮めます。

4. 阿膠の効能は? 中医学の書籍をもとに解説

ここでは中薬学の書籍で紹介されている「阿膠(あきょう)」の効能を見ていきましょう。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。

阿膠(あきょう)

【分類】
補血薬

【処方用名】
阿膠・陳阿膠・驢阿膠・生阿膠・阿膠珠・蛤粉炒阿膠・蒲黄炒阿膠・アキョウ

【基原】
ウマ科EquidaeのロバEquus asinusL.やウシ科BovidaeのウシBos taurus L. var. domesticus GMELINなどの除毛した皮を水で煮て製したニカワ塊

【性味】
甘、平

【帰経】
肺・肝・腎

【効能】
補血止血(ほけつ・しけつ)・滋陰潤肺(じいん・じゅんはい)

【応用】
1.
血虚による眩暈・心悸などの証に用いる。阿膠は良好な補血薬であり、血虚による諸症状に活用する。多くは、党参(とうじん)・黄耆(おうぎ)・当帰(とうき)・熟地黄(じゅくじおう)などの補気養血薬と共に用いる。

2.
吐血(とけつ)・衄血(じくけつ)・便血(べんけつ)・崩漏(ほうろう)に用いる。阿膠は止血の要約であり、単品で用いても有効だが、多くは複数の中薬とともに配合する。例えば、≪千金要方≫では、阿膠と蒲黄(ほおう)・生地黄(しょうじおう)を配合して、吐血が止まらない状態を治療した。黄土湯(おうどとう)は、阿膠・灶心土(とうしんど)・生地黄(しょうじおう)・黄芩(おうごん)・附子(ぶし)などを配合して、吐血・衄血・便血・崩漏を治療する。膠艾湯(きょうがいとう)は、阿膠・生地黄(しょうじおう)・白芍(びゃくしゃく)・艾葉炭(がいようたん)などを配合して、女性の崩漏(ほうろう)・月経過多・妊娠下血・小産後下血不止などを治療する。

3.
陰虚による心煩・失眠などの証に用いる。阿膠はただ補血するだけでなく滋陰することができる。例えば、黄連阿膠湯では、阿膠・黄連(おうれん)・白芍(びゃくしゃく)・鶏子黄(けいしおう)を配合して熱病傷陰による心煩・失眠を治療する。

4.
虚労咳喘や陰虚燥咳に用いる。阿膠には滋陰潤肺の効能がある。例えば、補肺阿膠湯のように、阿膠・馬兜鈴・牛蒡子(ごぼうし)・杏仁(きょうにん)などと配合して、肺虚火盛で喘咳・咽の乾き・痰が少ないあるいは痰の中に血が混じる状態を治療する。
清燥救肺湯(せいそうきゅうはいとう)は、阿膠・生石膏(しょうせっこう)・杏仁(きょうにん)・桑葉(そうよう)・麦門冬(ばくもんどう)などを配合し、燥熱傷肺で乾咳無痰・気喘・心煩口渇・鼻燥咽乾などの証を治療する。

【臨床使用の要点】
桑椹は甘寒で清補し、滋陰補血(じいん・ほけつ)・生津(しょうしん)・潤腸通便(じゅんちょうつうべん)の効能をもつ。陰血不足(いんけつぶそく)の眩暈・目暗・耳鳴・鬚髪早白、津傷(しんしょう)の口渇(こうかつ)あるいは消渇(しょうかつ・しょうかち)、および腸燥便秘(ちょうそうべんぴ)に適する。

【参考】
(1)生用(阿膠・陳阿膠・驢皮膠・生阿膠)すると補血・滋陰潤燥に、海蛤殻の粉末と炒す(阿膠珠・蛤粉炒阿膠)と清肺潤燥・止咳化痰に、蒲黄と炒す(蒲黄炒阿膠)と止血に、それぞれ強く働く。
(2)阿膠・熟地黄は補血滋陰に働き、阿膠は補真陰・補血に長じ潤肺・止血の効能ももっており、熟地黄は補腎滋陰にすぐれている。また、阿膠のほうが粘膩(ねんじ)の性質が強い。

【用量】
6-15g。冲服。

【使用上の注意】
(1)湯か黄酒で溶かして服用。湯剤に入れるときも、薬液に溶かして服用する。
(2)粘膩の性質が強く消化を妨げるので、脾胃虚弱には禁忌。
(3)止血に使用する場合は、慢性化した虚証に適し、実熱や瘀滞に早期に用いると留瘀の弊害がある。
 
※【処方用名】【基原】【参考】【用量】【使用上の注意】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より引用/【分類】【出典】【性味】【帰経】【効能】【応用】は『中医学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの

このように、阿膠は肺・肝・腎に働きかけて、陰血(潤い・血)を補い、血虚や陰虚が原因で起こる色々な症状(眩暈・乾燥肌・髪の毛のトラブル・かすみ目・のどの渇き・から咳)を改善します。また、止血作用があるため、虚証の各種出血にも用いられます。

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5.阿膠の注意点と阿膠入りのシロップ剤

阿膠は補う力が強い分、とても消化に負担のかかる中薬です。これを中医学では「滋膩(じじ)」とよく表現します。「滋」とは補うこと、「膩」とは脂っこい、しつこい、重たい、ベタベタする、もたれる…等といったイメージ・ニュアンスです。
 
阿膠はまさに「滋膩」な感じの中薬ですので、脾胃虚弱(消化器系が弱い)の人で、もともと、胃もたれ・食欲不振・便がゆるい等の症状がある人は避けましょう。軽い脾胃虚弱の人、あるいは、脾胃虚弱だけれど阿膠を使わざるを得ない人には、補気健脾薬(ほき・けんひ・やく)や消食薬(しょうしょくやく)などの胃腸をケアする漢方薬を必ず併用します。また、瘀血や痰湿などの滞りがある人も、注意が必要ですので、専門家に相談しましょう。
 
日本で入手しやすい阿膠入りの漢方薬として、老若男女問わず服用できるシロップの補血剤があります。阿膠のほかに、補血薬である当帰(とうき)・地黄(じおう)・芍薬(しゃくやく)、補気薬(ほきやく)である黄耆(おうぎ)・党参(とうじん)、甘草(かんぞう)、また、「血中の気薬(けっちゅうのきやく)」とも呼ばれる気血の巡りを良くしてくれる川芎(せんきゅう)、消化するのに重くなりがちなので湿邪がたまらないように気遣ってくれる茯苓(ぶくりょう)などが、バランスよく配合されています。
 
補血剤なのに、補気薬も配合されているのはなぜ?と思われるかもしれませんが、血は気の働きで生み出されるためです。また、血虚は気虚を含みます。それゆえ、補血したいときは補血薬に補気薬を添えることが多いです。

色々なメーカーから、まったく同じ生薬の配合・分量で販売されており、それぞれ、砂糖か黒糖か、防腐剤の有無などの違いがあります。メーカーによって風味が異なりますが、私が飲んでいるのは黒糖みたいな味で、とても飲みやすいです。お湯に溶かして服用したり(ベーシックな服用法)、温かい豆乳やお茶、ヨーグルトに入れる甘みとして加えたり、味を変えて楽しんでいます。

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参考文献:
・小金井信宏『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・田久和義隆(翻訳)、羅元愷(主編)、曽敬光(副主編)、夏桂成・徐志華・毛美蓉(編委)、張玉珍(協編)『中医薬大学全国共通教材 全訳中医婦人科学』 たにぐち書店 2014年
・戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・王財源(著)『わかりやすい臨床中医臓腑学 第3版』医歯薬出版株式会社 2016年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・鄧明魯、夏洪生、段奇玉(主編)『中華食療精品』吉林科学技術出版社 1995年
・翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2007年
・梁 晨千鶴 (著)『東方栄養新書―体質別の食生活実践マニュアル』メディカルコーン2008年
ウチダ和漢薬『生薬の玉手箱 阿膠』

 
 

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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