”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 公開日:2019.03.14更新日:2023.12.22 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第42回 漢方と風邪-ノド風邪に葛根湯はあり?なし?

落語に『葛根湯医者』という演目があるのをご存知ですか?来る人来る人に葛根湯を処方し、患者の付き添い人にまで葛根湯を出す、ヤブ医者のたとえ話です。

葛根湯があまりに有名なので、「風邪の漢方=葛根湯」と思われがちですが、決してそうではありません。風邪の漢方にはさまざまな種類があり、最も重要なのは、その中から適したものを選ぶことです

目次

風邪にはたくさんのタイプ(証)がある

風邪(カゼ)という言葉はそもそも中医学の用語で、中医学の専門家は風邪(ふうじゃ)と読みます。一般的によく言うカゼのことは、中医学も西洋医学と同じように、「感冒(かんぼう)」と呼びます。

感冒は、風寒証、風熱証、暑湿証、寒湿証、虚証の感冒など、いくつかのタイプに分かれます。

まずはどのタイプ(証)なのかを症状から見極め、さらに、タイプ(証)に用いられるいくつもの処方から、細かい症状や体質にピッタリな処方を選択する、というのがおおまかな処方を選びの流れとなります。

たとえば、ゾクゾク寒気から始まるカゼで、ノドなどの他の症状がない場合は、風寒タイプの感冒と考えます。

風寒タイプの感冒に用いられる処方は、みなさんご存知の葛根湯をはじめ、麻黄湯、桂枝湯、桂麻各半湯、桂枝加葛根湯、麻黄附子細辛湯、香蘇散など、多くの処方があり、葛根湯はそれらの中からさらに使い分けられ選択される、というのが本来の処方の選び方です。

「風邪」は6つの邪気のうちの1つ

風邪(ふうじゃ)は自然界にある6つの邪気(風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪)のうちのひとつ。風邪は、色んな邪気と組み合わさって人体に襲いかかる性質があります。「かぜは万病のもと」といわれるゆえんでもあります。

例えば、

”風邪”と“寒邪(冷えの邪気)”が組み合わされば「風寒邪(ふうかんじゃ)」、

“風邪”と“熱邪(熱の邪気)”が組み合わされば「風熱邪(ふうねつじゃ)」となります。

感冒では、風寒タイプなのか風熱タイプなのかを見分けるのが非常に大切です。

というのも、風寒感冒は冷えているので温める必要があります。かたや、風熱感冒は熱の邪気によるため冷やすことが必要と、治療法が真逆だからです。これを間違うとかえって悪化させてしまい、治りづらくなります。

臨床で非常に多いのが、ノドのイガイガや痛みから始まった風熱感冒の初期に、温める葛根湯を選択し、悪化するケースです。冷やさなければいけないのに、熱の塊とも言える葛根湯を投入してしまうと、熱はますますこもり、何もしなかった場合よりも長引く結果となってしまいます。

漢方の風邪薬はタイプで飲み分けが重要

漢方の風邪薬の飲み分け方

漢方の風邪薬は飲むタイミングがとても大切。カゼのひきはじめ(表証/ひょうしょう)に、1分1秒無駄にせず、間髪入れずに一服するのが大前提です。「カゼかな? 気のせいかな?」と思ったら、様子を見ずにとりあえず飲みましょう。

【1】ゾクゾクと寒気が強い…風寒タイプの感冒

ゾクッとくる寒気は、冷えの邪気が原因の「風寒タイプ」なので、温めて邪気を発散する薬を用います。臨床で繁用されるのは、葛根湯、麻黄湯、桂枝湯などです。ごく簡略化した飲み分けは、以下の通り。

◎ゾクゾク寒気+首筋のコリ+汗なし葛根湯

◎ゾクゾク寒気が強め+節々の痛みやだるさ+汗なし麻黄湯

◎ゾクゾク寒気+寒気とともに自然と汗がでる+虚弱体質桂枝湯

麻黄湯はンフルエンザに有効であることが知られていますが、すべてのインフルエンザに麻黄湯というわけではありませんので注意が必要です。なお、風寒タイプは【悪寒>発熱】となることが多いです。

【2】ノドのイガイガ感や痛みがある…風熱タイプの感冒

ノドのイガイガや痛みからくるのは、「風熱タイプ」の表証(カゼの初期のこと)なので、

◎熱を冷まして解毒する働きのある「銀翹散」と、「板藍根(ばんらんこん)」(第39回参照)を併用します。

なお、風熱タイプは【悪寒<発熱】となることが多いです。

「寒気から」「ノドから」は体質による

「カゼをひくのはいつも寒気から」または「いつもノドから」という患者さんがいますよね。一般に、「寒気から」の人は、もともと陽虚タイプ、「ノドから」の人は、もともと陰虚タイプの体質傾向にあります。

陽虚タイプ(第15回参照)の人は、身体を温める気(エネルギー)が質的量的に低下しているため、冷えの邪気の影響を受けやすくなります。

普段から身体の内側からも外側からも冷やさないように気をつけましょう。飲食する際は、口にいれて温かいと感じるものだけを摂取するようにするだけで、だいぶ違います。

陰虚タイプ(第17回参照)の人は、身体を潤す陰液(潤い)が少ないため粘膜を守る力が弱く、すぐにノドがやられてしまいます。

陰虚は夜更かしにより最も進みますので、まず夜更かしをやめましょう。また、激辛グルメ、ホットヨガ・サウナ・岩盤浴などの過度な発汗も陰虚を進めますので、陰虚タイプには向きません。

簡単なカゼの初期対策は、自分で飲み分けて治せるようになるといいですよね。不用意に薬を飲み過ぎずにすみ、自分や家族の身体を守れます。また、カゼやインフルエンザは何よりも予防が肝腎。日々の養生の積み重ねを大事にしたいと思う今日この頃です。

「薬読」編集部より
風邪の漢方といえばあまりも「葛根湯」が有名ですが、タイプにより飲み分けが重要でした。患者さんへのアドバイスにも風邪と漢方についての知識は役立ちそうですね。中医学を学び、漢方の知識を深めることで将来の働き方や転職にもきっと役立つはず。

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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