薬剤師国家試験過去問 更新日:2019.04.19公開日:2018.09.13 薬剤師国家試験過去問

薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!

第28回 2018年10月から適用分も解説。
薬局の地域支援体制加算とその算定条件。

4月より平成30年度の診療報酬制度が施行されています。今回の改定の中で保険薬局業務の中で目玉となるのが、地域医療に貢献する薬局の評価として地域支援体制加算が新設されたこと。この加算のための施設基準は11項目あります。それぞれ加算取得のための業務の見直しなどが必要となる項目もあるかとは思いますが、今回はその中でも、10月以降に適用される「医療安全に資する取組実績の報告」に関して、第102回薬剤師国家試験問324-325から確認しましょう。

【過去問題】

第102回 問324-325から出題

問 324-325

70歳男性。高血圧症で処方1を服用していた。ある日胸部不快感を自覚し、かかりつけのクリニックを受診した。心房細動の疑いがあることから、精査目的で市内の総合病院を紹介され受診したところ、心房細動、心不全と診断され、処方2が追加となった。

(処方1)
エナラプリルマレイン酸塩錠 5mg 1回1錠(1日1錠)
1日1回 朝食後
(処方2)
カルベジロール錠 2.5mg 1回1錠(1日2錠)
ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセル 126.83mg
1回1カプセル(1日2カプセル)
1日2回 朝夕食後
(本剤はダビガトランエテキシラートとして 110mg を含有している。)

問 324(実務)

処方2に含まれるダビガトランエテキシラートによる重篤な副作用である出血の回避や投与量の調節のために考慮すべき検査項目はどれか。1つ選べ。

  • 1血清クレアチニン値
  • 2AST 値
  • 3白血球数
  • 4PT-INR 値
  • 5脳性 Na利尿ペプチド値

問 325(法規・制度・倫理)

重篤な副作用を回避するための確認は行われていたものの、後日、この男性に重大な副作用が発現した。薬剤師は主治医と相談のうえ、この男性の副作用について、医薬品・医療機器等安全性情報報告制度に基づき報告することを決めた。下図は、記入途中の医薬品安全性情報報告書の一部である。この制度の説明として、正しいのはどれか。2つ選べ。

  • 1この男性の場合、厚生労働大臣への報告期限は、発生を知った日から30日以内である。
  • 2添付文書などから予測できない未知の症例についても報告する。
  • 3患者情報のうち、アに記載された内容は、公開されることはない。
  • 4イの項目はすべて記入しなければならない。
  • 5クリニックで処方された(処方1)の薬剤も、ウに記載する。

<解答>
問324:1
問325:2,5

解説

問 324

ダビガトランエテキシラートは、腎排泄型の直接トロンビン阻害剤であり、腎障害を有する患者さんの場合は血中濃度が増大し重篤な副作用である出血が出現する可能性があります。そのため添付文書等では、これらの重篤な副作用を回避するために腎機能の指標であるクレアチニンクリアランスに基づいた禁忌や用法・用量が設定されています。副作用の回避や投与量の調節のために考慮すべき検査項目は、クレアチニンクリアランス算出に用いられる血清クレアチニン値です。なお、検査値に異常がある場合または出血が見られたときには、投与量の調節または中止などの適切な処置が必要となります。

問 325

医薬品・医療機器等安全性情報報告制度とは、保健衛生上の危害の発生または拡大を防止する必要があると認めたときにその旨を厚生労働大臣(情報の整理をPMDAに行わせることとした場合はPMDA)に報告する制度。薬局、病院等の開設者のほか医師・歯科医師・薬剤師などの医薬関係者が、医薬品、医療機器または再生医療等製品について、当該品目の副作用その他の事由によるものと疑われる疾病、障害若しくは死亡の発生又は当該品目の使用によるものと疑われる感染症の発生に関する事項を知った場合において発生します。

  • 1 
    医薬品・医療機器等安全性情報報告制度では、報告の必要性を認めた場合において速やかに報告することが求められていますが、特に明確な報告期限は定められていません。厚生労働大臣への報告期限が発生を知った日から15日または30日と定められているのは、企業報告制度と感染症報告制度です。
  • 2 
    医薬品、医療機器又は再生医療等製品との因果関係が必ずしも明確でない場合も含まれています。したがって添付文書などから予測できない未知の症例についても、保健衛生上の危害の発生または拡大を防止する観点から報告する必要があると判断した症例であれば、報告する必要があります。
  • 3 
    報告された情報については、独立行政法人医薬品医療機器総合機構が、情報の整理又は調査結果を厚生労働大臣に通知するとともに、原則として機構から当該製造販売業者などを情報提供しています。ただしその際には、施設名および患者さんのプライバシーなどに関する部分は公開されません。
  • 4 
    医薬品安全性情報報告書は、すべて記入しなければならないという規定はありません。ただし、副作用の発生状況を把握するためにも可能な限り記入することが望まれます。
  • 5 
    ウの記入欄は、併用薬に関してのものであり、相互作用による重大な副作用の発生にクリニックで処方されていた処方1が関与している可能性を考慮し、今回クリニックで処方されている薬剤(処方1:エナラプリルマレイン酸塩錠5mg)も記載する必要があります。

– 実務での活かし方 –

今回の診療報酬改定における地域支援体制加算は、地域包括ケアシステムの中で地域医療に貢献する保険薬局について評価する点数(35点)として新設された項目です。調剤基本料1を取得する保険薬局以外は、「地域医療に貢献する体制を有することを示す相当の実績」として、夜間・休日等の対応実績や重複投薬・相互作用等防止加算等の実績、在宅薬剤管理、麻薬指導管理加算、外来服薬支援料の実勢、かかりつけ薬剤師指導料など全8要件を満たすことが求められています。この施設基準のうち、薬局として当たり前のことではありましたが、今改定から明確に表記された要件として「医療安全に資する取組実績の報告」と明記されました。この報告内容は2019年4月以降適用のプレアボイド事例の把握・収集に関する取り組み(※)の有無で有としていること、2018年10月以降適用の副作用報告に係る手順書を作成し、報告を実施する体制を有していること、の2点となります。
このプレアボイド(Prevent and avoid the adverse drug reaction:薬による有害事象を防止・回避)とは、薬剤師が薬物療法に直接関与した結果、薬学的患者ケアを実践して患者さんの不利益(副作用、相互作用、治療効果不十分など)を回避あるいは軽減した事例のことでありその報告様式を表1にて確認します。
※前年1年間(1月1日~12月31日)に疑義照会で処方変更が行われた結果、患者の健康被害や医師の意図した薬効が得られないことを防いだ事例を提供した実績

表1
様式 事例内容
副作用回避報告 既に副作用が発現している可能性があり、それを薬剤師が発見し悪化するのを防いだ事例
未然回避報告 副作用は行っていないが、今行われている薬物療法、相互作用や過料投与や禁忌疾患などが副作用を起こす可能性がある場合介入する事例
薬物治療効果の向上 副作用や未然に回避する状態でもないが、薬剤師が処方提案することで治療効果が向上した事例

表1にあるように、一言でプレアボイドといっても、その報告内容の分類は大まかに3種類あります。自分が報告しようとしている内容がどの分野に近いのか、確認してから報告様式を考慮すると作成しやすくなりますよ。
次に2018年10月以降適用の副作用報告に係る手順書の作成ですが、既に各薬局において作成されている「薬局の運営及び管理に関する指針」並びに「薬局の運営及び管理に関する手順書」に副作用等報告制度に係る必要な項目を加筆するなどをして対応します。手順書の簡易な項目・要旨は表2で確認しましょう。こちらでも、日ごろ患者さんから副作用ではないかと相談を受けた際に行っている手順を文章として起こしているだけで、特別な手順が必要な訳ではありません。

表2
項目 特記事項
報告体制の構築 責任者と担当者の明確
患者への対応等 受診勧奨
聞き取り調査
処方元医療機関と連携した副作用等報告 処方元医療機関への情報提供
医療機関との連携協力
副作用等報告に関する情報の管理
教育・研修の実施

ただ、これらの報告を作成するにあたり、理解しておかなければならない事項を表3に記載しました。確認が必要なのは、副作用を誰が診断するのか、です。薬剤師として釈然としない箇所ではありますが、定義として理解しておきましょう。

表3
事例 特記事項
副作用の診断 医師が行う
医療機関と連携し、医師との連名で報告
副作用等報告 薬局・薬剤師が行う報告
患者に発生した事象そのものを報告するもの

事例

これらは全て、他職種との連携を行っていくなかで、薬剤師が存在とその役割を明確にすることの記録になります。文章だけを見ていくと非常に難解な事例を行っているように思えますが、日頃の業務の中で患者さんとの間で行って、患者さんの健康に貢献した事例を薬歴だけではなく、他職種にも理解してもらえるように表現するためのツールでしかありません。是非積極的に自分達の成果を表現し、記録することで他職種と共有することで評価してもらいましょう。

橋村 孝博(はしむら たかひろ)

クリニカル・トキシコロジスト、スポーツファーマシスト、麻薬教育認定薬剤師資格を有する薬剤師。
明治薬科大学卒業後、大学病院、中堅総合病院、保険薬局に勤務。
愛知県薬剤師会 理事。緩和医療薬学会評議員。金城学院大学薬学部研究員。ICLSアシスタントインストラクター。

ファーマブレーングループ オフィス・マントル:http://mantle-1995.com

橋村 孝博(はしむら たかひろ)

クリニカル・トキシコロジスト、スポーツファーマシスト、麻薬教育認定薬剤師資格を有する薬剤師。
明治薬科大学卒業後、大学病院、中堅総合病院、保険薬局に勤務。
愛知県薬剤師会 理事。緩和医療薬学会評議員。金城学院大学薬学部研究員。ICLSアシスタントインストラクター

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