インタビュー 公開日:2021.01.22更新日:2021.09.13 インタビュー

患者になって見えたもの 薬剤師・スポーツファーマシスト・パラサイクリング選手 杉浦佳子さん

患者になって見えたもの 薬剤師・スポーツファーマシスト・パラサイクリング選手 杉浦佳子さん

【パラ金】杉浦佳子「何度失敗しても、大丈夫」高次脳機能障害を乗り越えた心のもち方

パラリンピック自転車競技の金メダル候補、スポーツファーマシスト、そして患者の気持ちがわかる薬剤師としての講演活動など、高次脳機能障害の後遺症を負いながらも前に進み続ける杉浦佳子さん。いくつもの挫折を味わい、それを乗り越えてきた経験から「失敗しても、大丈夫」と笑顔で話す杉浦さんに、キャリアについて伺った前半に続き、薬剤師としての心構えや患者の立場から見た理想の薬剤師像について伺いました。(2020年11月取材)

患者さんから学べることは無限大

――患者さんの立場になって初めて気づいたことはありますか?

自分自身が患者の立場になって感じたことは、患者さんは「生きていること」「日常生活を送ること」「病院・薬局へ来ること」それ自体がとても大変だし、苦労しているということです。病気や障害を持ちながら日常生活を送り、家事や仕事をする、これはとても大変なことです。

そうした中でもがんばって薬局へ来て、薬を受け取って、お金を払い「ありがとう」といってくれる。私はいつも「いやいや、私の方こそありがとう」と思うのです。薬剤師は薬の専門知識を持ち、日頃から勉強熱心で、どちらかというと「教えてあげている」「指導している」というスタンスになりがちですよね。

しかし、本当にそうなのでしょうか? 私達が持っているのは、あくまでも机上の知識。実際にその薬を飲んでいる患者さん自身の方が、詳しいことだってたくさんあります。私達、医療従事者は患者さんから教わることは無限にあるし、患者さんに向き合ってこその薬剤師です。そう考えると、おのずと患者さんに対しても尊敬の念を持つことができるのではないでしょうか。

プラスアルファのひと言が言える薬剤師でありたい

――杉浦さんが理想とする薬剤師像について教えてください。

単に薬の説明をするだけではなく、患者さんを元気にできる「プラスアルファのひと言」が言える薬剤師でありたい、と願っています。なぜなら病院へやってきた患者さんが明るい気持ちで帰ることができるのか、そうでないかは薬剤師のひと言にかかっているからです。

よく考えてみると薬剤師というのは、病院に来た患者さんが自宅に戻る前に、最後に関わる医療従事者です。体調が悪くて病院へ来る患者さんで、楽しい気分の人はあまりいないでしょう。暗い気持ちでのまま薬局をあとにして帰るのか、薬剤師から温かい言葉をかけてもらって、少しでも希望を持って帰るのか――これはまさに薬剤師にかかっている、といえるのです。

かける言葉は本当に何でもよいと思います。「今日は調子がよさそうですね」とか「その服、お似合いですね」など。いつも会っている患者さんに毎回、かける言葉などないと思うかもしれません。ですがいつも来てくれるからこそ「あ、普段と少し違うな」ということに気づけるはず。それこそが本当のかかりつけ薬剤師ではないかと思います。

――事故後の認知症テストでは0点。読み書きなども含めてリハビリで回復した経験から、認知症に関する講演もされているそうですね。

健康な人にとっては簡単だったり、当たり前なことでも、認知機能が落ちていたり、障害がある人にとっては必ずしもそうではありません。例えば私自身の体験からすると、道を歩いている時に「前から車が来ているよ」と言われても、車が来ているからどうすればよいかは判断ができないのです。「車が来る」イコール「ぶつかる可能性がある」ということが、頭の中で結びつかないのですね。そういう人に対しては「前から車が来ているから、左側に避けて」など、具体的に教えてあげる必要があります。

もう一つ具体例を挙げると、事故後は下着の身につけ方もわかりませんでした。何をどこに身につけてよいかがわからないのです。ですから「服を着てください」と言われても、どうすればよいのかわかりません。これは認知症などの高齢者でも同じ感覚だと思います。そんな時は、ぜひ一緒に下着を身につける動作をして「こうやってごらん」と教えてあげてはいかがでしょうか。

「何度失敗しても、大丈夫」

――アスリートから見た、スポーツファーマシストへの期待についても教えてください。

アスリートに対してスポーツファーマシストが関われることは非常にたくさんあります。スポーツファーマシストの役割は、単に「この薬が使えるか、使えないか」を判断するだけではありません。競技の種類によって、例えば集中力をより必要としたり、より落ち着きを必要としたりするなど様々です。使える選択肢の中から競技に合わせてベストな薬剤を選ぶことも、スポーツファーマシストに期待される役割です。

もっとも、アスリートの立場からすると、一番大切なことはやはり「応援してくれること」でしょうか。アスリートが力を発揮するのは、応援してくれる人がいるからこそ。薬のプロとして支えてくれると同時に、アスリートの活動を応援してくれれば、とても励みになりますね。

――杉浦さんのお話を伺っていると「誰かのために」や「相手に喜んでもらう」という思いが強いことが伝わってきます。それはなぜですか?

自分が生きている意味は「誰かを喜ばせること」にあると、常々感じているからです。自分の努力や行動が誰かの役に立ち、誰かのためになっているのなら、それが私にとっては最高の幸せです。これはアスリートにも薬剤師にも言えることです。

パラサイクリングの国際大会で優勝したり、パラリンピックで金メダル候補となることができたりしたのも、すべては応援してくれた人がいたから。私ひとりなら、辛い時にとっくに逃げ出しています。しかし、辛い時には応援してくれた人の顔を思い浮かべることで、乗り越えることができたのです。

取材当日も颯爽と自転車で現れた杉浦佳子さん。

薬剤師らしいカプセル柄の靴下がワンポイントに。

薬剤師については、私自身、本当に勉強したいと思うようになったのは働き始めてからです。学生時代はそれほど勉強熱心ではありませんでした。ですが現場で働き出して「この薬、あの患者さんが飲んでいるものだ」とか「この薬を使えば、あの人はもう少し楽になるかもしれない」など、患者さんの顔が思い浮かぶようになると、俄然として勉強する気が沸き起こりました。

――最後にこれからキャリアを築いていく薬剤師さんにメッセージをお願いします。

これからキャリアを作っていく若い薬剤師さんに、ぜひ伝えたいことは「失敗しても大丈夫」ということ。私自身、大学を中退したり、事故で障がい者になったり、これまで何度、挫折したかわかりません。ですが振り返れば「あの時、あの失敗があったからこそ、今の自分がある」と確信できるのです。

失敗したり挫折を経験したりしたら、当然、辛いと思います。ですが、心配しなくても大丈夫。どのような状況でも必ず、手を差し伸べてくれる人は見つかります。そして、その辛さはあなたを次の成長へと導いてくれるはずです。

撮影/和知 明[ブライトンフォト] 取材・文/横井かずえ 撮影協力/クロスコーヒー

▶杉浦佳子さんインタビュー【前編】を読む

杉浦佳子(すぎうら・けいこ)

薬剤師。スポーツファーマシスト。趣味で参加していた自転車レースの大会中に転倒し高次脳機能障害を負うも、懸命なリハビリによって奇跡的な回復力を見せ、パラサイクリングの道に進む。2017年、国際自転車連合(UCI)パラサイクリング・ロード世界選手権タイムトライアル優勝。2018年は同大会女子C2クラスのロードレース優勝。自身の経験を活かし、「アスリートの気持ちがわかるスポーツファーマシスト」「患者の気持ちがわかる薬剤師」として精力的に講演活動も行う。
https://www.parasapo.tokyo/messenger/messenger/sugiura/

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