”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 公開日:2023.11.10 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

 第97回 ドラッグストア・漢方薬局・調剤薬局の漢方薬に違いはあるの? 漢方薬の素朴な疑問・その4

患者さんから受ける漢方薬にまつわる素朴な疑問は、一般的な薬剤師さんからしても「そういえばどうなんだっけ?」と思うものがあるようです。今回は、「ドラッグストア・漢方薬局・調剤薬局(保険適用)の漢方薬に違いはあるの?」という、販売店にまつわる素朴な疑問にお答えします。

医療用医薬品と国民皆保険制度

日本で漢方薬を入手する方法は、大きく分けて2つかな…と思います。

 

(1)ドラッグストア・漢方薬局・ネットショップで[一般用]漢方薬を自分で購入するか
(2)医師による処方箋のもと[医療用]漢方薬を、(院内処方も含めた)調剤薬局で入手するか

 

結論から言うと、ドラッグストア・漢方薬局・保険適用の漢方薬には違いがあります。よく患者さんから「漢方薬局でカウンセリングを受けたら、保険適用で漢方薬をもらえますか?」という質問を受けます。しかし、それは無理です。背景には国民皆保険制度が関わっています。どういうことなのか、簡単に解説しましょう。

 

 

ご存知のとおり、医薬品には「医療用医薬品」と「一般用医薬品」があります。漢方薬においても同様です。先の患者さんが聞いてきた「保険適用で漢方薬」とは、「医療用医薬品の漢方薬」、つまり「医療用漢方薬」を指しており、医師または歯科医師による処方箋が必須です。

 

■医療用医薬品と一般用医薬品の違い

医療用医薬品(医療用の漢方薬もこれに同じ)
原則として、医師または歯科医師による診察・診断のもと処方されて用いられる。保険適用にするには、医師または歯科医師による処方箋が必要。漢方外来が可能なところは多く見かけるが、漢方の専門医はかなり少ない。


一般用医薬品(一般用の漢方薬もこれに同じ)
漢方薬局、ドラッグストア、ネットショップなどで入手できる。処方箋は不要。自分で調べて購入する、もしくは、漢方薬局でカウンセリングを受けて、専門家に選んでもらう。

 

日本の国民皆保険制度では、所得の有無に関わらず、全国民が公的な医療保険に加入することを定めています。おおざっぱな説明となりますが、患者さんが「医療用漢方薬」を入手する際には、処方箋をもらい、自己負担額を窓口で支払う必要があります。世界でも珍しく、誇るべき制度ですが、今後維持するのが大変だろうな…と個人的には感じます。

 
🔽 中医学の基本を学べるおすすめ本を紹介した記事はこちら

ドラッグストア・漢方薬局・保険適用(医療用)の漢方薬の違い

みなさんが漢方薬を入手するには、ドラッグストア、漢方薬局、調剤薬局のいずれかでとなるでしょう。どこで入手したかによって、漢方薬に違いがあります。次の4つの視点から、解説していきます。

 

(1)メーカーの違い
(2)含有生薬量の違い
(3)扱う漢方薬の幅(処方数・製品数)の違い
(4)入手しやすさの違い

 

 

(1)メーカーの違い

ドラッグストア・漢方薬局・保険適用(医療用)の3つのうち、どこ向けの漢方薬を製造するかは、メーカーによる棲み分けのようなものがあるようです。ただし、一部の大手製薬会社は、医療用も一般用も扱っており、その場合はパッケージや内容(生薬量)に違いがあります。
 
漢方薬専門のメーカーは、“原材料費が高くなっても、質が良いものを作りたい”というところも多いです。そのようなメーカーは原価が高くて薬価におさまらないため、医療用漢方薬を作りません。もしくは、あえて国の基準に合わせて有効成分を減らした医療用漢方薬を作ることもあります。
 
同じ処方名の漢方薬でも、メーカーによって味・風味、飲み心地、1日量などに違いがあります。メーカーによる漢方薬の違いについては、過去に詳しくお話ししましたので、そちらをご参照ください。

 
🔽 メーカーによる漢方薬の違いについて解説した記事はこちら

 

(2)含有生薬量の違い

最近はドラッグストアでも満量処方という言葉を見かけるようになりました。満量処方とは、合計生薬量が最大配合量になっているものです。構成生薬の分量は、『日本薬局方』や『一般用漢方製剤製造販売承認基準』などで定められています。ここから減らされると、「2/3処方」「1/2処方」となります。
    
前者は日本が作った「薬の大辞典」みたいなもので(略して局方とか薬局方と言います)、どの薬局にも必ず置いてあり、漢方薬の作り方も書かれています。両方に載っている処方は『日本薬局方』が優先されます。
 
例えば、『日本薬局方』では葛根湯の構成生薬は8種類で、4種類のレシピが記載されています。満量処方の多くは医療用医薬品と同じ分量が用いられ、成分量が多いぶん、効きが良いのが最大の特徴であり魅力です。つまり、一般用漢方薬であっても満量処方であれば医療用と同レベルのものが手に入るということになります。

 

 

となると、当然、満量処方のほうが良さそうですが、一概にそうとは言い切れません。
 
ドラッグストアにある漢方薬は、基本的に「2/3処方」「1/2処方」のように、あえて量を減らして販売されています。※葛根湯や防風通聖散など、繁用されて競争が激しい処方は、市販品で満量処方を見かけることもあります。
 
市販薬の多くが満量処方ではない理由として、“消費者自身で選ぶ”という点があります。不特定多数の人が購入するため、効果の高さよりも、選択ミスなどによる健康被害のリスクを減らすことが優先されるからです。また、生薬量を減らした分、価格が手ごろで、購入しやすい心理がはたらきます。
 
「漢方薬局よりドラッグストアの方が安い」という声もありますが、実は満量処方に計算し直すと、漢方薬局の方が安いことはよくあります。漢方薬局はなるべく満量処方を選びますが、そちらよりも効きが良いと店主が実感した製品や、エキス顆粒剤ではなく散剤や丸剤を選ぶこともあります。

 

【含有生薬料の違い等・まとめ】

調剤薬局
いわゆる「満量処方」と同じ。成分量が多いぶん、効きが良いのが最大の特徴であり魅力。漢方・中医学に習熟した専門医に処方してもらうのがよい。


ドラッグストア
満量処方より少ないことが多い。消費者自身で選ぶ。1包あたりの価格が手ごろ。


漢方薬局
エキス顆粒剤にこだわらずさまざまな剤型を常備し、患者によって使い分ける。含有量で計算すると、実際にはドラッグストアよりコスパが良いことも。専門家のカウンセリングを受けるため、自分に合った漢方薬が見つかる。

 
🔽 剤型による効き方の違いについて解説した記事はこちら

 

(3)扱う漢方薬の幅(処方数・製品数)の違い

現在の日本では、医療用漢方薬は148処方678製品、一般用漢方製剤は294処方 2367製品が承認されています。つまり、調剤薬局で手に入る医療法漢方薬よりも、漢方薬局で買える一般用漢方薬のほうが、選択肢がとても広いのです

 

 

一般用漢方薬にはあるのに、医療用漢方薬には存在しない漢方薬はたくさんあります。いくつか例をあげてみましょう。例えば「補中益気湯」は、創方(考えた人)の李東垣によれば、痩せている人には必ず「生脈散」と組み合わせよ、とのことです。しかし、医療用漢方薬の中に「生脈散」はありません

  
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さらに、日本は超高齢社会であり、高齢出産であり(高度生殖医療が進んでいる)、虚弱児が多いにもかかわらず、あらゆる世代が必要とする「補腎薬」の種類が、医療用は信じられないくらい少ないです。他方で、一般用は非常に種類が豊富です。

  
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また、子どもの漢方薬の代名詞ともいえる「玉屏風散(ぎょくへいふうさん)」は、アレルギー体質改善のお決まり処方として書籍に載っているくらいなのに、日本では一般用しかないのが不思議でなりません。
  
さいごに、風邪のひきはじめといえば「葛根湯」一辺倒でしたが、最近では寒気よりもノドの症状が優位の場合は「銀翹散」と認知されてきました。今やドラッグストアでも入手できる漢方薬ですが、医療用は存在しません。

  
► 【関連記事】漢方と風邪 -ノド風邪に葛根湯はあり?なし?-

 

中医学に詳しい漢方薬メーカーは、一般用漢方薬や健康食品として、日本に足りない処方を次々と世に送り出してくれているので、大変ありがたい存在です。

 

(4)入手しやすさの違い

ドラッグストアの漢方薬の一番の利点は、「入手しやすさ」でしょう。ドラッグストアは営業時間が長く、診察やカウンセリングなしですぐ買えます。よく使われる漢方風邪薬などは取扱店舗が増えているため、遠方の患者さんには「とりあえずドラッグストアで買っておいで!」ということもよくあります。

 

 

医療用漢方薬は病院で受診し、処方箋をもらい、調剤薬局へ行ってと、漢方薬を入手するまでに手間と時間がかかります(調剤薬局に置いていなくて、取り寄せるのに何日か要することもあります)。
 
漢方薬局の場合は、症状や状態にもよりますが、初回の漢方相談(カウンセリング)に1時間以上かかることも度々です。特に病状が複雑で多岐に渡る方、長期の治療歴がある方、そのほか、既に他の医療従事者に傷つけられている方も多く、誰にも聞いてもらえなかった相談ごとがとまらないこともあります。
 
さらに、患者さんの体質や漢方薬の効能についての説明はもちろん、食事・睡眠・心の在り方など養生法で気をつけるべきことなど、漢方薬局の人がカウンセリングで伝えなければならないことがたくさんあるからです。

 
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よく効く漢方薬ってどんなものだろう? 

一般用漢方薬でも医療用漢方薬でも、効きを最も左右するのは、自分にピッタリ合った薬なのか?という点につきます。患者さんも保険適用で手に入ることはご存知ですが、それでも漢方薬局を頼る一番の理由は、漢方薬についての専門性が高いゆえだと思います。
 
漢方薬は本来、「頭痛にはこれ!」というような単純なものではなく、病の本質を見極めなければ選びようがないものです。どの漢方薬局へも、あらゆる医療従事者が患者として来局します。そして、漢方薬で体調が整った経験をすると、間違いなく漢方薬ファンとなって、自分の臨床においても頻繁に扱うようになります。

 

 

中医学と西洋医学とでは基本的な概念が異なるため、たとえ医療従事者であっても、まっさらな気持ちで初歩から学ばなければならないのが、中医学のとっつきにくい理由のひとつかもしれません。西洋医学に習熟している人ほど、勉強しづらい面があるかもなぁと思います。
 
中医学を学ぶにあたって、イメージすること・感覚的なことが得意で、目に見えない存在をあたまから否定しない人は、相性がとてもいいような気がします! もちろん、臨床するなら西洋医学の知識は必須です。
 
そして、漢方ライフでもっとも大切なのは、長い人生のなかで少しの間だけ飲む漢方薬うんぬんよりも、一生モノの「養生法」を知ることです。自分や家族の体質を知り、流行りの健康法を鵜吞みにせず、避けるべきこと・合わないことを見極めるモノサシを手に入れること。西洋と東洋、「ヒガシ」と「ニシ」の両方のモノサシを手に入れると、生き方が大きく変わります。
VIVA!漢方LIFE!

 
🔽 漢方薬局に転職するには?仕事内容を解説した記事はこちら

 
 
参考文献:
医療用医薬品と一般用医薬品の比較について|厚生労働省
我が国の医療保険について|厚生労働省
広がりみせる漢方薬の処方 正しい知識を身に付けて適切な使用に導く|日本薬剤師研修センター
・小金井信宏(著) 『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・菅沼栄 (著), 菅沼伸 (著)『いかに弁証論治するか―「疾患別」漢方エキス製剤の運用』東洋学術出版社2002年
・丁光迪 (著), 小金井 信宏 (翻訳) 『中薬の配合』 東洋学術出版社 2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・許 済群 (編集)、 王 錦之 (編集)『方剤学』上海科学技術出版社2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
三浦於菟(著)『東洋医学の未病思想』日本未病システム学会 雑誌10(1):25-28,2004年
小池一男(著)『漢方の世界へようこそ』第63回東邦大学薬学部公開講座プログラムテーマ:『漢方、サプリメント&ハーブで健やかに』2017年
・『中薬大辞典』上海科学技術出版社 小学館 
満量処方とは?|北日本製薬株式会社
医学百科(補中益気湯)

 
 
 

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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