薬にまつわるエトセトラ 更新日:2023.08.21公開日:2023.04.24 薬にまつわるエトセトラ
薬剤師のエナジーチャージ薬読サイエンスライター佐藤健太郎の薬にまつわるエトセトラ

学べば学ぶほど、奥が深い薬の世界。もと製薬企業研究員のサイエンスライター・佐藤健太郎氏が、そんな「薬」についてのあらゆる雑学を綴るコラムです。

第102回

ChatGPTは薬剤師業務の役に立つ?活用法を考えてみた

人工知能に関するニュースの中でも、ここ最近話題の中心になっているのがChatGPTです。米国のOpenAI社が開発した対話型人工知能で、あらゆる質問に対して驚くほど的確な受け答えをすることで注目を集めました。

これを受けてグーグル社は、利益の大きな部分を占める検索事業が大ダメージを受ける可能性があるとして、緊急事態宣言を発しました。またマイクロソフト社は、OpenAIに1兆円以上を投資し、今後自社ソフトにChatGPTの機能を組み込んでいくと発表しています(日本経済新聞[2023年1月11日]より)。その他多くの業界に、このAIは大きな影響を与えると見られます。

 

ChatGPTはポンコツ?

では薬剤師の業務にも、ChatGPTは役立つのか。まずこれをChatGPT自身に聞いてみるとしましょう。
 

Q.薬剤師の業務に、ChatGPTをどう役立てればいいでしょうか?
 
A.薬剤師の業務において、ChatGPTを以下のように役立てることができます。

医薬品情報の検索と提供:ChatGPTは豊富な医療情報にアクセスできるため、薬剤師が医薬品の情報を検索し、必要な情報を簡単に提供することができます。これにより、薬剤師は患者の問題に対して迅速かつ正確に回答することができます。
……

なるほど、自信がありそうですね。では試しに、新型コロナ治療薬ゾコーバについて聞いてみるとしましょう。
 

Q.ゾコーバはどのような薬で、どのような副作用があるか教えてください。
 
A.ゾコーバとは、医療用語ではゾルピデムという名称の睡眠薬です。ゾルピデムは、中枢神経系に作用し、睡眠の質を改善する効果があります。ゾコーバは、不眠症の治療に使用されることがあります。

ゾコーバの副作用としては、以下のようなものが挙げられます。
……

いきなり全くダメな答えが返ってきました。言うまでもなく、ゾコーバとゾルピデムは全く別の薬です。

実のところChatGPTにこうした尋ねものをすると、自信満々に間違った回答をしてくることはよく知られています。たとえば「サイエンスライター佐藤健太郎について教えて下さい」と聞くと、「1984年生まれ、京都大学理学部卒の物理分野を専門とするライターです」などと、何一つ当たっていない回答を平然と返してきます。グーグルは本当にこんなAIにビビっているのか、と首をかしげたくなるようなポンコツぶりです。

ですがこれもやり方次第で、ある薬剤の添付文書をコピペして「この文章を要約して下さい」と頼むと、まずまずしっかりした答えが返ってきます。「○○語で要約して下さい」と言えばその言語でまとめてくれますので、外国人のお客様への対応には役立ちそうです。

また、説明の仕方を指定することも可能です。「小学生にもわかるよう、抗ヒスタミン剤の作用について説明して下さい」と言うと、次のような回答が来ます。
 

Q.小学生にもわかるよう、抗ヒスタミン剤の作用について説明して下さい。
 
A.花粉症は、空気中に飛散する花粉が体内に入ることで、体内にアレルギー反応を引き起こし、くしゃみ、鼻水、目のかゆみなどの症状を引き起こします。

またヒスタミンは、花粉症などのアレルギー反応の際に放出され、鼻水や目のかゆみなどの症状を引き起こす物質です。

抗ヒスタミン剤は、このヒスタミンの働きを抑えることで、くしゃみや鼻水、目のかゆみなどの花粉症の症状を軽減する効果があるんです。ですので、花粉症の症状が出た時には、お医者さんの指示に従って抗ヒスタミン剤を飲むことで、症状の軽減が期待できます。

と、まずまずの解説ぶりで、わかりやすい伝え方の参考にはできそうです。ただ、科学的誤りを犯す可能性は高いので、薬剤師によるチェックは欠かせません。

またChatGPTは科学知識には難があるものの、コンピュータ関連には強い特徴があります。簡単なプログラムを組んでもらうこともできますし、「Excelで“佐藤”を含むセルだけを判定する関数は?」というようなことを教えてもらうことも可能です。また、Excelの表データをChatGPTに貼り付け、その内容を調べてもらうようなこともできます。これらを上手く使えば、業務の効率化に結びつけられるでしょう。

 

薬剤師はAIに取って代わられるか?

よく「ChatGPTが○○の試験に合格した」という記事が出ます。そこで、試しに薬剤師の国家試験の問題をいくつか解かせてみたのですが、例によって自信満々に間違った答えを返してくることが多く、正解率はよくありませんでした。

とはいえ、これはこの原稿を書いている時点(2023年3月21日)でのことです。前述のような欠点を解消すべく急ピッチで改良が進められおり、新バージョンGPT-4も登場していますので、AIが薬剤師の仕事をある程度まで肩代わりする日は、そう遠くないかもしれません。

筆者のようなライター稼業も同じことですが、AIによって職を奪われないコツは、AIをアシスタントとして使いこなし、自分の専門知識との相乗効果を引き出すことであると思います。幸い、ChatGPTは簡単なアカウント登録程度さえすれば誰にでも使える、極めてハードルの低いAIです。いろいろ試して遊んでみて、自分なりの使い方を探してみるのが一番であると思います。


佐藤 健太郎(さとう けんたろう)

1970年生まれ。1995年に東京工業大学大学院(修士)を卒業後、国内製薬企業にて創薬研究に従事。2008年よりサイエンスライターに転身。2009年より12年まで、東京大学理学系研究科化学専攻にて、広報担当特任助教を務める。『世界史を変えた薬』『医薬品クライシス』『炭素文明論』など著書多数。2010年科学ジャーナリスト賞、2011年化学コミュニケーション賞(個人)。ブログ:有機化学美術館・分館

 

ベストセラー『炭素文明論』に続く、文明に革命を起こした新素材の物語。新刊『世界史を変えた新素材』(新潮社)が発売中。

佐藤 健太郎
(さとう けんたろう)

1970年生まれ。1995年に東京工業大学大学院(修士)を卒業後、国内製薬企業にて創薬研究に従事。2008年よりサイエンスライターに転身。2009年より12年まで、東京大学理学系研究科化学専攻にて、広報担当特任助教を務める。『世界史を変えた薬』『医薬品クライシス』『炭素文明論』など著書多数。2010年科学ジャーナリスト賞、2011年化学コミュニケーション賞(個人)。ブログ:有機化学美術館・分館

 

ベストセラー『炭素文明論』に続く、文明に革命を起こした新素材の物語。新刊『世界史を変えた新素材』(新潮社)が発売中。

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