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西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第16回 陰陽学説~陰陽のバランスを崩すと病気に(4)実熱証

陰陽が増えたり減ったりした場合~熱い人について(1)~

陰陽のバランスの崩し方の基本は5パターンです。第14回では「実寒証」、第15回では「虚寒証(陽虚証)」についてお話ししましたね。

体温調節の観点から陰陽を考えると、「陰=冷やす」「陽=温める」となります。相対的に“陰が強くなり、寒が生じる”とは寒気・冷え性など身体が冷えることを意味し、“陽が強くなり、熱が生じる”とは、発熱・ほてりなど身体が熱くなることを意味します。

今回は身体が熱く感じる状態の人(熱証)のうち「陽が赤線を超えて余分に多い状態=実熱証(じつねつしょう)」、についてお話ししたいと思います。

「陽が赤線を超えるパターン」は「実熱証」

②のイラストを見てみましょう。陰は赤線まであり正常な状態ですが、陽は赤線を超えてしまっています。

邪気が旺盛で、正気が不足していない状態=実証
正気が不足して、邪気はない状態=虚証

なので、②は実証です。

また、陰と陽を比べたとき、陰(寒)が多ければ『寒証』、陽(熱)が多ければ『熱証』といいましたね。

以上のことをまとめて、②の状態の人を中医学では、
【実証】+【熱証】=【実熱証(じつねつしょう)】といいます。

熱い状態なので冷ませばよいのですが、同じ熱証でも陽が旺盛な②の「実熱」と、陰が不足した「虚熱(きょねつ)(第17回で学びます)」では、治療法がまったく異なります。
根本的に治すにはどう対処するのがよいのか、みていきましょう。

陰陽のバランスを回復するには

「陰陽のバランスが崩れると病気になる」ので、その治療法は「陰陽のバランスを回復すること」。

中医学の治療原則のひとつに、
「不足(虚)を補い、過剰(実)を瀉す(しゃす)」
があります。

「実則瀉之」
実(じつ)すれば、則(すなわ)ちこれを瀉(しゃ)す
→多ければ、取り除く

「虚則補之」
虚(きょ)すれば、則ちこれを補う
→少なければ、補う

ある意味、とってもシンプルな話ですよね。とても大切な考え方ですので、必ず頭に入れておいてください。

  • 瀉す(しゃす) / 瀉(しゃ)=捨て去ること、取り除くこと。
  • 実(じつ):病邪がある状態、邪実(じゃじつ)、過剰のこと。
    実証のこと。
  • 虚(きょ):正気が不足した状態、正虚(せいきょ)、不足のこと。
    虚証のこと。
  • 補(ほ):補うこと。足すこと。

この治療原則を今回説明している「②実熱証」にあてはめると、「余分な陽(熱)を捨て去る」ことが治療法になります。

実熱証の例

実熱証は、例えば喉の痛みから始まるカゼやインフルエンザなどの感染症、患部が真っ赤な皮膚病など炎症性疾患、急性疾患などでよくみられます。

「エネルギーが過剰な人」「お酒や唐辛子などの刺激物、高カロリーなものを多く摂る人」「急性炎症の初期の人」「ストレスが過剰な人」などは、体内に熱がこもりやすくなります。
そのため、身体全体の熱っぽさ、皮膚の炎症や化膿(湿疹・ニキビ・アトピーなど)、神経の高ぶりなど、熱性(実熱)の症状が現れやすい傾向にあります。

そのほか、実熱証の人がよく訴える症状としては、口渇(口中や喉の渇き)・冷たいものをよく飲みたがる・顔面紅潮(顔全体が赤い)・唇や粘膜が赤い・目が充血・イライラして怒りっぽい・舌質(舌そのもの)が濃い赤・舌苔が黄色い・脈が速くて力がある・暑がり・高熱・鼻水、痰、尿、膿、浸出液などの分泌物・排泄物が黄色い、などです。

症状をよくみると、実熱証では、身体の部位や組織の色が「赤みが強く」なり、分泌物・排泄物が「黄色い」のが大きな特徴です。また、こもった熱により、津液(身体の潤い)が損傷されるため、のどが強く渇き、尿も黄色くかつ量が少なくなります。

反対に、寒証では、顔色は青白く、分泌物・排泄物は透明でサラサラと水っぽく、量が多いのが特徴です。

寒証と熱証の特徴は、「火と水のイメージ」そのままですね。覚えておくと自分や身近な人の健康管理のためにもとても便利です。私は毎朝、尿の色や舌の状態をチェックして、その日の食事や漢方薬を選んでいます。

実熱証の治し方

強いもの(過剰=実)があるときは、「余分な陽(熱)を捨て去り、取り除くこと」をします。したがって実熱証においては「かなり強めに冷やして余分な熱を取り除く」「尿や便や汗などから不要な熱を追い出す」方法を用います。生薬や漢方処方も、瀉性(しゃせい:捨て去る性質)の強いもの、解毒作用のあるものを選びます。

身近な例をあげて考えてみましょう。
例えばカゼには大まかに、「寒気から始まるカゼ」と「喉の痛みから始まるカゼ」がありますよね。この二つは原因が異なるため、対処法も異なります。

喉の痛みから始まるカゼは、「風熱邪(ふうねつじゃ)」が原因と考えられる実熱証です。冷やす作用のある「銀翹散(ぎんぎょうさん)」「板藍根(ばんらんこん)」などの漢方薬で治します。これらの薬には熱を冷まして解毒し、邪気(風熱邪)を発散して体外へ追い出す作用があります。

逆に寒気から始まるカゼは、「風寒邪(ふうかんじゃ)」が原因の実寒証。葛根湯や麻黄湯などの温める作用のある薬を処方します。(第14回参照)

この見分けが重要で、逆にするとかえって悪化してしまいます。

さて、次回は同じ“熱い人(熱証)”でも「虚熱証(きょねつしょう)」について、お話しします。特に近年、温暖化の影響や過労・睡眠不足により、若い人にこの体質の方が増えてきているように感じます。
お楽しみに!

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、イスクラ中医薬研修塾、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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