”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2024.01.16公開日:2019.11.11 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第50回 楊貴妃も愛用していたスーパーフード・枸杞(クコ)

陰陽学説では、冬は自然界の陽気が弱まり、陰気が最も盛んになる季節。草木は枯れて、クマなどの動物は冬眠します。中医学では、人間は自然界の一部であると考えますから、人間もほかの動植物と同じように静かにゆったりと過ごすことが大切です。今回は冬に養生が必要な腎グループに良いとされている生薬・食材の中から「クコ」についてお話しします。

目次

冬に養生が必要な「腎」

冬は、「五行(ごぎょう/木火土金水)」のうち「水」に属します。五臓ではホルモン系・免疫系などをつかさどる「腎」の働きが弱くなりやすい季節のため、腎を補う養生が大切です。

中医学の「腎(じん)」とは腎臓のみを指しているわけではありません。「泌尿器系・生殖器系・ホルモン系・免疫系・水分代謝・骨代謝・足腰・耳・髪」などの機能や状態を支え、「生長・発育・老化・生殖」などをつかさどる腎グループのことを指し、まさに「命の根本」と関係します。

クコは腎グループに良いとされる生薬・食材のひとつ。「クコの実」と聞くと、杏仁豆腐の上にトッピングされている赤い実を想像する方が多いのではないでしょうか。海外では、「ゴジベリー」とも呼ばれ、人気のスーパーフードです。

小さな実ですが、栄養価が高く、美容やアンチエイジングに良いとされることからモデルを中心に世界的に支持されています。今から約1300年前、世界三大美女のひとりとして知られる楊貴妃はクコの実を毎日食べていたといわれています。

クコの実の性味・効能

中医学では、クコの実は「補陰薬(ほいんやく)」といって、潤いを補う生薬に分類されます。肝・腎・肺グループの陰(いん/潤い)を補うことから、たとえば眼の諸症状、慢性的な空咳、婦人科系の不調、消渇(糖尿病によるノドの乾きを止める)など、色々なことに臨床では用います。

中医学の書籍『中医臨床のための中薬学』(医歯薬出版株式会社)、『中薬学』(上海科学技術出版社)を紐解くと、これらの効能は次のように表現されています。

枸杞子(くこし)

【基原】
ナス科SolanaceaeのクコLycium Chinese MILL.やナガバクコL. barbarum L.の成熟果実。
【性味】
平性・甘味
【帰経】
肝・腎・肺経
【効能と応用】
(1)滋補肝腎・明目(じほかんじん・めいもく)
肝腎陰虚の頭のふらつき・めまい・視力減退、風にあたると涙が出る、足や腰がだるく無力、遺精、消渇(糖尿病)などの症候に、熟地黄・山薬・山茱萸・菊花などと用いる。
方剤例)枸杞丸・杞菊地黄丸
(2)潤肺(じゅんはい)
肺腎陰虚の慢性咳嗽に、麦門冬・五味子・貝母・知母などと使用する。
【使用上の注意】
脾虚便溏には用いない。

【使用上の注意】に「脾虚便溏には用いない」とありますように、おなかが弱い人や下痢気味の人は「クコの実」を控えたほうが良いでしょう。胃腸虚弱の人にとっては、すこしもたれやすいので、もし試したいのなら、少量ずつ、おなかに負担のかからない範囲で摂取しましょう。

「実」だけじゃなくて、「根」も「葉」もつかう

「クコ」といえば、「実」が有名ですが、実は、同じ植物の「根」も「葉」もそれぞれ生薬として用いられます。実・根皮・葉はそれぞれ、「枸杞子(くこし)」、「地骨皮(じこっぴ)」、「枸杞葉(くこよう)」という生薬名です。

地骨皮は熱を冷ます「清退虚熱薬(せいたいきょねつやく)」であり、枸杞葉は民間薬として血流改善や滋養強壮などのために昔から用いられてきました。

生薬は実・根皮・葉・根っこなどの部位によって、もっているエネルギーがそれぞれ異なるので、効く場所(帰経)や効能が異なります。このように、同じ植物であっても部位によって異なる効能を持つ生薬は他にもいくつもあります。

クコの実のおいしい食べ方

クコの実はたいてい、ドライフルーツとして漢方薬局・中華食料品店・スーパーなどで販売されています。一番手間がかからない気楽な食べ方は「そのまま食べる」方法です。砂糖などの甘味料は一切使われていませんが、そのまま食べてもほんのり甘みがあります。

また、お茶として飲むのもおすすめです(食養生は適度に続けることが大切です)。例えば、【菊の花+クコの実】のお茶、【ほうじ茶+炒った黒豆+クコの実】のお茶、【プーアル茶+クコの実】のお茶などなど。コップの底に残ったクコの実や黒豆はお茶を飲み終わる頃にはちょうど良くふやけていて、食べられます。

そのほか、サラダ・スープ・お鍋・炒め物の彩りとしてトッピングしてもよいでしょう。前回紹介した白きくらげと一緒に煮たり、ほかの食材と一緒にピクルスやマリネにするのもおすすめです。杏仁豆腐の上に添えられるクコの実のように、少量の砂糖水に浸してふやかしてデザート類の飾りつけにすることもできます。

私は、クコの実・ナツメ・リュウガンニク・干しブドウなどのドライフルーツと松の実・クルミ・アーモンドなどのナッツ類を同じ容器に入れてシェイクし、容器の中を見ないように手を突っ込んで、手に触れたものをおやつ代わりに食べています(見るとそのとき食べたいものだけ食べて、偏ってしまうので)。

11月、12月は忘年会などで忙しくなりがちですが、冬眠しているクマや土中の虫など、寒さに耐えてじっと春を待っている動植物をときおり思い出し、補腎食材をとりいれつつ、ゆったり静かに過ごして腎を養いましょう。

参考文献:
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2007年

「薬読」編集部より

世界中からの注目度が高い「クコ」は、ナッツと一緒にそのまま食べても良し、サラダやおかずのトッピングにするも良し。食べ方の選択肢が多く、手に入りやすいことから試しやすい食材と言えるでしょう。生薬や漢方薬に興味のある薬剤師の方は「漢方薬・生薬認定薬剤師」の資格を取得してスキルアップを目指しませんか?

 
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中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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