“漢方”に強くなる! まるわかり中医学 “漢方”に強くなる! まるわかり中医学

西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第19回 陰陽学説~陰陽のバランスを崩すと病気に(7)身体への表れ方

陰陽バランスが崩れるとどうなる?

6回連続でご紹介してきた「陰陽学説〜陰陽のバランスを崩すと病気に」、今回はそれぞれのタイプで現れやすい特徴や症状、代表的な処方を紹介していきます。より具体的にイメージできるように図を見ながら進めていきましょう。

健康な状態=陰陽のバランスがとれた状態

①が中医学でいう“健康な状態”です。陰と陽の正気(身体にとって必要なもの)が、赤点線のあたりでバランスをとっていますね。この状態であれば正気(抵抗力・免疫力)も充実しており、多少体調を崩してもすぐに回復できます。
第13回 陰陽学説~陰陽のバランスを崩すと病気に(1)

【実証】+【熱証】=【実熱証】

②は実熱証のパターンです。
このタイプの特徴は、口が渇く・顔面紅潮・発熱あるいは暑がり・舌苔が黄色い・舌質(※1)が赤いなど。

熱(陽)が多いので、治則(治療原則)は陽を取り除く“瀉陽(しゃよう)”となります。
例えば、喉の痛み優位の風熱型感冒には、銀翹散(ぎんぎょうさん)・板藍根(ばんらんこん)などの寒涼性の瀉剤を用います。これらの漢方薬は体内の余分な熱を取り除く“清熱解毒作用”を持つ生薬を含みます。
第16回 実熱証

【実証】+【寒証】=【実寒証】

③は実寒証のパターンです。
このタイプの特徴は、寒がる、寒気、口内が淡色で渇かない、舌質が青紫色、舌苔が白色、顔色が青白い、痰・鼻水・涎が水っぽく冷たい、小便量が多い、温かい飲み物を好むなどです。

治則は陰を取り除く“瀉陰(しゃいん)”です。例えば、ゾクゾク寒気が優位の風寒型感冒には、葛根湯・麻黄湯など、温熱性の瀉剤を用いて発汗を促し、風寒邪を体外へ追い出します。
第14回 実寒証

【虚証】+【熱証】=【虚熱証(陰虚証)】

④は虚熱証、あるいは陰虚証陰虚内熱証といいます。
このタイプの特徴は、やせる、五心煩熱(※2)、微熱、潮熱、口や喉の乾燥、不眠、耳鳴り、尿の色が濃く小尿、大便乾燥、舌質が紅い、舌苔が少ない、などです。

治則は陰を補う“補陰(ほいん)”で、平性~寒涼性の「滋陰(じいん=陰を補う)作用」を持つ補剤を中心に用います。例えば、左帰丸(さきがん)・杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)・二至丸(にしがん)・六味地黄丸(ろくみじおうがん)などが挙げられます。
第17回 虚熱証

【虚証】+【寒証】=【虚寒証(陽虚証)】

⑤は虚寒証、あるいは陽虚証といいます。
このタイプの特徴は、冷え性で寒がり(芯から冷え込むタイプ)、身体がだるくて疲れやすい、嗜眠(眠気・眠たがり)、食欲不振、便溏(べんとう)(※3)、インポテンツ、顔色が青白い、舌淡嫰(たんどん)など。
夏でも靴下をはきたい、長袖を着たい、生野菜や生の果物をあまり好まないことが多いように感じます。どちらかというと若い方より高齢の方に多いパターンです。

治則は陽を補う“補陽(ほよう)”で、補陽薬を中心に用い、身体をあたためます。代表処方は、八味地黄丸(はちみじおうがん)、右帰丸(うきがん)などです。
虚寒証(陽虚証)では、身体の内も外も冷やさないことが大切です。口に入れるものは40℃前後のもの(内臓と同じくらいの温度)にするとよいでしょう。
第15回 虚寒証(陽虚証)

【陰虚証】+【陽虚証】=【陰陽両虚証】

⑥は陰陽両虚証の状態です。
陰か陽のいずれかが虚(きょ:不足)していたものが、病気が進行して、陰の損傷が陽に及ぶ、あるいは、陽の損傷が陰に及び、陰陽の両方が虚してしまった状態です(陰陽互損)。
このタイプの特徴は、全身が衰弱傾向にあり状況がひどくなったケース、症状や疾患が長期にわたったケースが多く、ご高齢者や慢性病の方に多くみられます。陰虚と陽虚の症状が混ざり合うため、現れる症状はさまざまです。

治則は、不足した陰と陽の両方を、バランスよく補います(平補・補陰陽)。
また、陰陽どちらが先に弱ったのかをよく分析し、根本的な問題の解決を目指すことが大切なポイントです。代表処方は、陰陽双補する亀鹿二仙膠(きろくにせんきょう)です。
第18回 陰陽両虚証

また、イラストにはありませんが、陽が完全に無くなった状態を『亡陽(ぼうよう)』、陰が完全に無くなった状態を『亡陰(ぼういん)』といい、どちらも身体がひどく衰弱し、命が危険な状態です。

さて、人体の陰陽バランスの基本パターンは、これでひと通り学び終えました。臨床では、陰陽どちらかだけが増減するという単純なものはほとんどありません。
中医学の4つの診察法である「望診・聞診・問診・切診」を用い、分析して陰陽を分け、「証(病の本質・体質のこと)」をさだめることで、治法、処方を導いていきます。

次回もお楽しみに!

※1
舌質:舌全体のこと。望診では形や色、動きや湿潤の具合などを観察する。舌苔とは異なる。
※2
五心煩熱:手のひらや足の裏に熱感があり心煩(しんぱん・しんはん、イライラすること)を伴うこと。
※3
便溏:便がゆるいこと。

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、管理薬剤師。

薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。 東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、イスクラ中医薬研修塾、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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