
知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。
第128回 粳米(コウベイ)の効能 お米も漢方薬の材料に? 胃腸の働きを助け、補う穀物
今まで穀物シリーズの中薬(生薬)として、アワに小麦、ハトムギと、さまざまな穀物が用いられることを紹介してきました。今回は、日本人の主食であるお米(うるち米)のお話です。中薬名は、うるち米を漢字で書いて「粳米(コウベイ)」と呼びます。
1. 粳米(コウベイ)とは?
粳米は、麦門冬湯(ばくもんどうとう)や白虎湯(びゃっことう)・白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)などの有名な漢方処方に配合される中薬です。しかし、粳米は中薬学の書籍にはあまり記載がないことが多いようです。したがって、今回は中医“営養”学の教科書を根拠に、中医学的な効能や基原植物などについてお話しします。
『中医飲食営養学』(上海科学技術出版社)には、粳米の基原植物は
「イネ科Gramineaeの植物 Oryza sativa L. の種子。(筆者訳)」
とあります。
漢方処方のなかの構成生薬として用いる時は、多くの場合「もみ殻を取り去った玄米」を煎じて用います。
現代の日本で漢方薬といえばエキス顆粒剤が多いのですが、これはいわゆるインスタントコーヒーのようなもので、お湯で溶かせば煎じ薬に戻ります。
インスタントコーヒーにドリップコーヒーほどの風味はなくても、それなりに満足できるのと同じように、エキス顆粒剤は煎じ薬と比べると香りも味も効果も落ちますが、一定の効果はあるものといったイメージです。どの程度効果が落ちるかは処方によって違うため、一概にはいえません。
粳米の四気五味(四性五味)とは
中薬・食物(薬食)には、四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平(へい)」と言います。粳米は「平性」です。
■生薬や食べ物の「四気(四性)」

粟の四気五味(四性五味)は「平性、甘味(かんみ)」なので、次のような作用があることがわかります。
・甘味=動きを止める→補う作用(→よどみを生む、よどませる)
また、粳米は「脾(ひ)・胃のグループ」に作用し、これを中医学では「脾経・胃経に作用する(帰経する)」と表現します。
2. 粳米はどんな時に用いられるのか(使用例)
粳米は、補中益気(ほちゅうえっき)・健脾和胃(けんぴ・わい)・除煩渇(じょ・はんかつ)の作用を持ちます。
【粳米の作用】
・健脾和胃:脾を健やかにして胃を平和(=落ち着かせる)にする
・除煩渇:煩渇(はんかつ:のどの渇いて落ち着かない)を除く
「補中益気湯」という処方名にもなっている「補中益気」は、効能をあらわす用語です(補中益気湯に粳米は含まれません)。もともとは「補益」「中気」という二つの用語をシャッフルして生まれたものです。なぜわざわざシャッフルしたのか?については、筆者が聞くところによると、中国のインテリたちが大好きな文字遊び? その方がスマートな感じ? なのだそうです。
「補中益気」は、「中気を補益する」=中気(ちゅうき)を補う、という意味です。中気とは「真ん中辺りの気」、「中焦(胸下からへそまで)の気」、「おなかの気」といった意味です。
つまり、粳米は、
・おなかの気を補い、
・脾胃(ひい≒消化器系)の働きを健やかにして調整し、
・のどを潤して、のどが渇いて落ち着かない状態を改善する
といった効能を持ちます。
これらの効能を利用して、有名な「麦門冬湯」や「白虎加人参湯」の構成生薬として用いられます。
「麦門冬湯」は、肺や胃の気陰両虚(=気虚+陰虚)に用いる薬で、鼻やのどや気管支の粘膜が乾燥して空咳(からぜき)が出るような状態などによく用いられます。症状が感染症由来でも、感染症に関係なくとも、用いられます。胃粘膜を保護する粘液が少ないような状態にもよいでしょう。
「白虎加人参湯」は、白虎湯に朝鮮人参という補気薬を加えた漢方処方なので、この名が付いています。いわゆる熱中症・熱射病・日射病などと呼ばれる暑熱障害に用いる漢方処方はいろいろありますが、白虎加人参湯もそのひとつです。
話が少しそれますが、夏の定番フルーツであるスイカは、「天生の白虎湯」といわれることがあります。夏バテ対策・熱中症対策の養生において、天然の白虎湯的な働きをしてくれるものとして(白虎湯ほどではないが)、中医学・薬膳の世界で知らない人はいません。
ただし、キンキンに冷えたものを日常的に飲食すると、消化機能が低下し、血流や代謝が悪くなり、かえって熱中症になりやすくなるという悪循環を生みます。私がスイカを食べる時は、冷蔵保存しておいたものを電子レンジで数十秒チンして、ぬるくしてから食べるようにしています。
そうすることによって、スイカ自体の効能は得つつ、お腹を冷やすことによって生じる[消化機能が弱る・水分代謝が落ちる・血流が悪くなる・代謝が落ちる・免疫が落ちる]などの害を防げます。

3. 粳米の効能を、中医学の書籍をもとに解説
ここでは中薬学や中医飲食営養学の書籍で紹介されている粳米の効能を見ていきましょう。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージをつかむのに役立ちます。
【処方用名】
大米、粳米。
【基原】
イネ科植物 Oryza sativa L. の種子。
【性味】
甘、平。
【帰経】
脾・胃。
【効能】
補中益気・健脾和胃・除煩渇。
【応用】
1.乳児の嘔吐(脾胃虚弱によるもの)には、粳米を焦げるまで炒め、水で煎じて汁を抽出して服用する。
2.霍乱狂悶(かくらんきょうもん)、煩渇、激しい嘔吐と下痢には、淡竹瀝(たんちくれき)1合(約20ml)と粳米1合(約20g)を黄色くなるまで炒め、水で一緒にすりつぶし、滓(おり)を取り除いて汁を絞り出す。この二つの材料をよく混ぜて、すぐに服用する。
【使用上の注意】
粳米は栄養価が高く、その多くは雑穀の皮の中(糠<ぬか>)に含まれている。そのため、食べ過ぎたり、細かくすりつぶし過ぎたりすると、糠が失われ、無機塩類やビタミン類の摂取量が減少する可能性がある。また、粥(かゆ)は栄養価の高い食品だが、過剰摂取や偏った食生活は避けること。
【参考文献】
1. ≪名医別録≫ “ 主に、益気・止煩・止泄する。”
2. ≪食鍳本草≫ “ 補脾・益五臓・壮気力・止泄痢。”
※【異名】【基原】【性味】【帰経】【効能】【用法】【使用上の注意】【参考文献】は『中医飲食営養学』(上海科学技術出版社)を部分的に抜粋して筆者が和訳・加筆したもの
前回ご紹介した粟(あわ)が親しみをこめて「小米」と呼ばれるのに対して、お米(粳米)は「大米」とも呼ばれ、胃腸の働きを助け、気を補い、のどの渇きを癒します。

4. 薬食としての粳米はどこで買える?
粳米は日本では食品扱いです。お米なので、もちろん普通に購入できます。漢方薬局で扱っている生薬問屋さんの粳米もありますが、お米屋さん、スーパーマーケット、食料品店など、さまざまな場所で入手することが可能です。
5. 粳米のお粥の作り方&コツ
粳米を使ったお粥の作り方は、前回紹介した粟のお粥の作り方と似ています。時間や量は適宜調整してください。必ず水と生米から火にかけて煮るのがポイントです。
なお、炊いたご飯に水やお湯を足して煮ると、消化が悪くなるので避けましょう。水と生米から煮たお粥と見た目は似ていますが、米の分子構造が水となじんでいないため、中医学では消化不良を起こしやすいとされています。
【基本のお粥(五分粥)】
(1) 鍋に研いだ米と水を入れて20分ほど水に浸し、ふたをして沸騰するまで強火にかけます。
(2) 沸騰したら、ふきこぼれないようにふたをずらして中火に弱め、グツグツさせて5分くらい煮ます。
(3) お米が白から透明になりかけてきたらふたを外し、お米が躍るくらいのやや強めの中火でグツグツと約5~15分煮ます(吹きこぼれないように注意)。
(4) とろみが出てきたら、好みの硬さになるまで水分を飛ばして出来上がりです。
火の入れ方が弱いと、お粥が冷えた後に米と水が分離してしまいますが、しっかり火が入っていれば冷めてもとろりとしています。
初めて作る時は、米は少量・水は多めにするとよいでしょう。油は不要です。水の量が多めなら焦げつきにくいです。途中で水を加えると味が変わってしまうので、できるだけ途中で足すのは避けましょう。

6. 粳米を玄米として食べる時の注意点
生薬としての粳米は「もみ殻を取り去った玄米」を用います。煎じ薬にするなら煮汁を用いるので、胃腸に負荷はかかりませんが、まるごと食べる時には注意が必要です。
胃腸が丈夫(中医学の専門家の目から見ても胃腸が丈夫)な人なら、玄米のお粥や玄米ご飯を食べても消化しきれるでしょう。しかし、胃腸が弱い人(胃腸虚弱の自覚の有無にかかわらず、中医学の専門家から見て胃腸が弱い人)にとっては、玄米の豊富な繊維質が消化に大きな負担をかけるため、栄養を取るどころか、胃腸をますます弱らせてしまうこともあります。
普段は胃腸が丈夫で玄米食が合っている人も、風邪をひいて胃腸が弱っている時や食欲が落ちている時は、玄米のお粥・玄米ご飯は避けましょう。玄米は精米に比べて栄養価が高いのがよい点ですが、場合によっては強い繊維質が消化に負担をかける難点もあることを覚えておきましょう。
参考文献:
・小金井信宏(著)『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・丁光迪(著)、小金井 信宏(翻訳)『中薬の配合』東洋学術出版社 2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・翁 維健(編集)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2014年6月
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・許 済群(編集)、王 錦之(編集)『方剤学』上海科学技術出版社 2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・内山恵子(著)『中医診断学ノート』東洋学術出版社 2002年






