
知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。
第127回 粟(秫米)の効能 胃腸の働きを助ける&精神安定・滋養強壮に!
中薬には、お米に小麦、ハトムギと、さまざまな穀物が用いられます。日本ではあまり常食されていない粟(アワ)も、そのひとつです。筆者は粟のお粥が白米のお粥よりも好きで、よく作ります。今回は、「粟」の中医学的な効能についてお話しします。
1. 粟(秫米)とは?
粟は穀物のひとつで、「秫米(じゅつべい)」とも呼ばれます。「小鳥のエサのアワのことですか?」とよく質問されますが、まさにそれです。胃腸の不調時にも適し、粟で作ったお粥はお米のお粥もさらにおなかに優しいです。
『中医臨床の中薬学』(東洋学術出版社)には、粟・秫米の基原植物は
「イネ科Gramineaeのアワ Setaria italica BEAUV.の種子。」
とあります。
また『中医飲食営養学』(上海科学技術出版社)には、粟・秫米の基原植物は
「イネ科植物、アワ(Setaria italica L.Beau V.)の種子の核。(筆者訳)」
とあります。
粟は非常に古い歴史を持つ穀物(雑穀)で、乾燥に強く、痩せた土地でもよく育ちます。粟をはじめ、過酷な環境でも育つ植物には、強い生命力が備わっています。
ビタミン、ミネラル(鉄分・カリウム・マグネシウムなど)、タンパク質、食物繊維、脂質などの栄養が豊富で、昔ながらの伝統的なスーパーフードといえるでしょう。
西洋人参の四気五味(四性五味)とは
中薬・食物(薬食)には、四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平(へい)」と言います。粟は「涼性~微寒性」です。
■生薬や食べ物の「四気(四性)」

粟の四気五味(四性五味)は「涼性~微寒性、甘鹹味(かんかんみ)」なので、次のような作用があることがわかります。
・甘味=動きを止める→補う作用(→よどみを生む、よどませる)
・鹹味=鹹味:「軟堅(なんけん)・散結(さんけつ)」作用。堅いものをやわらかくして、かたまりを散らすイメージ。腎に入るイメージ
粟は、【甘寒生津】【鹹寒生津】といって、「甘味と寒性」「鹹味と寒性」が合わさることで津液(体の潤い)を生み出す作用を持ちます。熱を冷ましつつ、津液を補うニュアンスです。この組み合わせは薬膳でもよく登場しますから、覚えておくと便利です。
【潤い(津液、液体、陰)を生み出す組み合わせは三つ】
● 甘寒生津(かんかんしょうしん・せいしん)…寒性と甘味を組み合わせる
● 鹹寒生津(かんかんしょうしん・せいしん)…鹹味(しおからい)と寒性を組み合わせる
また、粟は「脾・胃・腎(肺・胃・大腸)のグループ」に作用し、これを中医学では「脾経・胃経・腎経(肺経・胃経・大腸経)に作用する(帰経する)」と表現します(文献により諸説あります)。
粟の分類:養心安神薬
粟は、「安神薬(あんしん・やく、あんじん・やく)」に分類されます。安神薬はさらに、重鎮(じゅうちん)安神薬と養心(ようしん)安神薬に分類され、粟は後者です。
安神薬は主に補助的に用います。例えば、メンタル症状に対して、原因が陰血不足なら補血薬や滋陰薬に配合し、心熱が原因なら心熱を取り除く薬に配合するなどして用います。
安神薬の二つの分類については、詳しくは「第118回 「琥珀」の効能 精神安定作用&血流改善など」をご参照ください。

2. 粟はどんな時に用いられるのか(使用例)
粟は、健脾和胃(けんぴ・わい)・益陰(えきいん)・安神(あんじん)の作用を持ちます。
● 益陰:潤い(陰)を補う(=補陰)
● 安神:精神安定作用(養心安神作用による)
例えば、以下のようなケースに用いられます。以下は中薬学と薬膳の両方の書籍を参考にまとめました。
(2) 胃熱のある消渇(しょうかつ)に:健脾和胃・益陰+涼性
(3) 脾胃虚弱・胃気不和による不眠に:健脾和胃・安神
(4) 陰虚の不眠に:益陰・安神
(5) 補腎として:粟の持つ鹹味による
(6) 病人食として:白米より粟がよりよい
具体的な例を見ていきましょう!
(1) 脾胃虚弱・消化不良・吐き気・嘔吐に:健脾和胃
粟には健脾和胃の作用があるため、体質的に消化器系が弱かったり、感染症や何かしらの原因で消化器系が弱っていたりするときの改善に役立ちます。
中国の唐代に編纂(さん)された、薬膳・食事療法の専門書≪食医心鏡≫には、粟半リットルをすりつぶして粉にし、水と混ぜてお団子状にしたものを火が通るまで煮て、少量の塩を加えて出来上がりです。空腹時に煮汁ごと服用するとよいと記載されています。
(2) 胃熱のある消渇に:健脾和胃・益陰+涼性
のどの渇きがあって、多食であるにもかかわらず痩せてしまう状態を、中医学では「消渇(しょうかつ・しょうかち)」と呼びます。消渇に相応する現代医学の用語はないのですが、糖尿病のような状態を指していうことが比較的に多いです。
胃熱があると食欲が過剰になり、のども渇きます。そこで、粟の涼性により余分な熱を冷まし、益陰作用によって渇きを潤し、健脾和胃作用によって、胃腸のコンディションを整えます。
≪食医心鏡≫には、粟を炊いてご飯にするとよいと記載されています。
(3) 脾胃虚弱・胃気不和による不眠に:健脾和胃・安神
消化器系の不調があると、不眠になりやすくなります。脾胃虚弱・消化不良・吐き気・胃もたれ・ゲップ・食欲不振などの胃気不和による不眠に対して、半夏とともに粟を用います。
(方剤例)半夏秫米湯(はんげじゅつべいとう)
(4) 陰虚の不眠に:益陰・安神
粟は益陰・安神の作用があり、かつ、涼性であることから、陰虚陽盛の不眠にも活用されます。
(5) 補腎として:粟の持つ「鹹味」による
粟の補腎作用は、鹹味によるものです。「丹田を補う」ともいわれています。
(6) 病人食として:白米より粟がよりよい
粟の効能は白米に似ていますが、白米よりもさらに消化器系にやさしく、栄養も豊富です。
≪随息居飲食譜≫という清代に書かれた中国を代表する食養生(薬膳)の書物では、白米より粟の方が病人食として適しているともいわれています。
3. 粟の効能を、中医学の書籍をもとに解説
ここでは中薬学や中医飲食営養学の書籍で紹介されている粟の効能を見ていきましょう。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージをつかむのに役立ちます。
粟(アワ)、秫米(ジュツベイ)
【分類】
安神薬のなかの養心安神薬
【処方用名】
秫米・北秫米・粟。
【基原】
・イネ科植物、アワ(Setaria italica L.Beau V.)の種子の核。『中医飲食営養学』(上海科学技術出版社)
・イネ科Gramineaeのアワ Setariaitalica BEAUV.の種子。『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)
【性味】
・甘・鹹、涼。『中医飲食営養学』(上海科学技術出版社)
・甘、微寒。『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)
【帰経】
・脾・胃・腎。『中医飲食営養学』(上海科学技術出版社)
・肺・胃・大腸。『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)
【効能】
健脾和胃(けんぴ・わい)・益陰(えきいん)・安神(あんじん)
【応用】
1. 脾胃虚弱・消化不良・吐き気・嘔吐に:粟半リットルを粉にすりつぶし、水と混ぜて丸くお団子状にして、火が通るまで煮る。少量の塩を加え、空腹時に煮汁ごと服用する。≪食医心鏡≫
2. 胃熱消渇に:粟を炊いてご飯にする。≪食医心鏡≫
3. 脾胃虚弱・胃気不和による不眠に、半夏とともに用いる。
(方剤例)半夏秫米湯
4. 陰虚の不眠にも使用する。
【参考文献】
1. 「粟は古くなると消化しにくくなる。その補腎作用は鹹味による。」≪本草綱目補遺≫
2. 「粟の効能は米に似ているが、性質はより涼性であるため、病人に適している。」≪随息居飲食譜≫
【臨床使用の要点】
秫米は甘で、益陰和胃・安神に働き、陰虚陽盛の夜不得眠および胃不和則臥不安に適する。
【用量・用法】
9〜15g(煎じ薬に入れる場合)。煎服。包煎する。
【使用上の注意】
・包煎する。『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)
・粟は杏仁と一緒に食べると、嘔吐や下痢を引き起こすことがあるため、避ける。『中医飲食営養学』(上海科学技術出版社)
※【分類】【処方用名】【基原】【応用】の3・4【臨床使用の要点】【用量・用法】【使用上の注意】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より部分的に引用/【分類】【基原】【性味】【帰経】【効能】【応用】の1・2【参考文献】【使用上の注意】は『中医飲食営養学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの
粟は胃腸によく、精神安定作用もあり、白米よりも病人食に適するといわれています。栄養豊富で滋養強壮によいとされ、味に癖がなく美味なのも魅力です。

4. 薬食としての粟はどこで買える?
粟は日本では食品扱いです。中国食材店や漢方薬局、あるいはいろいろな雑穀をそろえている食材店などで入手できます。
中国産の粟は、レモンクリームのような薄黄色をしていることが多く、袋にはよく「黄小米」と書かれています。種類も豊富で、粒の大きさもさまざまです。
日本産の粟もあり、私は九州産をよく見かけます。食感や風味はやや異なりますが、効能などは基本的には似たようなものと考えてよいでしょう。
粟には、もちっとして粘り気の強い「もち粟」と、プチプチした食感の「うるち粟」の2種類があります。お粥や粟ぜんざいには「もち粟」、サラダのトッピングやご飯と一緒に炊くなら「うるち粟」といったように、好みやお料理に合わせて選んでください。
5. 粟のお粥のつくり方
まず、粟はしっかり洗ってから料理することをおすすめします。筆者の経験上、洗った方がおいしく食べられます。粒がとても小さいので、普通のザルではなくて、茶こしなどの目の細いものを使いましょう。
養生のプロ中のプロでいらっしゃる気功師(かつ中医師)のお師匠直伝の粟粥の作り方をご紹介します。
【基本の粟粥】
・水700~1000ml(好みで調節)
(1) 粟を流水でよく洗います。
(2) 鍋に洗った粟と水を入れ、沸騰するまでふたをして強火にかけます。必ず水から煮るのがポイントです。
(3) フツフツとしてきたら、焦げないように鍋底からかき混ぜます。沸騰したら、噴きこぼれないようにふたをずらして中火に弱めます。アクはとってもとらなくてもOKです。
(4) たまにかき混ぜつつ、中火で約10~15分煮ます。途中で水分が足りないようだったら足してください。
(5) とろみが出てきたらふたをはずして、強火で5分くらいグツグツ煮立たせて水分を軽く飛ばます。ドロッとしたら出来上がりです(お粥自体に味付けはしません)
目的やお好みに合わせて、薬食をプラスします。例えば、カボチャや長芋などの食材をプラスする場合は、 (2)で一緒に鍋に入れて水から煮ればOKです。胃腸などの消化器系が弱い場合は、粟のほかにハトムギを入れるといいですね!
【試してみて! 粟粥のアレンジ例】
→[粟+白米]
B: 脾胃虚弱(消化器系が弱い人)の体質改善
→[粟+薏苡仁(ヨクイニン・はとむぎ)+好みで生姜・紫蘇の葉]
C: 脾胃虚弱で下痢しやすい人の体質改善
→[粟+長いも(山薬)+薏苡仁+蓮の実(蓮子)+芡実(ケンジツ)+茯苓(ブクリョウ)+栗]
D: むくみがあるとき/ジュクジュクした皮膚病&熱を持った皮膚病(湿熱)のとき
→[粟+薏苡仁+茯苓+小豆+緑豆+冬瓜などウリ系]
E: 熱をもって乾燥した皮膚病のとき
→[粟+薏苡仁+緑豆+長いも+白きくらげ]
F: アンチエイジング(補腎)&栄養豊富&解毒したいとき
→[粟+黒米+キヌア+長いも+ハトムギ+蓮の実(蓮子)+オニバスの実(芡実)+小豆+緑豆+栗など]
G:甘いお粥をおやつに食べたいとき
→[粟+なつめ(フォークでブスブス穴をあける)+竜眼肉+クコの実+蓮の実+甘栗](好みで蜂蜜、黒糖、ココナツシュガー、メープルシロップなどをかけてもOK。さらに、白きくらげを添えて真珠の粉末をふりかければ、本格的な美容サプリのようなおやつになります)
個人的には具材の種類が多すぎるとおいしくない気がするので、欲張りすぎないのも大事かなと思います。
以下の写真は筆者がよくいただく、粟、白米、ヨクイニン、緑豆、オニバスの実(芡実)のお粥です。ここに、古代米やキヌアを入れることもあります。こんなこともあろうかと撮っておきました!

ちなみに私が普段、粟粥を食べるときは、味付けはなしか、ほんの少しの腐乳(ふにゅう・豆腐の発酵食品)を添えます。腐乳は辛いものと辛くないものがあり、辛くない腐乳にほんの少し蜂蜜と胡麻油をかけると特においしいです。
粟はお粥にしたり、粟ぜんざいにしたり、お米と一緒に炊いたり、加熱した粟をサラダにかけたり、シチューに混ぜたりと、幅広く使えます。ぜひ、お試しあれ!
参考文献:
・小金井信宏(著)『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・丁光迪(著)、小金井 信宏(翻訳)『中薬の配合』東洋学術出版社 2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・翁 維健(編集)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2014年6月
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・許 済群(編集)、王 錦之(編集)『方剤学』上海科学技術出版社 2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年
・内山恵子(著)『中医診断学ノート』東洋学術出版社 2002年






